第4話 やっぱり最後はバレるんです
「いってぇ……ルリ、お前はなんの恨みがあって、いきなり手を離したんだ?」
思いっきり鼻のあたりを床に打ち付けた瑛士が、涙目になって訴える。しかし、ルリは意味がわからないといった様子で首を傾げている。
「何をそこまで怒っておるのか、さっぱりわからんのじゃ。別にご主人に恨みなんぞ無いぞ? わらわは翠の姿が見えたから、抱きかかえただけなのじゃ」
「だからといって、いきなり床に落とすこと無いだろうが!」
「むう、それは悪かったのじゃが……そもそも床で寝ているご主人が悪いのじゃ」
瑛士から文句を言われ、不貞腐れた様子で答えるルリ。
「俺だって好きで寝ていたんじゃねーよ! だいたいことの発端は……お前だろうが」
「はあ? なんでわらわのせいにされなきゃいけないのじゃ?」
「お前が音羽を焚き付けたせいでこうなったんだろうが!」
「それはご主人がアイスを取り上げるとか言い出すからじゃ。わらわは真実を音羽お姉ちゃんに伝えたまでなのじゃ」
胸を張ったルリが自信満々に視線を向けると、気まずそうな笑みを浮かべている音羽。
「まあ、なんというか……ルリちゃんが大切にしているアイスを取り上げるのは、良くないことだと思うわ」
「そうじゃろ、そうじゃろ。だから今回の件は全面的にご主人が悪い! それが全てなのじゃ!」
「はあ? それなら何してもいいってわけじゃないだろうが! そもそも音羽も……って、あれ?」
言葉を聞いて音羽にも抗議しようと声を上げる瑛士だったが、急に声のトーンが落ちると腕を組んで首を傾げる。
「そもそもなんで俺は床に倒れていたんだ? 音羽に詰め寄られて、何か話していたよな……たしかその後に眩しい光のような物が見えた気がするが……」
(あれ? もしかしてワンちゃん覚えてない可能性もあるのかしら?)
眉間にシワを寄せて必死に記憶を辿ろうとする瑛士を見て、音羽の表情が少しずつ明るくなり始める。
(このチャンスを逃すわけにはいかないわ。試しにネットで買った怪しい護身用グッズを試したとかバレたら、またややこしいことになりそうだし……このまま話を逸らすのが吉ね)
「瑛士くん、どうしたのかしら? 光が見えたって……相当疲れているんじゃない?」
瑛士の記憶があやふやになっている機会を逃すまいと、心配そうな顔で問いかける音羽。
「うーん、迷宮の準備で最近忙しかったからな。でも、見たこと無いような光を見たような気がするんだよ。電気が弾けるような感じだったような……」
「で、でもさ、電気を使うような大掛かりな機械があればすぐわかると思うよ?」
「まあ、そうだよな……気にし過ぎも良くないな」
「そ、そうよ! うちには翠ちゃんやルナちゃんもいるわけだし、そんな危なっかしいものがあったらまずいでしょ」
うまく気を逸らすことができて、ホッと胸を撫で下ろす音羽。しかし、安心したのもつかの間、瑛士の口から鋭い一言が飛んでくる。
「また音羽がネット通販で、変なもの買ったのかと思ってさ。この間のペットカメラの件もあったし」
瑛士の言葉を聞いて、音羽の表情が一瞬凍りつく。
(……何でそんなこと覚えてるのよ)
「あはは……そ、そんな事もあったわね。でも、大は小を兼ねるっていう言葉もあるし、高性能モデルのほうがいろいろ便利でしょ? ルリちゃんが一人でお留守番することもあるんだし」
引きつった笑みを浮かべた音羽が話を振ると、腕を組んで大きく頷いたルリが口を開く。
「音羽お姉ちゃんの言う通りなのじゃ。わらわが一人で家にいることもあるじゃろうし、ルナや翠がお留守番することもある……カリスマ配信者を一目見ようと押しかけてしまう下僕がいないとも言えないのじゃ」
「……ま、まあ最近は物騒なニュースも多いからな」
ルリの話を聞いて、瑛士も真剣な表情で頷く。迷宮が出現したことによって配信者も増えた裏で、ファンの暴走による付きまといや住所の特定などの事件も増えてきていた。先日もヤバターとは別の炎上系配信者が、被害者の報復にあったという事件が起きたばかりだった。
「うむ。まあ、わらわたちが一般の犯罪者ごときに遅れを取るなどありえないのじゃが、万が一があるからのう」
「万が一ね……」
「そうじゃぞ? こんなか弱い女の子が二人もいるのじゃ。なにか事件が起きてからじゃ遅いのじゃ」
「……どこがか弱いんだよ……」
ルリの話を聞いていた瑛士は、額に手を当てて俯くと大きなため息を吐く。
「む? どうしたのじゃ、ご主人?」
「いや、なんでもない……お前の言うか弱いと、俺の認識があまりにもかけ離れているみたいでな」
「なにか引っかかるのじゃが……まあ、そんなこともあり、いろいろ音羽お姉ちゃんと一緒に防犯対策を進めておるのじゃ」
「ソウデスカーホドホドニシテオイテクダサイネー」
胸を張って話すルリに対し、大きく項垂れながら話す瑛士。そのままキッチンの方へ足を進めようとした時、足元に見慣れない紙が落ちていることに気がつく。
「ん? なんだコレ? ヤプーショッピングの納品書?」
取り上げた紙はネットショップからの納品書だった。明細を眺めていると、気になる商品名が目に留まる。
「一撃で記憶まで吹き飛ばす威力! 軍事用スタンガンセット……? 音羽……これは一体どういうことだ?」
「さ、さあ、なんのことかしら? 間違っても瑛士くんで試してないわ」
「ちょっとまて……謎の光、あやふやな記憶、気がついたら床に寝ていた……って、全部ビンゴじゃねーか!」
「あら~そんな偶然もあるのね」
どんどん怒りの表情に変わる瑛士に対し、白々しい声を上げながら目を背ける音羽。二人の様子を見て、ルリは大きなため息を吐きながら呟く。
「やれやれ……いつもの夫婦喧嘩が始まったのじゃ……今日は長くならないといいのじゃが」
言い争いを始める二人を無視して、窓際に立つと朝日に照らされる迷宮を見つめるルリ。
「いよいよ明日から攻略再開なのじゃ。飯島女史が率いる連中と激突するのは時間の問題じゃ。なんとしてもヤツラより先にわらわの欠片を回収せねば……」
禍々しく佇む迷宮を睨みつけるルリに宿るたしかな決意。
いよいよ迷宮攻略再開の幕が開けようとしていた。
ーー迷宮攻略再開まで残り二十時間ーー
最後に――【神崎からのお願い】
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