第2話 有名配信者と幼馴染
タブレットを握りしめ、真っ青な顔でソファーに座る瑛士。
「ん? ご主人よ、どうかしたのか?」
状況が理解できず、不思議そうな顔で問いかけるルリ。
「いや、この質問の内容に思い当たる節がありすぎてだな……嫌な予感しかしないんだよ……」
「何のことを言っているのか、さっぱりわからんのじゃが?」
瑛士の言っている意味がまるで理解できないルリは、頬を膨らませて不機嫌そうに答える。
「今から内容を読み上げてやるから、よく聞けよ。
『こんにちは、ルリちゃんの配信をいつも楽しく見ています。迷宮配信を始めたんだね。ところで、隣に映っている男の人って誰なのかな? 私の幼馴染にすごくよく似ているから気になっちゃった! 彼に聞いてほしいことがあるんだけど、お願いできるかな? もしかして、幼馴染の瑛士くんだったりする? そうだったら、小さい頃に誓った約束、覚えているかな? 万が一、幼馴染くんだったら……なんでルリちゃんの配信に出ているのかな? なんか、いろんな人からチヤホヤされて鼻の下伸ばしているみたいだけど? おかしいなぁ、私の留学が終わるまで“目立ったことはしない”って約束したよね? あ、そうそう。この間**、**殺害予告を送った人には、ちゃんとお・し・お・きしておいたからね。もうすぐ留学期間も終わって日本に帰るから、ルリちゃんと一緒にコラボ配信したいな! 迷宮攻略とか、面白そうだよね。……あ、もちろん相方の彼も一緒にね。じーっくり、お・は・な・し・をしたいからよろしく! 迷宮だったら、何が起こっても不思議じゃないもんね?』ってのが質問内容だ」
「そうか、わらわとコラボ配信をしたいというのじゃな! 大先輩と一緒とは、心躍る話ではないか! すぐに返事を――」
「だー! ちょっと待て! あからさまにやばいこと書いてあっただろうが!」
コラボ配信という言葉に表情を明るくするルリに、瑛士が慌てて静止をかける。
「なにかおかしなことでも書いてあったかのう?」
「どう見ても“おかしなことしか”書いてないだろうが! コイツには思い当たる節がありすぎるんだよ……留学してるとか、幼い頃の約束とか……絶対、近所に住んでた幼馴染の音羽だろ。昔からいろいろヤバい奴だったけど、まさか配信者になっていたとは……」
「なんじゃ? ご主人の幼馴染だったのか。なおさらきちんとご挨拶せねばならぬな!」
「なんでだよ! ちゃんと質問に書いてあった内容、理解してるか? この前、俺に殺害予告送ってきたやつがいただろ?」
瑛士の返答を聞き、ルリが顎に手を当てて考え込む。
「ああ、そんなアホもおった……気がするな」
「しばらく脅迫めいたメールが来てたんだが、ある日を境にピタッと来なくなってさ……で、同じタイミングで『ネットで誹謗中傷を繰り返していたと思われる男性が行方不明になった』ってニュースを見たんだよ」
「そんなこと、珍しくもなんともないじゃろ」
「普段なら俺も気にしなかったかもしれないけどな……そのニュースが放送される前日に、奇妙なメールがスマホに届いてたんだよ。『もう心配ないからね……ずっと見ているから』ってな……」
「ほほう。結果オーライではないか。どこの誰か知らんが、わざわざ危険を排除してくれるとはありがたいのう」
真っ青な顔で説明する瑛士に対し、満足げにうなずくルリ。
「お前な……怖すぎるだろ! 『ずっと見ている』って、誰に監視されてるんだよ! それに、全く見覚えのないアドレスからだったんだぞ!」
「まあまあ、たまたまかもしれんじゃろ? 最近流行りの迷惑メールというやつかもしれんしな。気にしすぎなんじゃよ、ご主人は」
「そのくらい呑気に考えていたいが……お前は音羽の怖さを知らないからな……」
「うむ、会ったこともないからな! それに、先輩と幼馴染が同一人物とは限らんじゃろ? それにメールは“迷惑メール”のフォルダに入っていたんじゃろ?」
「う……たしかに迷惑メールフォルダだった。まあ、お前の言うことも一理あるか……」
「そうじゃ。著名な大先輩とご一緒できる機会なんぞ貴重じゃぞ。それに向こうは顔出ししておらんしな」
ルリの言葉に納得しかけた瑛士だったが、ある一言が引っかかった。
「顔出ししていないのか? その、ミルキーなんとかって配信者」
「ミルキー・マジカル先輩じゃ。そうじゃよ、可愛いイラストのアバターというのかのう? ゲーム実況を中心に、いろいろ配信されておるぞ」
「そうなのか……顔出ししていれば本人か確かめることもできたが、仕方ないな」
「そういうことじゃ。納得したのであれば、わらわのタブレットを返すのじゃ。ミルキー先輩にコラボ配信のお願いをせねばならぬからな!」
早く返せと言わんばかりに両手を突き出すルリ。すっきりしない気持ちは残っていたが、瑛士は渋々タブレットを渡す。そのままルリは慣れた手つきで返信を打ち始めた。
「よし、返信完了じゃ。コラボ配信が楽しみじゃな! わらわくらいのカリスマともなると、相手もそれなりのレベルでないと釣り合わぬからのう」
「よく言うわ……そんなにコラボのお誘いって来てるのか?」
瑛士の問いかけに、ルリは当然のように答える。
「ん? お誘いは毎日来ておるぞ。まあ、登録者数が伸び悩んでおる配信者が多いな。わらわの人気にあやかりたいのじゃろ! モーゲンダッツ大食い配信とかなら、喜んでコラボするのじゃがな!」
「この間みたいに腹を壊す未来しか見えんぞ……それに、大食いするもんじゃないし」
「わらわと配信したいのであれば、まずは下僕たちを納得させるのが先決じゃ! おっと、次のゲーム配信の時間が迫っておるではないか! わらわはモーゲンダッツを食べて配信するという、重要なミッションを遂行せねばならぬ!」
ルリの高笑いがリビングに響き渡る。あっけに取られる瑛士を無視し、冷凍庫からモーゲンダッツを三個持って自室へと戻っていく。
「三個は食べすぎだ……って、聞こえてねーか……しかし、有名配信者とのコラボか……ん? あれ? そういえば、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
瑛士が疑問に気づいたそのときには、すでに遅かった。
彼にとって悪夢の“再会”となる日が、着実に近づいてきていた――
最後に――【神崎からのお願い】
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