第6話 すべて配信されていたという事実
「なんでお前たちは笑ってるんだ? そんなに面白いことなんてなかったはずだが?」
お腹を抱えて大笑いする二人を見て瑛士が怪訝な顔をしていると、音羽が笑いをこらえながら答える。
「あはは、まだ気が付かないなんて瑛士くんらしいわ」
「は? 気が付かないって何がだ?」
「ねえ、ルリちゃん。そろそろネタ晴らししたほうがいいんじゃない?」
目を丸くして聞き返す瑛士の様子を見て、ルリに問いかける音羽。
「そうじゃのう。わらわとしては面白いからどっちでもいいのじゃが……このままでは笑い死ぬかもしれんからのう」
「あはは! ルリちゃん、追い打ちはやめて……ぷっ」
ルリの返答がツボにはまったのか、笑いが止まらなくなる音羽。
「全く意味がわかんねーんだけど! いい加減何のことか教えろよ!」
笑い続ける音羽の態度に苛立った瑛士が怒りの声を上げる。すると、小さく息を吐きながらルリが呆れたように答える。
「のう、ご主人。ビームサーベルなんて代物が本当に存在すると思っておるのか?」
「あ? 何を言ってるんだ? 目の前にあるじゃないか」
緑色の輝きを放ち、今も音羽の右手に握られているビームサーベルを指さしながら声を上げる瑛士。するとルリが腕を組み、頷きながら話す。
「うむ、たしかにビームサーベルじゃのう」
「それ以外に何があるんだよ」
「ご主人……まさかその剣が機能すると思っておるのか?」
瑛士が真剣な表情で聞き返す。
「お前は何を言ってるんだ? さっき花瓶を一瞬で真っ二つにしたじゃないか。それが何よりの証拠だろ」
ドヤ顔で二つに切れた花瓶を指して、ルリに話しかける瑛士。すると額に手を当て、首を横に振りながら声を上げる。
「……ご主人、その花瓶をよーく見てみるのじゃ」
「は? お前は何を言って……」
ルリに促された瑛士が床に転がっていた花瓶を手に取ると、いきなり大声を上げる。
「なんだこれ! 花瓶じゃなくてプラスチックじゃねーか!」
震える両手に握られていたのは、精巧につくられた花瓶の形をしたプラスチックの容器だった。
「しかも切り口が両面テープで貼りつけてあるだと!」
「ようやく気が付いたのじゃ……そもそも、本物の花瓶なら床に落ちた後、粉々に砕けるじゃろうが」
「……」
言葉を聞いた瑛士は容器を持ったまま無言で俯く。そんな彼の様子など気に留めることなく、ルリの話は止まらない。
「そもそもじゃぞ。ビームサーベルなんて代物がヤプーオークションに出品されているわけがないじゃろうが。まだ誰も実用化に成功しておらんと聞くし、そんなものがあれば大ニュースになっていてもおかしくないじゃろ」
「……それじゃあ聞くが、あの緑色の刀身はどう説明するんだ?」
「ああ、あれは単なるライトじゃ。それっぽく見せるために、わらわがちょっと手を加えただけじゃ」
ルリが自慢げに語っていると、俯いていた瑛士の肩が小刻みに揺れ始める。
「じゃあ、なんだ……お前らは最初から俺を騙していたということか?」
「騙すとは人聞きの悪いことを言うのじゃな。ちょっとしたドッキリを仕掛けただけじゃ。まあ、おかげさまで良き配信にもなったしのう」
「は? 配信だと?」
配信という言葉を聞いて瑛士が顔を上げた瞬間、スマホが通知音を鳴らす。ポケットから取り出してロックを解除すると、同接中のリスナーからコメントが次々と書き込まれていく。
《チャットコメント》
『ご主人、マジで気が付いてなかったwww』
『ルリ様の演技がうますぎだろ』
『ビームサーベルの仕掛けが全然わからん』
『これは騙されても仕方ないw』
『花瓶が割れないところで気が付くだろw』
俯いたまま瑛士の全身が小刻みに震え始めると、低い声でルリに問いかける。
「なあ、いつから配信をしていたんだ?」
「ご主人に呼ばれる少し前じゃな」
「音羽は仮面を付けていなかったはずだが……?」
「ああ、角度を調整して顔が映らないようにしていたのじゃ。それに、新機能として都合の悪い単語に関しては音声を拾わないようにしてあるのじゃ」
「なるほどな。俺の間抜けな様子をみんなで楽しんでいたというわけか……」
ドンドン低くなる瑛士の声を聞いて、ルリもさすがに異変を感じ取る。
「ご主人? どうしたのじゃ?」
ルリの問いかけに顔を上げると、怒りに満ちた表情で睨みつける瑛士。
「どうしたもこうしたもねーよ! ふざけるのもいい加減にしろ!」
スマホを握りしめて鬼の形相で叫ぶ瑛士に対し、口を空けたまま不思議そうに聞き返すルリ。
「どうしたんじゃ? そこまで怒ることでもないじゃろ」
「あ? 何がドッキリだ……いい加減堪忍袋の緒が切れた! 今日という今日は……」
怒りが爆発した瑛士が、ルリに跳びかかろうと両手をあげた時だった。いきなり言葉が途切れ、その場で固まったまま動かなくなる。
「あ、あれ? ご主人、どうしたのじゃ?」
「ふう、間に合ってよかったわ。まったく……ちょっとした冗談なのにルリちゃんに掴みかかろうとするなんて」
瑛士の背後から現れたのは、狐のお面を顔につけた音羽だった。
「音……いや、ミルキー先輩! いったいご主人はどうしたのじゃ?」
「え? ああ、あまりにもうるさかったからちょっと固まってもらったのよ……魔法を使ってね」
音羽がウインクしながらルリに小声で話しかける。すると何が起こったのかわからないリスナーのコメントが次々と書き込まれる。
《チャットコメント》
『え? ご主人さんどうしたの?』
『なんかよくわからないけど、ミルキーさんが来た!』
『スゲー! こんな演出初めて見た!』
『これ配信だよね? ご主人の演技力高すぎ』
いつの間にか左手に持ったスマホを眺めていた音羽が、嬉しそうにルリに話しかける。
「ルリちゃん、見て! めっちゃ伸びているわ!」
「ほんとなのじゃ! ところで、ご主人は大丈夫なのかのう?」
「あーうん、まあそのうち動き出すんじゃない?」
ルリの問いかけに目を逸らしながら答える音羽。
「まさか……解除の仕方がわからないとかいうオチじゃなかろうか?」
「だ、大丈夫よ……一応、読書魔法の一種だから……うん」
「それならいいのじゃが……」
ジト目で見つめるルリに対し、乾いた笑みを浮かべて視線を合わせようとしない音羽。
何も知らないリスナーたちがどんなトリックかコメント欄で盛り上がる中、瑛士は無事に動き出すことができるのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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