第10話 迷宮に隠された秘密
「いやいや、隠しルートなんてどこにもなかっただろ?」
「そうじゃよ、音羽お姉ちゃん。わらわもルナと翠と一緒に暇つぶしがてら探し回ったが、特におかしなところもなかったのじゃ」
音羽の話を聞いた二人がそれぞれ声を上げる。それもそのはず、瑛士たちがいるのは一階層から二階層に続く通路であり、水が流れる小川があるだけで、何の変哲もない岩の壁が続いているだけだった。
「二人が言うことは間違ってないのよね。どこをどう見ても特に変わったところはないし……あえておかしな点といえば、私たちしか見えていない、本から水が出ているところだもんね」
「音羽にも見えていたのか……」
自分とルリしか見えていないと思っていた事象が、音羽も認識していたと知って言葉を失う瑛士。そんな彼の様子に呆れながら音羽が話を続ける。
「当たり前でしょ? 何のために私があの研究所にいたと思ってるのよ……それに読書魔法を多少なりとも使えるんだから」
「は? お前も使えたのか? 聞いてないぞ!」
「そりゃ言ってないもん。あれだけ露骨な拒絶反応を見せる瑛士くんに言うわけないでしょ」
驚いて固まっている瑛士に対し、手のひらを上に向けて呆れたようにため息を吐く音羽。すると隣で話を聞いていたルリも口を開く。
「何じゃ? ご主人……まさか気が付いていなかったのか?」
「え? お前は知っていたのか?」
「当たり前じゃろ。音羽お姉ちゃんの活躍を見ていればすぐわかることじゃ。たしかに剣術の腕もスゴイが、どう考えてもそれだけじゃないのは明白じゃろ」
「昔から当たり前のように見ていたせいで、気づけなかった……」
「はぁ~このご主人の人を見る目はとんでもない節穴じゃのう。これでは迷宮の秘密を見落としていたのもしかたないのじゃ」
ルリが大きなため息を吐きながら、瑛士をチラ見するとバカにしたように声を掛ける。
「あ? 聞き捨てならない言葉だな? 誰の目が節穴だって?」
「おや、聞こえておったのか。耳はちゃんと機能しているようで何よりじゃ」
「テメー、喧嘩売ってるだろ?」
「なんじゃ? わらわと一戦交えようというのか?」
ルリの煽りに乗った瑛士が睨みつけ、二人の視線がぶつかると再び火花が散り始めて一触即発のような空気が流れ始める。
「はいはい、ふたりともいい加減にしなさい! ここで喧嘩なんて始めたら、出口の外にいる人たちに気が付かれるだけじゃなく、警備室直行よ。瑛士くん、またあの二人からお説教になるけどいいの?」
「それだけは避けたいな……」
「ルリちゃんもよ。またもみくちゃにされてアイス食べられなくなっちゃうけどいいの?」
「それは嫌なのじゃ! 命の次に大事なアイスが取り上げられるなんて耐えられないのじゃ」
二人の言い分を聞くと、音羽は大きく息を吐きながら諭すように話しかける。
「二人ともわかっているなら喧嘩をしないように」
「はい」
「はいなのじゃ」
いつの間にか並んで地面に正座し、肩を落としながら返事をするルリと瑛士。
「それじゃああんまり時間もないし、さっさと秘密の通路を抜けて脱出するわよ。立ち上がってこっちについてきて」
正座している二人に立ち上がるように促すと、二階層の入口の方へ向かって歩き始める音羽。水の出ている本の近くに立つとおもむろに壁を触り始める。
「何やっているのじゃ? そのあたりの壁はわらわもたくさん調べたのじゃが何もなかったぞ」
「あー、多分普通に触っても見つからないのよ。決まった順番で特定の場所を触らないとダメなの」
言い終えると音羽はまず右下にある出っ張った岩を右手で触り、次は左上の窪みに左手を入れる。すると何かが動くような音が響き、真正面の岩が不自然に飛び出てきた。
「最後にこの岩を押し込んでやれば……」
音羽が呟きながら両手で岩を押し込むと、目の前にあった壁が突然左右に割れるように開いた。
「な……どうなってるんだよ……」
「こんな仕掛けを用意しておったとは、なかなか愉快じゃのう」
正反対の反応を示す二人を気に留めることもなく、音羽は無言で奥へ進み始める。
「おい、どういうことかちゃんと説明してくれよ!」
瑛士が説明を求めて叫ぶが、彼女の耳に届くことはなかった。徐々に彼女の姿が暗闇に消えていく様子を見て顔を見合わせ、後ろを追いかけ始める。壁の奥から微かに風が流れ込む不気味な通路を進むと、怪しげなモニターが光を放つ行き止まりにたどり着く。
「本当に大丈夫か? 変なモニターとキーボードが置いてあるが……」
「ここで間違いないわ。後はパスワードを入力すればいいのよ」
不信感を募らせる瑛士に対し、振り返ることもなく慣れた手つきでキーボードを操作する。画面に謎のコードが打ち込まれると、「パスワード認証成功」という画面が表示され、モニターの隣にある壁が緑色の光を放ち始める。
「これでオッケーよ。制限時間があるから順番に緑の光に入って!」
「意味がわからないんだけど……大丈夫なのか?」
「説明は後でするわ。とにかく早く行くわよ」
光る壁を前にして瑛士が困惑していると、後ろからルリが話しかける。
「迷っていても仕方ないのじゃ。さっさと入ってしまえばいいのじゃ。先のことは入った後で考えれば良い」
言い終えると同時に瑛士にタックルをかまし、転がり込むように光る壁に飛び込んでいく。そして視界が白く反転した瞬間、光景が変わった。
「いってぇ……ルリ何をするんだ! ってここは……なんで展望フロアにいるんだ?」
瑛士が顔を上げた先に映ったのは、展望フロアを楽しそうに行き交う人々の姿だった。
「うまくいったみたいね。さあ、祝勝会を始めましょうか?」
「やったー! アイス食べ放題開始なのじゃ!」
困惑する瑛士をよそにアイスクリーム屋に向かって駆け出していくルリと音羽。
何事もなく迷宮から抜け出したと思われた三人だが、この様子もモニター越しに見つめる人間がいるとも知らず……
最後に――【神崎からのお願い】
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