第7話 謎の襲撃者の正体
「ご主人、ケガはないか?」
「大丈夫だ。ありがとう、お前のおかげで助かったよ」
焦げたような匂いが立ち込める中、二人は互いの無事を確認し合った。
瑛士は地面に手をついて立ち上がりながら、未だ姿を見せない襲撃者の気配に意識を集中させる。そして、語気を強めて声を張った。
「不意打ちとはずいぶん卑怯な真似をするんだな。堂々と姿を現したらどうなんだ?」
「避けること前提で攻撃したんだから問題ないでしょ? この程度でどうにかなるほど腕が落ちちゃったのかな、瑛士くん?」
ボイスチェンジャーのような加工された声で、皮肉たっぷりに返ってくる。
まともに取り合うつもりがないのは明白だった。正体を徹底的に隠し、かつこちらの動きを読んだかのような攻撃。相手が一筋縄ではいかないことを悟った瑛士は、視線を一瞬ルリに向けた。
「こちらの質問に答える気はゼロか……せめてルリだけでも逃がすのが得策か、それとも……」
この場を切り抜けるための策を練ろうとしたそのとき、ルリが真剣な面持ちで声をかけてきた。
「ご主人、まさか……またわらわだけでも逃がそうとか考えておるんじゃなかろうな?」
「お前にはお見通しか。相手がどこにいるのか、何をしてくるのか予想できないからな。二人とも共倒れになるよりはマシだろ?」
しかし、ルリは小さく首を振り、思い詰めたような声で返す。
「お主というヤツは……本気で相手が誰だかわかっておらんのか?」
「は? どういうことだよ?」
瑛士が目を見開く。思わぬ一言に脳裏に浮かんだ複数の可能性が、ひとつに収束していく感覚。
「ほんとにご主人は鈍感じゃのう。ピンポイントでご主人を狙った攻撃、名指しで話しかけてくる……もう一人しかおらんじゃろ」
確かに、敵の動きにはどこか懐かしさすら感じる“癖”があった。
「ちょっと待て! お前の仮説が正しかったとしても……なんでこの場所にいるんだよ?」
「それは本人から聞いた方が早いというヤツじゃないかのう。それで、どうするんじゃ? 相手は明らかにこちらより上手。わらわの魔法で叩きのめすことも可能じゃが?」
ルリが挑発的な笑みを浮かべる。だが、瑛士は顔をしかめるばかりだった。相手が誰かもしれないという確信と、それに伴う戸惑いが彼の中でせめぎ合っていた。
「お前の言いたいことはわかった。でも俺は……」
そのとき、再びあの電子的な声が空気を切り裂くように響いた。
「あら? 私のこと無視してさみしいな。それによそ見していて大丈夫かな?」
その瞬間、閃光が走ると瑛士の目の前でルリが仰向けに倒れた。
「ルリ! 大丈夫か? しっかりしろ!」
「……ご主人、す……まぬ……油断してお……った……」
「しっかりしろ! いいからもうしゃべるな!」
血のような赤い液体がルリの口元から滴り落ちる。瑛士の喉元が締めつけられるような感覚に襲われた。
「なんでルリが……絶対に許せん!」
怒りが爆発する。全身から立ち昇るような殺気。怒りのオーラが彼を包み込んだその瞬間、ルリが最後の力を振り絞って叫んだ。
「ご、ご主人……頼む、わらわを読んでくれ……」
「こんな状況で何を……」
「今だからじゃろうが! ご主人の気持ちは分かっておるが、全滅しては元も子もないぞ……ゲホッ……頼む、わらわを読んでくれ」
その懇願に、瑛士の拳が震える。迷いと怒り、無力感が胸の奥でぶつかり合っていた。
「あれあれ? 二人で内緒話をしてるのはよくないよ。そうだ! 瑛士くんが本気を出せるように、あの目障りな金髪を排除しなきゃね……」
「お、おい! やめろ!」
土煙が渦を巻き、上空に現れたのは黄金色に輝く無数の槍。その刀身には電撃が纏わりつき、二人へと照準を合わせていた。
「うそ……だろ……」
「それじゃあ……バイバーイ、お二人さん」
降り注ぐ死の光景──だが、直前で槍は空中で止まった。
「俺だけならまだしも、無関係なルリまで巻き込んだのは許せねえ……二度と使いたくなかったが、本気を出させてもらうぞ!」
立ち上がる瑛士の前に、一冊の本が光を放って現れる。
「読書」
左手をかざして詠唱。ページが風にめくられるように一気に開かれていく。
「さすがにやりすぎたな。後悔は地獄ですればいい……百三十九ページより権限せよ、天空の刃」
「え、ちょっと……これはかなりヤバいんじゃ……話が違うわよ」
狼狽する声に構わず、詠唱は完了する。
「大丈夫だ。非殺傷魔法にしておいたからな……まあ、多少のケガは我慢しろ!」
左手を振り抜いた瞬間、光の矢が庭中に降り注いで閃光と轟音が支配する。
「ふう……これで終わったか」
息を吐いてその場にへたり込む瑛士。浮かんでいた本は静かに閉じ、霧のように消える。
「やっぱり読書魔法を使うと一気に疲れるというか……」
「この大バカ者! やりすぎじゃ!」
瑛士の頭にゲンコツが落ちる。
「いてっ! ってルリ? 無事だったのか?」
「無事も何も最初からケガなんぞしとらんわ。それにいきなり上級クラスの魔法を使いおって……少しは手加減をせんのか!」
「なんで手加減なんかする必要があるんだよ!」
怒りをぶつけようとした瞬間、瑛士の首筋に冷たい刃物のような感触が伝わる。
「もう、瑛士くんったら……私の心配はしてくれないのね?」
振り返ると、そこには幼馴染の『音羽』が微笑んでいた。
「心配もくそも無いだろ……そもそも、なんでお前が日本にいるんだ? 音羽!」
「うむ、サプライズ大成功じゃな! 音羽お姉ちゃん!」
ルリの口から、信じられない言葉が飛び出した。
「おーまーえーらー! ……どういうことか説明しろ!」
瑛士の怒号が、ご近所中に響き渡った。
音羽はどうやってルリと知り合ったのか──
この後、瑛士の精神力が一気に擦り減ることになるのだった……
最後に――【神崎からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




