第7話 音羽のアドバイス?
口の端を吊り上げ、不敵に笑いながら歩み寄るルリに悟られまいと、必死に冷静さを取り繕う瑛士。
「な、何でもないぞ……」
「そうなのか? ずいぶん焦っているように見えるんじゃが、まあいいのじゃ。楽しい時間はこれから始まるんじゃしな」
「ぐぬぬ……な、なあルリ? 一つ提案が……」
「なんじゃ? まさか今さら勝負方法を変更しようなんて言うまいな?」
痛いところを突かれて背筋に冷たい汗が流れる瑛士だが、平静を装いつつ何事も無いように答える。
「あ、当たり前じゃないか! 思う存分戦ってやるよ!」
「ははは! これはすごく楽しみじゃのう! じゃあ向かおうではないか。ルリ、翠も一緒に行くのじゃ」
「キュー!」
「ニャー」
二匹を引き連れて一階層へ続く直通通路の入り口へ歩き出すルリ。
「くそ……なんとしてでも有利な状況に持ち込まねば……何か、いい手はないのか?」
唇をかみしめながら悔しそうな表情を浮かべていると、音羽が話しかけてきた。
「しょうがないわね……瑛士くん、甘いものが得意じゃないくせにムキになるから」
「仕方ないだろ! ルリに主導権を握られてばっかじゃ困るんだよ!」
「はたから見てると最初から主導権を握っているのはルリちゃんのほうに見えるけど?」
「……」
冷静な音羽のツッコミに何も言えず黙り込む瑛士。すると小さく息を吐いた音羽がある提案を持ちかける。
「そんな瑛士くんに良い提案があります」
「なんだ? お前が敬語で言うなんてだいたいろくでもない……」
「あ、そう? じゃあ自力で頑張るのね? せっかくルリちゃんといい勝負ができる秘策だったのに」
瑛士が余計な一言を言いかけると、冷めた目になってさっさとその場から立ち去ろうとする音羽。
「わー! すいません! 私が間違っておりました!」
慌てて音羽の前に回り込むと、瑛士は勢い良く頭を下げて詫びる。その様子を見た音羽は口元を吊り上げ、一瞬笑みを浮かべると腕を組みながら話し始める。
「そう? ちゃんと頭下げれるんだ。でも、人にお願いする時ってなんて言うんだっけ?」
「…………お、おねがい……し……ます……」
「え? 何を言ってるのか聞こえないんだけど? もっと大きな声で言ってくれないとわからないなー」
「くっ……お、お願いします!」
「うむ、よろしい。謙虚な態度も必要だからね」
腕を組んだまま、満足げな表情で大きく頷いている音羽。一方、瑛士は苦虫を嚙み潰したような表情で、肩を震わせながらこぶしを握り締めていた。
(くっそ……絶対いつかまとめて痛い目に合わせてやらないと……)
「ん? 『コイツをいつか痛い目に合わせてやろう』とか考えているんじゃないでしょうね?」
「め、滅相もございません……」
「そうよね? 瑛士くんが私の監視網から抜け出そうなんてできるわけないんだし。そ・れ・に、他の害虫と仲良くしていたら……ちゃんと駆除しないといけないわ……ね?」
異様なほどの圧力と殺気が瑛士の全身に突き刺さり、無意識のうちに体が跳ね上がる。
(な、なんだこの寒気と恐怖が入り混じった圧は……逆らったら、間違いなく命が危ない……)
謎の力で全身を押さえつけられ、金縛りにあったように動けない。すると頬がほんのり暖かい感触に包まれるとゆっくり頭が持ち上がっていく。次の瞬間、瑛士の視界に飛び込んできたのはドアップの狐のお面だった。
「ふふふ、いい子ね。このまま縛り付けておきたいくらいね……」
「お、音羽さん? 目がすごく怖いのですが……」
お面の奥で瑛士を見つめる瞳には全く生気が宿っておらず、怪しげな輝きを放っているような錯覚を覚える。
「え? やだ……私ったらどうしちゃったのかしら?」
瑛士の声を聞いて急に正気に戻った音羽は、瑛士の顔から手を離すと急に恥ずかしそうに悶えだす。
「いや、それはこっちのセリフだ……俺が聞きたい」
呆気に取られた瑛士が絞り出すように声をかけると、わざとらしく咳払いをした音羽が話し始める。
「コホン……それでは甘いものが苦手な瑛士くんにアドバイスを授けます」
「よろしく頼む」
「ルリちゃんは胃薬や飲み物を用意し、万全の状態で待ち受けているでしょう。なので、こちらも甘さを中和する飲み物を用意して望むのです」
「なるほど……そうなるとお茶か何かが適任だな」
「たしかにお茶はありなんだけど、私が提案したいのはブラックコーヒーよ」
「なんだと……」
音羽の提案を聞き、瑛士は目を見開いて驚いた。
「ふふふ。世の中にはアフォガードと言って、バニラアイスにカプチーノをかけたスイーツもあるのよ」
「そうなのか……という事は、コーヒーを飲みながらアイスを食べれば問題ないな」
「まあ、そういう事になるかしら? ブラックの苦味でアイスの甘さを中和させていけば、瑛士くんだって楽しめるでしょ?」
「そうだな! 甘さを中和できれば美味しくいただくことができるもんな! アフォガードか……言われてみればクリームソーダもアイスが乗っているもんな」
話を聞いた瑛士は大きく頷きながら言い聞かせるように呟く。
(ほんと単純なんだから……ん? クリームソーダかどうとか聞こえたけど気のせいかしら?)
新たな発見をした子供のように目を輝かせている瑛士をみて、何か引っかかりを覚える。
(なんだろう? この違和感……)
このときの音羽はまだ気がついていなかった、瑛士がとんでもない方向へ勘違いしていることを——
最後に――【神崎からのお願い】
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