閑話⑪ー1 新たな修羅場勃発?
「どうなってるんだ? ここって展望フロアだよな?」
不思議なゲートをくぐった瑛士がたどり着いたのは、展望フロアのエレベーター扉のすぐ隣だった。夏休みということもあり観光に来た人々で溢れかえっていたが、突然現れた彼らを気に留める人たちは一人もいなかった。
(誰一人として気に留めないのはなぜだ? 俺としては助かるが……いったいどういう仕組みなんだ?)
何が起こったかわからず、瑛士が呆気に取られていると隣にいたルリが大きな声を上げる。
「すごいのじゃ! はるか向こうの景色まで見渡せるのじゃ!」
ルリが大はしゃぎするのも無理はなかった。一面ガラス張りの窓から、市内だけでなくはるか先の景色まで一望できたからだ。ルナと翠も一緒にガラスに張り付いて景色を見ている様子に、我に返った瑛士は大きく息を吐いた。
「いつも強がってはいるけど、まだまだ子供だな……」
「ほんとよね。私も初めて展望フロアに来たけど、この景色は圧巻だわ」
ルリたちの様子を見た瑛士が目を細めていると、いつの間にか仮面を外して隣に立っていた音羽が声をかけてきた。
「そういえば、なんで突然現れた俺たちのことを不審に思わないんだ?」
「あーそのことね。なんかタイミングよくエレベーターの出入りと重なったみたいね。どうやらあのルートだとエレベーターの人ごみに紛れて降り立てるようになってるみたいなの」
「そうなのか? でもあからさまに壁から出てきたら怪しいだろ?」
瑛士が問いかけると少し困ったような表情の音羽が、頬をかきながら話し始める。
「ええっとね……私もよくわからないんだけど、認識阻害の魔法がかかっているみたいなのよ」
「どういうことだ? 全くわからんのだが……」
「どんな仕組みなのか全くわからないけど、一般の観光客と一緒にエレベーターに乗ってきたことになってるみたい。さらにこのフロアにいる間は他人の誰かとして認識されているっぽいのよ。ほら、スマホの顔認証が解除できないでしょ?」
音羽がスマホを取り出して認証画面を見せると、『顔認証できません』という表示が出ていた。いまいち信じられない瑛士が自分の端末で試すが、同じくエラーが表示されて一向に解除される気配はない。
「どうなってるんだ? 鏡を見ても何か変わっている様子はないのに……」
「不思議よね。でも自由に動き回れるから都合がいいんじゃない?」
「まあ、それもそうか……」
「そうよ。仮に迷宮から普通に脱出できても、ルリちゃんや私のリスナーがいつ押しかけてくるかわからないしね」
「ああ……そうだった、ルリのリスナーならやりかねないな……」
瑛士の脳裏によぎるのは三人で迷宮探索に向かった時の光景だった。どこで聞きつけたのかルリたちのリスナーが入口に押し寄せ、大混乱になっていた。遅れてきた音羽が一喝して収まったが、配信の盛り上がりを考えると無事にたどり着けるとは思えなかった。
「まあ、結果オーライということか……」
「そういうことよ。私たちも景色を堪能しない?」
「お、おい。急に腕を引っ張るな」
瑛士の右手を引っ張り、ガラス張りの窓へ歩き始める音羽。
(いつぶりだ? 音羽の嬉しそうで無邪気な笑顔を見るのは……)
子供のような笑みを浮かべてはしゃぐ音羽を見て、瑛士は懐かしい気持ちになった。しかし、そんな雰囲気も次の瞬間崩れ去る。
「すみません、記念に写真を撮ってもらえませんか?」
ガラスまであと少しのところに来たところで、女子大生らしき二人組に瑛士が声をかけられる。
「あ、はい。いいですよ」
「ありがとうございます」
瑛士がスマホを受け取った瞬間、背後から強烈な殺気が突き刺さる。
「こ、この視線は……まさか……」
恐る恐る振り返ると腕を組み、満面の笑みを浮かべている音羽の姿があった。
「音羽さん、ちょっと頼まれただけだから……」
「ええ、わかっているわ。大丈夫、私のことは気にしないで」
その後、冷や汗をかきながらなんとか写真撮影を終えた瑛士に、さらなる悲運が襲いかかる。
「ありがとうございます。良かったら……ちょっとお茶しながら話しませんか? お兄さん一人みたいだし」
「え、いや、あの、向こうに連れがいるので……」
背中に突き刺さる視線と殺気がどんどん増していき、泡を吹きそうになりながら耐える瑛士。 ルリとの勝負以前に、この修羅場を彼は無事に潜り抜けることができるのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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