幕間③ ルリと音羽の闇取引
音羽が日本へ帰る日が迫る中、いつものように配信の準備をしていた時だった。配信者専用SNSのアカウントにダイレクトメールが届いたことを知らせる通知が来た。
「あら? こっちのアカウントにDMが来るなんて、珍しいこともあるのね」
いくつかのSNSアカウントを運用する音羽だったが、該当のアカウントにDMが届くことなどほとんどなかった。なぜなら、登録者数が十万人を超えた配信者の中でも、運営が認めたものしか登録できないSNSだからだ。帰国準備を進めつつ、DMを開いた音羽の顔に笑みが浮かぶ。
「へえ、差出人は急成長中の配信者『ルリ』か……瑛士くんと一緒にいたあの子ね……わざわざ連絡をしてくるなんて、いい性格してるじゃない」
DMに書かれていた内容は「相談したいことがあるので、ビデオ通話がしたい」とのことだった。普段であれば軽くあしらって断りを入れるのだが……
「ふふふ……瑛士くんのことについて相談したいと言われたら、断る理由はないわよね。この間の質問箱はちょっとやりすぎちゃったかしら? でも、私の瑛士くんと馴れ馴れしくされるのは見過ごせないしね。どんな相談か知らないけど、大人の余裕というものを教えてあげないといけないかしら?」
不敵な笑みを浮かべながら指定されたIDを打ち込み、フレンド申請を送ると即座に承認の連絡が届く。
「そうだ! 今日の配信中止のお知らせを出しておかないと……配信よりも大事なことがあるもんね」
別ウインドで配信者専用画面を開くと『緊急事態発生のため、本日の配信はお休みです! ごめんね!』とアバターが手を合わせて謝るイラストと共にアップする。
「これで良しと……じゃあ、ルリちゃんとの対談に臨みますか! 楽しい夜になりそうね」
カメラをセットし、ヘッドセットをつけると画面を切り替える。ルリに「いつでも話せるよ」とDMを送るとすぐに返事が来た。
「なになに? 『配信おやすみさせてしまって申し訳ないのじゃ。憧れのミルキー先輩とお話できるのが楽しみなのじゃ! 今から通話に繋いでもよいかのう』って、憧れとか言われちゃったじゃない! この娘……ちゃんとわかってるわね。『もちろんいいわよ。楽しいお話をたくさんしましょう』っと……」
音羽が返事をするとすぐにビデオ通話申請が届く。迷うことなく通話ボタンを押すと、画面に金髪ツインテールの少女が映し出される。
(……緊張するのじゃ。けど、笑顔、笑顔なのじゃ!)
ルリは画面の向こうのカメラに向かって、ぎこちないながらも精一杯の笑みを作る。
ほっぺたが少し引きつるのを感じながら、彼女は小さな声で口を開いた。
「こ、こんばんはなのじゃ……憧れのミルキー先輩なのじゃろうか?」
「ふふふ。はじめまして、ミルキーだよ。これからは音羽って名前で呼んでくれて構わないわ」
「ありがとうなのじゃ! それなら音羽お姉ちゃんと呼ばせていただきたいのじゃ」
「え? お姉ちゃんって?」
「だめじゃったかのう……ご主人と仲が良いと聞いているし、幼い頃から一緒にいたんじゃろ?」
「そ、そうね! 一緒に過ごしてきたわ!」
「ならば家族同然じゃな! そうなるとわらわにとってお姉ちゃんのような存在なのじゃ」
(ちょっと! こんなの反則じゃない! 金髪幼女にお姉ちゃんって呼ばれたら……それに瑛士くんと家族同然ですって? ということはもう嫁認定ってことよね? いいえ、そうに違いないわ!)
音羽の妄想が爆発し、どんどん謎変換されていく。だらしない顔でニヤけていたら、ルリからさらなる追い打ちが襲いかかる。
「お姉ちゃんと呼んでもよいじゃろうか? 音羽お姉ちゃん?」
頬を赤らめ、上目遣いでお願いするルリの姿にノックアウトされる音羽。ニヤける顔を押さえつけようと、机に頭を打ち付けて悶えていると、慌てた声が聞こえてきた。
「ど、どうされたのじゃ? 音羽お姉ちゃん、大丈夫なのか?」
「あーーーー! もう死んじゃう!」
(な、なにごとなのじゃ!? やはりわらわはなにか失礼なことを……?)
音羽の絶叫が響き渡り、画面の向こうではルリが慌てふためいていた。二人がまともに会話を開始するまでさらに数十分を要した。
謎の作戦会議は音羽が帰国する日まで続き、瑛士の知らぬところで計画は着々と進行していった。
最後に――【神崎からのお願い】
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