第5話 ついに出発できる……のか?
「さてと……みんな準備はできたか?」
玄関で荷物を持った瑛士が家の中へ問いかけると、奥から二人の人影が現れる。
「準備万端なのじゃ! さあ、わらわの神がかった伝説が幕を開けるのじゃな!」
「お前が張り切るとろくなことが起こらないからな……ほんと慎重に動いてくれ、ルリ」
「むっ、聞き捨てならないのじゃ。わらわがいつ失敗したというのじゃ!」
「自分の胸によーく聞いてみろ……」
ふてくされたように頬を膨らませ、そっぽを向くルリ。その様子を見て額に手を当てて大きくため息を吐く瑛士に対し、静かに見守っていた人物が声をかける。
「今のは瑛士くんの言い方がよくないわよ」
「じゃあどうしろっていうんだよ……毎回被害にあうのは俺なんだぞ、音羽?」
瑛士が苛立ったような視線を向けたのは、黒いゴスロリ服を着て頭に狐のお面をつけた音羽だった。
「そんな……瑛士くんがいつも進んで犠牲になっていると思っていたのに……」
「ちょっと待て、どうしたらその認識になるんだよ?」
「え? だってか弱い女の子を守って痛めつけられるのは、男性にとってご褒美なんでしょ?」
「何でそうなるんだよ!」
「有名な名言があるじゃない。『我々の業界ではご褒美です!』って知らないの?」
「知りたくねーよ!」
瑛士の絶叫が玄関に響き渡る。その言葉を聞いた音羽は、両手を握りしめると口元にあてて上目遣いで訴える。
「でも~私も万が一のことがあるかもしれないし、守ってくれる……よね、瑛士くん?」
「いや、音羽に限ってはその心配は皆無だろ……」
猫なで声で訴えかける音羽に対し、思わず本音を漏らす瑛士。しかし、すぐに失言だったと気が付くがすでに手遅れだった。
「へえ……私のことはどーでもいいってことなんだ……」
「あ、いや、そういうことじゃなくてだな……」
「いいのよ。迷宮内では自己責任が基本だもんね……」
俯くとスカートのポケットから棒状の機械を取り出す音羽。
「音羽さん? いつの間にか右手に握られている機械はいったい何でしょうか?」
謎の機械を見て、恐る恐る問いかける瑛士の額から一筋の汗が流れる。
「これ? ネットで見つけたんだけどね、護身用のビームサーベルらしいの」
「なんでそんな物騒な物が売っているんだよ!」
「普通にヤプーオークションで出品されていたわ。ちょっとお値段は高めだったけど、性能はすごいのよ。岩でもなんでも切れないものは存在しないって書いてあったの」
「いやいや、いろいろまずいだろ! ってか、オークションで売っていること自体どうなんだよ!」
右手を指さしながら必死にツッコミを入れる瑛士に対し、不思議そうに首を傾げる音羽。
「何かおかしなことでもあったかしら?」
「ツッコミどころしかないだろうが! そもそもビームサーベルなんて映画の世界でしか存在しない代物だろ……」
「瑛士くん、気持ちはわかるわ。私も最初は騙されたと思ったんだけど、実際に使ってみたら結構ちゃんとしたものよ」
「……」
話を聞いていた瑛士が言葉を失ったまま固まると、得意げな表情で右手を体の前に突き出す音羽。そして、柄についている緑色のボタンを押すと、黄緑色の光を放つ刀が現れる。
「ははは、面白いおもちゃだな。柄の中にライトが仕込まれていて、光を放っているんだろ? ずいぶん子供だまし……」
笑みを浮かべた瑛士が話しかけると、音羽が無言で真横に剣を振り抜く。すると下駄箱の上に置かれていた花瓶が斜めに切れ、ゆっくりずれ落ち始める。
「……」
その光景を目の当たりにした瑛士が、目を見開いたまま固まってしまう。すると、切れ味を横目で確認した音羽が感心した様子で口を開く。
「うん、切れ味はまあまあかな」
「ちょ、ちょっと待て! なんで花瓶が真っ二つに切れているんだよ!」
「え? だから言ったじゃない。オークションで買ったビームサーベルだって」
「そういう問題じゃねーよ! そんな危なっかしいものが普通にあるオークションってありえないだろうが!」
我に返って大声で訴えかける瑛士に対し、呆れたような表情で話しかける音羽。
「だから言ったでしょ? 本物だって。あんまりにも信じようとしないから実演したまでよ」
「……ありえないだろ」
言葉を聞いて呆然と立ち尽くす瑛士に対し、二人のやり取りを黙ってみていたルリが口を開く。
「音羽お姉ちゃん、ずいぶん面白いものを手に入れたのじゃな! 護身用としてこれ以上ない武器なのじゃ」
「でしょ? 私もこんな掘り出し物が出てくるとは、予想外だったわ」
「そうじゃのう。わらわも面白そうな武器が出品されてないか、探してみるのじゃ」
「そうね。外の世界にはモンスターだけじゃなくて、他の危険もいっぱいあるからね。やられる前に殺ったもん勝ちよ!」
「あほか! なんでお前らの脳内はいつもデッド・オア・アライブの選択肢になるんだよ!」
笑顔で語りあうルリと音羽に対し、大声でツッコミを入れる瑛士。
「どうしたのじゃ、ご主人? そんなに叫んでばかりでは、迷宮攻略の前に力を使い果たしてしまうのじゃ」
「そうよ、もっとリラックスしないと。お楽しみはこれからなんだから」
「誰のせいでこうなったと思っているんだよ!」
再び瑛士の絶叫が玄関に響き渡る。その様子を見て、顔を合わせると思わず吹き出して笑いだすルリと音羽。
「あはは! 本当にご主人は面白いのじゃ!」
「ほんとね、瑛士くんをからかうのは飽きないわね」
お腹を抱えて大笑いするルリと音羽を見て、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まる瑛士。
この直後、二人からネタ晴らしをされて再び叫び声をあげると――まだ彼は知らなかった。
――迷宮攻略再開まで残り二時間――
最後に――【神崎からのお願い】
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