閑話⑪ー2 瑛士の災難再び
「景色も堪能したことじゃし、そろそろアイスを……ってご主人は何をしておるんじゃ?」
窓から見える絶景に釘付けになっていたルリが振り返ると、なぜか床に正座させられている瑛士の姿があった。
「……見ての通りだよ……」
「いや、全く分からんのじゃが?」
意味が分からずルリが首をかしげていると、険しい顔をした音羽が声をかけてきた。
「ルリちゃん、景色は楽しめた?」
「もちろんなのじゃ! こんなすごい景色を見たのは初めてなのじゃ!」
「良かったわ。展望フロアは無料だから、いつでも見に来れるわよ」
「そうなのか? 近い将来、この世界がわらわの手中に収まるかと思うとワクワクが止まらないのじゃ!」
「なんでお前が支配することが前提なんだよ……」
腕を組みながら胸を張るルリに対し、正座したまま瑛士がツッコミを入れる。
「わらわに不可能などないのじゃ。そういえば音羽お姉ちゃん? 何でご主人は正座しておるんじゃ?」
瑛士の言葉を聞いたルリが、隣にいた音羽に問いかける。
「ああ、ちょっとしたお仕置きよ。私が隣にいながら女子大生に声をかけられて、鼻の下を伸ばしていたからね」
「ちょっとまて。俺は写真を撮ってあげただけだろ!」
「え? 何を言っているのかわからないわ。その後お茶に誘われて、嬉しそうにデレデレしていたのは誰だっけ?」
「デレデレなんてしていないだろうが! ちゃんと連れがいるからって断っていただろ!」
誤解を解こうと瑛士が必死に訴えるが、聞く耳を持たない音羽には届かない。
「連れがいる? 私のことを“連れ”で済まそうなんてひどいわ……」
「いや、何も間違ってないだろ……」
「何を言っているの? 幼いころに将来を誓い合った仲なのに……」
「いつの話だ……それにあの人たちだって『一緒にどうですか?』って言ってただろ?」
「ふっ……そんな安い手に乗るほどバカじゃないわ!」
「何をどう解釈したらその結論になるんだよ!」
遠い目をしながら明後日の方向を見る音羽。必死に瑛士が訴えかけていると、ルリが肩に手を置きながら語りかける。
「なるほど……ま、ご主人が悪いという事でいいのじゃな?」
「どうしてそうなるんだよ!」
二人を交互に見て大きく頷きながら納得するルリに対し、展望フロアに瑛士の絶叫が響き渡る。すると、迷惑そうな顔をした音羽が話しかける。
「瑛士くん、ここは公共の場だから、もう少し声のトーンを抑えたほうがいいわよ」
「お前らのせいだろうが!」
瑛士が声を荒げると、背後からすさまじい圧を感じた。恐る恐る振り返ると、満面の笑みを浮かべた見覚えのある警備員が二人立っていた。
「お客様、大きな声を出されるのは他のお客様のご迷惑になりますので。ちょっとお話よろしいですか?」
「え、あ、これには訳が……」
滝のような汗をかく瑛士を無視し、両脇をしっかり掴むとそのまま連行されていった。
「ルリ、音羽、ちょっと説明してくれ……」
瑛士の情けない声が響く中、スタッフ専用入口の方に引きずられていく。
「あーやっぱりこうなっちゃうか」
「まあ、あれだけ大きな声を出したら通報されても仕方ないのじゃ」
扉の奥に消えていく彼の姿を見ながら、音羽とルリは小さく息を吐く。すると足元にいたルナと翠が短く鳴き声を上げる。
「キュー」
「ニャー?」
「ん? 心配する必要ないわ。お話が終われば戻ってくるからね。さ、待っている時間がもったいないから、アイスでも食べながら待ちましょう」
「それは名案なのじゃ! あ、でもご主人とのバトルはどうするのじゃ?」
「あー瑛士くん、連れていかれちゃったしね。不戦敗でルリちゃんの勝利でいいんじゃない?」
「なるほどなのじゃ! わらわに恐れをなして逃げたという事にしておくのじゃ」
「キュ、キュー!」
「ニャ、ニャー!」
ルリの高笑いが響き始めると、つられたようにルナと翠も鳴き声を上げる。そのまま二人と二匹は展望フロアの一角にあるアイスクリーム屋を目指して歩き始めた。
こってり絞られた瑛士が戻ってきたのは数時間後のことだった。なぜか両手に大量の冷たい缶コーヒーを抱えたまま……
「あら? 遅かったわね」
「『遅かったわね』じゃねーよ! 何で誰も迎えに来てくれないんだよ! ルリ、今から勝負するぞ!」
「わらわは別にかまわんが、もうオーダーストップみたいじゃぞ?」
瑛士が店のカウンターに目を向けると、『本日の営業が終了しました』の看板が掲げられていた。
「……どうして……」
膝をついて項垂れる瑛士の肩に優しく手を置いて、菩薩のような微笑みを浮かべて語りかける音羽。
「大丈夫よ。営業は終わったけど、勝負に負けたわけじゃないのよ」
「音羽……お前はわかってくれるのか……」
「ええ、瑛士くんの“缶コーヒー一気飲みチャレンジ”の開幕だもんね! ルリちゃん、配信の準備はいい?」
「いつでもオッケーなのじゃ!」
「なんでそうなるんだよ!」
瑛士の絶叫が響き渡る中、着々と配信の準備を進める二人。
この日を境に、しばらく瑛士はコーヒーを見ると拒絶反応を示すことになるのだが――それは別のお話……
最後に――【神崎からのお願い】
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