第3話 拾った切れ端の正体
ルリからコラボ配信の話を聞いてから、数日が経過した。再び迷宮へ向かうため、水や食料といった必需品の準備を二人で進めていた時だった。
「前回は二階層で思わぬハプニングがあったからな。今回はエリアボスの手前にあたる四階層まで進むぞ」
「わかったのじゃ。ご主人、聞いてもいいか?」
ペットボトルを鞄に詰め込んでいたルリが手を止め、瑛士に疑問を投げかける。
「ああ、何かあったか?」
「たしか三十階層までは探索が進んでおるのじゃったよな?」
「そう言ってたな。その先はまだ未知の領域らしいが」
「そこまで手が入っておるのに、なぜエリアボスという物騒な輩が徘徊しておるのじゃ?」
腕を組み、難しそうな顔で考え込むルリ。その姿を見た瑛士が荷造りの手を止め、話し始める。
「そうか、ルリにはまだ説明していなかったな。迷宮は一定時間が経過すると、モンスターたちが復活するんだよ」
「なんじゃと? 一定時間が過ぎると復活するじゃと?」
瑛士の返答を聞いたルリは、目を見開いて驚く。
「ちょっと待つのじゃ。一定時間経過して復活されたら、帰る時にまたそいつらを倒していかねばならぬぞ!」
「そう考えるのも無理はないな、普通なら。でもな、三階層以上には二つの出口があるんだ」
「二つの出口じゃと?」
「ああ、一つは二階層の入り口近くまで直通でつながっている階段。こっちは自力で降りていかないといけないが、ところどころに休憩や宿泊ができるスペースが設けられている」
「ふむふむ……たしかに何階層も進んだ後に休憩なしで帰るのはつらいものがあるからのう」
説明を聞いていたルリは腕を組んだまま、大きく頷いた。
「もう一つの出口は緊急脱出用だ。なぜかエリアボスのフロアにしか存在しない。どんな仕組みなのかは分からないが、魔法陣のような紋章の上に乗ると、迷宮の入り口近くに転送されるらしい」
「魔法陣のようなものとは興味深いのう。それも誰でも使えるという点が気にかかるのじゃ」
「ルリが疑問に思うのも無理はないな。魔法陣の仕組みについてはまったく解明されていないんだ。まあ、あくまでも緊急脱出用らしいから、使わないのが一番なんだがな」
小さく息を吐きながら答えると、瑛士は再び荷造りを始めた。その隣でルリは顎に手を当てながら、何やら呟いていた。そして何かを思いついたのか、いきなり手を叩き声を張り上げる。
「ふふふ……お前の考えることなど、すべてまるっとお見通……」
「その先は言わせねーよ! また変なこと思いついただろ! それよりそのセリフ、どこで覚えたんだ?」
「なぜ止めるのじゃ! せっかく事件解決の決め台詞を覚えたというのに、ひどいのじゃ……」
「なんでそんなマニアックなセリフなんだよ! だいたいお前がそのドラマを知ってるはずがないのに……」
瑛士が大きくため息をつきながら項垂れると、ルリが自信満々に答える。
「知りたいか? 先日、下僕どもから教えてもらったのじゃ。なかなか掛け合いも面白くてのう、なんでも主人公の相方が様々な体術の使い手でな。わらわも学ぶところが多かったのじゃ」
「ドラマで何を学んだんだよ……よりによって、あんな癖の強い……」
「合言葉は『なぜベストを尽くさないのか』じゃ! ご主人、なぜ読書魔法についてベストを尽くさないのじゃ!」
「人の話を聞いてないところまで真似するんじゃねーよ!」
リビングにルリの笑い声と、瑛士の悲痛な叫びが響き渡った。そんなやり取りを繰り返すこと数十分、疲れ果てて床に座り込んだ瑛士が先に白旗を上げる。
「はぁはぁ……準備していただけなのに、異常なくらい疲れたわ……」
「なんじゃ? この程度で音を上げるとは情けないのう」
「誰のせいだと思ってるんだよ……疲れたから休憩するわ。冷蔵庫のアイスもらうからな」
「あ! ずるいのじゃ! わらわも食べるぞ! 抜け駆けは許さぬ!」
瑛士がゆっくり立ち上がると、床へ一枚の紙が舞い落ちた。
「ん? 何か落ちたか?」
拾い上げた紙を見た瑛士は迷宮での一件を思い出し、ルリに問いかける。
「そうだった、聞くのを忘れてた。ルリ、本の切れ端みたいなものを拾ったんだが……これ、何か知らないか?」
「どれどれ……な、なんでご主人が持っておるのじゃ? どこで見つけたのじゃ?」
瑛士の手にある紙を見たルリは、目を大きく見開き、興奮気味に声を張り上げた。
「思った通りルリと関係があったか。この間、ホーンラビットに囲まれた事件があっただろ?」
「ご主人が気を失った時のことか?」
「そうだ。あの時、気がついたらあたり一帯のモンスターが一掃されていただろ? お前がトイレに走り去った後、突如として現れたんだよ」
「そうじゃったのか……もしかして何か声を聞いておらんかったか?」
真剣な眼差しを向けるルリを見た瑛士は、その時の様子を必死に思い出す。
「そういえば、何か不思議な声を聞いたな……『かけらを見つけてくれてありがとう……』とか言ってたような」
「そうか……やはり迷宮内に散らばってしまっておったのじゃな……」
瑛士の持つ紙を見つめていたルリの瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちる。
(迷宮内に散らばっている?)
「ご主人、見つけてくれてありがとうなのじゃ。本当に良かったのじゃ……もし、別の人間に渡っておったらと思うと……」
その場に崩れ落ちるように座り込んだルリの目から、大粒の涙が次々と流れ始める。瑛士は紙を握りしめたまま、彼女が落ち着くまで静かに見守った。
「少しは落ち着いたか?」
数分後、落ち着きを取り戻したように見えるルリに優しく声をかける瑛士。
「ありがとうなのじゃ。あまりの嬉しさに、感極まってしまったのじゃ……」
「そうか。落ち着いたところで申し訳ないが、この切れ端の正体は一体なんなんだ?」
「……その切れ端は……封印されたわらわの一部なのじゃ」
なぜ彼女は封印されなければならなかったのか――
ルリの口から、過去に起こった出来事が少しずつ語られ始めた……
最後に――【神崎からのお願い】
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