第4話 瑛士の災難は続く?
「あー、ひどい目にあった……なんで俺が怒られなきゃいけないんだよ……」
警備室でのお説教から解放され、外に出た瑛士は疲れた表情でその場に座り込んだ。すると、満面の笑みを浮かべたルリが声をかけてくる。
「ずいぶん災難じゃったな。これに懲りたら、わらわに楯突くんじゃないぞ?」
「あん? どの口が言ってんだよ! ところでお前……なんでソフトクリームを持ってるんだ?」
瑛士が顔を上げると、嬉しそうにソフトクリームを頬張るルリが立っていた。
「ああ、これか? さっき警備室にもう一人いたじゃろ?」
「そういえば女性の警備員さんがいたな……お前と一緒にいた人だろ? それがどうしたんだ?」
「ふむ、ご主人が説教を受けている間に、いろいろ聞かれてな。話しているうちに、わらわのしもべであることが判明したんじゃ」
「お前の下僕って……まさか、リスナーだったのか?」
衝撃の発言に瑛士が驚いていると、ルリが胸を張り、得意げに語り始めた。
「ふふふ、そうなのじゃ。どうやら昔から見てくれていた下僕のようでな、『憧れのルリ様とお話をさせていただけるとは……幸せです!』と涙を流しておったぞ。途中から、どちらが保護された側かわからんようになってしまったがな」
「……なんだそりゃ。いや、待てよ、さっき女性の変なコメントがあったような?」
何かを思い出したように考え込む瑛士を無視して、ルリは話を続ける。
「どうしてもサインが欲しいと頼まれてな。タダで書くのはいかんと思い、ソフトクリームで手を打ったというわけじゃ。言い忘れておったが、ご主人を説教しておったのも、わらわの下僕だったぞ。本来であれば、こんなに可愛い少女を泣かせたのじゃから……もっと怒られてもしょうがないのじゃがな」
「自分で“可愛い少女”とか言うなよ……」
瑛士が呆れた顔でツッコミを入れるが、ルリはまったく気にせず、言葉を続ける。
「あまり長引かれても困るからのう。帰りにスカイシールアイスが食べられないなど、大事件じゃからな!」
「結局それが目的だろうが! まあ……早く解放されたのは助かったがな」
「そうじゃろう? わらわのおかげと言っても過言ではないな! 感謝するがよい!」
「もとはと言えば、お前が魔力を全部使いきるからだろうが!」
瑛士の絶叫がフロアに響き渡り、再び警備員から大目玉を食らうことになった。
「どうしてまた俺が怒られる羽目に……」
魂が口から抜けかかっているような顔でボヤきながら歩く瑛士。
「こんな日もあるということじゃ。ぼやいている暇があるなら、わらわのために早く防具と武器を揃えるのじゃ」
「お前が言うな! ……もういい、早く行くぞ」
二人が並んで歩いていくと、二階層への入り口と、武器貸し出しカウンターが見えてきた。
「こんにちは! 武器と防具の貸し出しでよろしいでしょうか?」
カウンターの受付にいた女性が、笑顔で二人に声をかけてきた。
「はい、俺は短剣と胸のプロテクターでお願いします。ルリはどうするんだ?」
「わらわは、その奥にある長い棒のようなものにするのじゃ」
ルリが指差した先にあったのは、身長よりも長い槍だった。すると、女性が少し困ったような顔で話しかけてきた。
「槍ですか……扱いが難しい武器ですが、今まで使用された経験はありますか?」
「いや、使ったことはないぞ」
「そうですか。初心者の方が、自分の身長よりも長い槍を使うのはお勧めしません。リーチが長い分、遠くの敵には攻撃しやすいですが、手元が無防備になりがちで、咄嗟の動きには適していないのです。どうしても槍が良いということであれば、こちらのものはいかがでしょうか?」
説明を終えた女性が、カウンターの中から出してきたのは、ルリの身長より少し短い槍だった。
「こちらは軸の部分が軽量な素材でできており、短めなので扱いやすいと思います。低階層にはそこまで危険なモンスターも出ませんので、武器に慣れていただくにはちょうどよいかと思います」
「それも一理あるのじゃ。よし、わらわの武器はお前に決めた!」
「なんかどこかで聞いたことある言い方だな」
「細かいことは気にするでないぞ。おお……これがわらわの相棒なんじゃな!」
女性から槍を受け取ったルリは目を輝かせている。隣では、瑛士が淡々とプロテクターを装着しながら準備を進めていた。
「さて、ここからが本番だ……親父が絡んでいるってことは、どこかで二度と会いたくないヤツと遭遇するのは避けられない……それまで何としても、ルリの存在がバレないように立ち回らないといけないな」
険しい表情で決意を固める瑛士の隣から、底抜けに明るい声が飛んでくる。
「ご主人、見るがいい! わらわのカッコいい武器を! これさえあれば、どんな敵が来ても一刀両断じゃぞ!」
「そうか……って、あぶね! お前な、人が近くにいるところで振り回すな!」
「すまんすまん、つい嬉しくなってしまったわ。さあ、我が覇道の始まりと行こうではないか!」
「いや、普通に進むだけだからな……」
スキップしながら二階層への入り口へ入っていくルリに対し、険しい顔のまま奥を見つめる瑛士。
彼の心配は現実となるのか、それとも杞憂で終わるのか――
二人の迷宮攻略の幕が、静かに開けようとしていた。
最後に――【神崎からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




