第6話 瑛士VS音羽
「ん? ルナがどうしたのじゃ?」
ルリが不思議そうに聞き返す様子を見て、音羽が自信たっぷりな表情で話し始める。
「なんと、ルナちゃんは……雄だったのよ!」
「ああ、知っているのじゃ」
「そうでしょ! ビックリして……って、あれ?」
あっさりと返事をされ、呆気に取られる音羽。その様子を見たルリが首をかしげながら聞き返す。
「音羽お姉ちゃん、どうしたんじゃ? 豆鉄砲を喰らった鳩のような顔してるのじゃが」
「え? あ? うん、思った反応と違うというか……」
「そうじゃったのか。それは申し訳なかったのじゃ」
「ルリちゃんが謝る事じゃないんだけど……もっと、こう驚くかなって思ってね」
未だ戸惑っている様子の音羽を見て、両手を軽く叩いたルリが何かに気が付いたように声を上げる。
「あー! ルナの性別の話じゃったか!」
「そうそう! ルリちゃんはもう知っていたの?」
「うむ、最初から知っていたのじゃ。出会った時から勇敢に戦ってくれていたからのう」
「……そ、そうだったんだ……」
ルナを抱きかかえたまま膝から崩れ、床に力なく座り込む音羽。
「キュー? キュキュ」
彼女の異変を察知したルナが鳴き声を上げ、顔を上げると慰めるように音羽の頬を舐める。
「ルナちゃん、ありがとう。雄か雌かなんて些細な問題だもんね」
「キュー、キュキュ!」
まるで全て理解しているかのように音羽の頬に顔を擦り付けるルナ。優しい空気が流れ始めたタイミングで、瑛士が小馬鹿にしたように声をかけてきた。
「今までルナが雌だと思っていたのか? やれやれ……音羽らしくないな」
「それはどういう意味かしら?」
口元を吊り上げ、今までの仕返しと言わんばかりに口撃を続ける瑛士。
「まさか名前だけで判断していたわけじゃないだろ? こいつはすぐ怒るし、攻撃的だし、ルリにべったりだもんな」
「ギュー? キュキュ!」
「ほら見ろよ。今みたいに唸り声を上げるし、それにルリのことだとすぐにムキになるからな」
ここぞとばかりに言いたい放題言いまくる瑛士に対し、音羽は顔を俯かせると自らに言い聞かせるように呟く。
「大丈夫……そんなに怒らなくてもいいの。ここで怒ったり、声を荒げたら相手の思う壺……」
「ん? どうしたんだ、音羽。言いたいことがあるなら言えばいいんだぞ?」
珍しく反撃してこない音羽に対し、さらに調子に乗った瑛士が畳みかけた時だった。黙って聞いていたルリが口を開く。
「そのくらいにしておいた方が良いのじゃ。ご主人でも知らないことはあるのじゃからな」
「は? 何を言っているんだ? 俺が気が付いてないことなんてあるわけが……」
瑛士が勝ち誇ったような顔で答えていると、言葉を被せるように声を上げる。
「ご主人は翠が雄だと思っておるようじゃが、間違ってるぞ」
「は……? いやいや、お前は何を言って……マジ?」
「うむ、マジなのじゃ。翠はれっきとした雌の子猫じゃぞ。見分けは付きにくいが、まさか気がついておらんのか?」
「……ハハハ、ワルイジョウダンハヤメテクレヨ……ウソデショ?」
壊れたロボットのように首を動かしてルリを見ると、大きなため息を吐きながら答える。
「だからさっきから言っておるのじゃ。翠は女の子なんじゃと」
「うそだー!!」
大声を上げると頭を抱えて膝から崩れ落ちる瑛士。その様子を見ていた音羽とルナは、ゆっくり立ち上がると怪しげな笑みを浮かべながら話し掛ける。
「あれあれ? 瑛士くん、どうしちゃったのかな? 俺が知らないことは無いってさっき啖呵切ってなかったっけ?」
「キュー、キュキュキュ?」
「い、いやだな、そ、そんなこと、も、もちろん知っていたさ……」
息を吹き返した音羽たちに悟られるわけにいかない瑛士は、何とか反論しようとする。しかし、声は上ずり、言葉に詰まる様子にかなり分が悪いのは明白だった。
「へえ? そうなんだ。その割にはずいぶん顔色が悪いようだけど?」
「き、気のせいだろ……別に動揺しているわけじゃないぞ……」
「ふーん、それなら別にいいけどね。それよりも私たちに何か言うことがあるんじゃないの?」
音羽は意地の悪い笑みを浮かべ、膝を付く瑛士を見下ろして声をかける。
「何を言う必要があるんだ? 別に何か悪いことをしたわけではないんだしな。それよりもお前こそ俺に何か言うことがあるんじゃないのか?」
堪えきれなくなった瑛士が立ち上がって声を荒げたが、音羽も負けていなかった。
「はあ? 何で私が言葉をかける必要があるのかしら? 全く心当たりがないんだけど?」
「自覚が無いって怖いもんだな。今なら穏便に済ませてやってもいいんだしな、表に出されたらマズいものがあるのはそっちじゃないか?」
「それはお互い様でしょ? こうなったら白黒つける必要がありそうね」
「そっちがその気なら望むところだ……」
音羽の笑みは消え、瑛士の目には怒りが宿る。二人の視線が交わると、見えない火花が散るような緊張感が漂い始める。その様子を見ていたルリが呆れたように呟く。
「はぁ~やれやれなのじゃ……どうして二人とももっと仲良くできないのじゃろうか? まあ、どっちも似た者同士だから仕方ないかのう」
未だ睨み合ったまま動かない二人を無視して、タブレットを回収すると慣れた手つきで操作し始めるルリ。
「さてと……わらわもちょっと仕事を始めるかのう。いーちゃんの配信などどうでも良いが、こっちはちゃんと見ておかねばな」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟くと、ある動画サイトを開くルリ。
タイトルにはこう書かれていた――「謎の白服少年たちを追っていたら、閉鎖中の迷宮に潜入できた件」
最後に――【神崎からのお願い】
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