閑話⑰-7 新たなカリスマ配信者誕生?
瑛士と音羽が迷宮攻略再開に備えて買い出しに出かけたある日の午後、二人を見送ったルリは自室に戻るとパソコンの電源を入れる。
「さてと、ご主人たちは買い出しに行ってしばらく帰ってこんじゃろうし……わらわもゲリラ配信というものをやってみるのじゃ」
ファンに黙ってゲリラ配信をすることは邪道と思っていたルリだったが、先日たまたま視聴した配信を見て少し考えが変わり始めた。
「下僕どもに黙って配信をするなど、気が進まなかったのじゃが……新たな出会いもあるというのは面白い。普段とは違う声を拾い上げるのも、カリスマ配信者としての責務じゃからな。先日見た光坂とかいう配信者はすごかったからのう。思わずわらわもチャンネル登録をしたのじゃ」
ルリが口に出した配信者というのは、最近人気急上昇している銀髪ツインテールの女の子だった。ゲーム攻略とリスナーとの雑談がメインの配信だが、人気の理由は光坂自身に由来するものだった。
「わらわでも下僕どものコメントをすべて拾い上げることは不可能なのじゃが、この配信者はどんな些細な物にもちゃんと答えているからすごいのじゃ」
感心したような口調でルリが話すように、光坂はコメントしたリスナー全員にコメントを返していた。また彼女は見た目通りのツンデレキャラでありながら、かまってもらえないとすぐ拗ねてしまうという点も人気が爆発した理由の一つだった。当然、そのようなキャラクター性に対し、面白く思わないアンチも少なくないのだが……
「光坂のすごいのはアンチに対してもきちんと向き合っておるからのう。どこかのアバターを使っている高飛車な配信者に見せてやりたいものじゃのう」
立ち上がったパソコンを操作しながら、ルリが遠い目をして呟いた時だった。部屋の外から何かが近づいてくる気配を感じると、扉をひっかくような音が響き始める。
「ん? もしかしてルナか?」
「キュー!」
突然現れた来訪者に声をかけると、元気よく鳴き声を上げるルナ。椅子から立ち上がり、扉を開けると勢いよくルリの胸に飛び込んできた。
「ふふふ、どうしたのじゃ? そんなに慌てなくともわらわはどこにもいかんぞ」
「キュー、キュキュキュ」
「ふむふむ、配信をする気配がしたから自分も参加したいといっておるのか」
「キュー! キュキュ、キュー!」
「ははは! 下僕どもにお礼が言いたいとは律儀な奴なのじゃ! いいじゃろう、一緒に配信に出演するのじゃ」
「キュー!」
言葉を聞いたルナは、嬉しそうに体を伸ばすとルリのほほを一生懸命舐め始める。
「くすぐったいのじゃ。嬉しさが爆発しておるのはよくわかるのじゃ」
「キュー、キュキュ」
「そういえば、翠はどこに行ったのじゃ?」
「キューキュキュ」
「ふむふむ、一緒におやつを食べていて、遊ぼうと思ったら寝てしまったんじゃな。まあ、子猫じゃから仕方ないじゃ」
「キュー、キュ」
「わらわの姿も見えないから、部屋に来たということか。寂しい思いをさせてすまなかったのじゃ」
ルリが申し訳なさそうに謝ると、慰めるようにルナが顔を擦り付けて寄り添う。
「ありがとうなのじゃ。今日の配信は予告なしのゲリラじゃから、ルナが来てくれるのはすごくうれしいのじゃ」
「キュー? キュキュキュ!」
「そうじゃな。ルナも頑張ってくれるのはすごく心強いのじゃ! さあ、今日も一人でも多くの下僕を悩みの沼から救い出すのじゃ!」
「キュー!」
気合を入れるように声を上げて顔を見合わせると、ルリが思わず吹き出してしまう。その様子を見たルナが不思議そうな顔をして首をかしげていると、優しく頭を撫でられる。
「何でもないのじゃよ。さて、そろそろ始めようかのう」
ルナを抱きかかえてゲーミングチェアにルリが座ろうとすると、ルナがデスクの上に飛び乗る。
「さあ、配信画面を開いて……っと、ルナ。ちょっと申し訳ないのじゃが、マウスを動かしたいから反対側に移動してほしいのじゃ」
「キュー」
言葉を聞いたルナが反対側に飛び移ったとき、アクシデントが起こる。モニターに設置されたカメラがわずかに触れ、画角が変わってしまったのだ。しかし、初めてのゲリラ配信でいつもと違う設定に四苦八苦していたため、気づいていなかった。
「……やっとできたのじゃ! いつものように枠を立ててからじゃないから、手ごわかったのじゃ」
体をのけ反らせて声を上げると、ルナが心配そうに鳴き声を上げる。
「キュ……キュキュ?」
「ああ、大丈夫じゃよ。いつもとは勝手が違ったから手間取っただけじゃ。さあ、配信を始めるのじゃ!」
「キュー!」
ルリが声をかけると同時に配信開始のボタンを押すと、ルナの顔がドアップで画面に現れる。
「な、なんじゃこれは!」
びっくりしたルリが慌ててカメラを確認すると、カメラの固定器具が本来曲がらない方向へ向いていた。
「な、なんで曲がっておるのじゃ! 無理に戻そうとすると壊れてしまいそうじゃし……仕方ない、このまま配信を続けるしかなさそうじゃのう」
あきらめたルリがそのまま配信を開始すると、コメント欄が「ウサギさんが可愛い!」というコメントであふれかえる。
「まだ一言も話しておらんのにどうなっておるのじゃ……これはルナ専用の配信チャンネルも用意したほうが良いのじゃろうか?」
画面を眺めていたルリが視線を送ると、首をかしげて不思議そうな表情をするルナ。その様子を見た視聴者からコメントとスパチャが殺到し始める。
この時ルリは気が付いていなかった――後日作製されたルナのチャンネルの登録者数が、配信サイト開設以来の快挙を成し遂げることになるとは……
最後に――【神崎からのお願い】
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