閑話⑰-6 ルナと翠の作戦会議②
瑛士たちが限定配信を視聴しているころ、庭に建てられた建物の中でルナと翠による密談が行われていた。
「ねえねえ、いつになったらあの大きな遊び場に行けるのかな?」
「大きな遊び場って……迷宮のことか?」
目を輝かせながら問いかける翠に対し、呆れた様子でルナが問いかける。
「そうそう! 思いっきり動いても怒られないし、遊んでくれる動物もたくさんいるからね」
「いや……あそこにいるのは動物じゃないんだけどな……」
ルナが何とも言えない表情で答えると、不思議そうに顔をかしげながら翠が話しかける。
「そうなの? たしかに瑛士兄ちゃんみたいにご飯をくれて、お世話をしてくれるわけじゃないし……何を言っているか分からないけど、なんか鬼ごっことかしてくれるんだよね」
「鬼ごっこじゃなくて本気で追いかけているんだと思うぞ……」
「えーだってちょっと走り回ったら、すぐに追いかけてこなくなるよ? あ、でも大きなワンちゃんみたいなのは結構しつこかったよね」
「……それはエリアボスだからな。縄張りを荒らすようなヤツが来たら誰でも怒るし、本気で狙われていたんだが」
「うーん、でもルナさんも一緒だったし。何かあっても助けてくれたでしょ?」
あっけらかんと話す翠を見て、項垂れて何も言えなくなるルナ。
「はぁ……少しは迷宮の危険度を感じてくれよ……」
「大丈夫だよ。いざってときはちゃんと助けるから」
「それはこっちのセリフだって! 最近はおかしなヤツラがもうろついているって話だし、どうやら前に話していた研究所にいた人間も動いているみたいだぞ」
大きくため息を吐き、ルナが呆れたように話しかけた時だった。それまで無邪気な返答を繰り返していた翠の目つきが鋭くなり、今まで聞いたことのないような声で話し始める。
「へえ……研究所にいた人間……ほとんどは怖くなかったけど、気を付けたほうが良さそうな人はごく一部いたかな」
「お前変わりすぎだろ……って、気を付けたほうがいい人間がいるだと?」
翠の変貌ぶりに驚いたルナだったが、聞き捨てならない言葉に思わず聞き返す。
「そうだよ。たしか白髪で全身真っ白な体をした、ルリお姉ちゃんくらいの男の子がいたんだ。とにかく無表情で何されても反応しないからすごく怖かったんだよね。一生懸命話していたのにずっと無視されていたし」
「な、なんだと? そんな人間は見たことないぞ……」
「めったに遭遇しなかったから知らなくても仕方ないよ。たまたま裏庭で日向ぼっこしていた時に、ロボットみたいな歩き方で研究所に入っていったから。あ、でも一人だけ頭を撫でてくれた人がいたよ」
(どういうことだ? ロボットみたいな人間がいて、一人だけ翠の頭を撫でていただと? いや、そもそもあの研究所にご主人様のような子供が出入りしている時点で不自然すぎるだろ……何をしていたのかよくわからんが、警備もやけに厳重だったし……)
話を理解できず、その場でルナ固まってしまう。すると、その様子を見た翠が不思議そうな顔で話しかける。
「どうしたの? 何かおかしなことでもあった?」
「ツッコミどころしかないのだが……」
「そう? 誰も遊んでくれないからつまらなかったんだよね。頭を撫でてくれた時も、どこか悲しそうな顔をしていたし」
呆然としているルナに対し、少し怒った様子で声を上げる翠。その様子を見て思わず声を荒げながら話しかける。
「いやいや、そこは怒るところが間違っているから! そんな怪しいやつらに近づいて、万が一のことがあったらどうするんだよ!」
「えー? 別に何もなかったからいいじゃん。まあ、危なくなったらすぐに逃げればいいだけだし」
「……」
呆れかえるルナのことなど気に留めることなく、翠は淡々と話していた。そして、話に飽きたのか大きなあくびをすると、体を丸め始める。
「ふぁーなんか急に眠くなってきちゃった。ちょっとお昼寝してもいい?」
「ちょっと待て! お前はもうちょっと危機感を持ったほうがいい……」
「危機感? 何それ?」
「いつも言っているように外には危険がいっぱいあるんだから……」
「そうなの? 瑛士兄ちゃんもいるし、何とかなるんじゃない?」
「……」
「ここにいればゆっくりお昼寝できるし、ご飯の時間になったら起こしてね」
呆れかえるルナを気に留めることなく、丸まって寝息を立て始める翠。その様子を見てため息を吐き、何とも言えない表情になるルナ。
(まったく……何も考えてないのか、本当に大物なのかわからないな。でも、一瞬見せた翠の表情は、無邪気さとはかけ離れた目をしていた……コイツは何かを知っているのは間違いない)
幸せそうな顔で眠る翠を見て、ルナは再び考えを巡らせる。
(研究所の人間が動き出したということは、近いうちに大きな激突が起こるのは間違いない……何としてもご主人の探し物を見つけなければいけないし、翠の秘めた力も必要になるだろう。問題はどうやって引き出すかだ……残された時間は少ないが、やるしかない)
力強く両前足で床を鳴らすと、引き締まった表情でルナが窓の外を見る。視線の先に映るのは、太陽の光に照らされた逆三角形の迷宮が鎮座していた。
(翠が持つ得体のしれない力が……切り札になるかもしれないな。できることなら、そんなことにならず、ご主人たちと楽しく過ごしたい……)
気持ちよさそうに寝息を立てる翠に対し、優しい視線を向けるルナ。
その心配が杞憂となるのか――答え合わせの時は確実に近づいてきていた……
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