第9話 飯島の独白
飯島が自信たっぷりに返答した声を聞いたリスナーが、面白がって次々とコメントを書き込んでいく。
《チャットコメント》
『ミルキーさん、キター』
『お疲れ様です! 自称天才ババアをぶちのめすか?』
『まさかの物理的勝利www』
『やはり暴〇! 〇力は全てを解決する……』
『え? 飯島博士とか言う人がいるの?』
『映像が全く映らん! 運営はよ復旧しろ!』
『いや、ババアの顔なんぞ見たくないwww』
好き勝手に書き込まれるコメントに対し、飯島の金属を引っかいたような鋭い声が響き渡る。
「きー! 誰がババアですって! ふざけるんじゃないわよ!」
「まあまあ、リスナーとのお遊びも大事ですが、自分の素晴らしい実績を彼らに見せれば静かになると思いませんか?」
「あら? あなた、分かっているじゃない! そうよ、私の研究成果を聞けば世界がひれ伏すのだから!」
(うまく乗ってきたわ。単純なのは昔から変わってない……さて、ここからが本番ね)
思惑どおりに飯島が誘いに乗ったことを確認すると、ルリのほうへ視線を動かす。タブレットと格闘していた彼女が視線に気づくと、笑顔と共にサムズアップして応える。
「ところで飯島博士。凄い研究成果と言っていましたが、どんなことをされているのですか?」
「そんなに私の凄さを知りたいのね! いいわ、教えてあげる。コメント書いてるリスナーども、よく聞きなさい! あなたたちの足りない頭でも理解できるように説明してあげるわ」
わざとらしく下手に出た音羽の言葉を聞いた飯島は、上機嫌になって話し始める。
「あんたたちも知っているように、ある日迷宮が出現したでしょ? あれは私を筆頭とした研究チームが出現させたのよ!」
(いきなりとんでもないことを言い出すわね……こっちとしてはありがたいけど)
いきなりの爆弾発言に思わず引き気味になる音羽。そんな彼女のことなど知る由もなく、飯島は意気揚々と話し続ける。
「迷宮出現だって、私の言うとおりにやればもっと早くできていたのよ! やれ法規制がどうとか、安全面の検証が必要だとか、足ばっか引っ張るのよね。なんであんなに頭が高いのかしら、お上って。自分たちの利益を見せたくて必死なんだろうけど、ホント邪魔でしかないわ」
「役人ってルールとかで縛ろうとしますもんね」
「そうなのよ! 迷宮の利権を取ろうとこっちに圧力かけてくるもんだから、たまったもんじゃないわ。ま……結果オーライだけどね」
声のトーンが一段階低くなった飯島の言葉を聞き、リスナーが異変に気づき始める。
《チャットコメント》
『ちょっと待て……この話っていろいろとマズくないか?』
『ヤバいどころじゃないだろ……』
『これほんとの話なん? 利権とかえぐ過ぎ』
『炎上不可避www』
『飯島って人、何者? ヤバくね?』
『……これ、放送していいやつ?』
次々と書き込まれるコメントを見たのか、飯島の口調はさらに攻撃的になっていく。
「アンタたちがどれだけ騒ごうとも無駄よ。私が一声かければどうにでもできるんだからね」
「へえ……ところで、迷宮を出現させたのはお一人で成し遂げられたのでしょうか?」
「いい質問ね。一応チームで出現させたわ。なんか面倒な儀式とか必要だったし、逃げ出した実験体を捕獲する必要もあったからね」
「実験体……ですか?」
「そうよ。迷宮出現前からあの手この手でモンスターを呼び寄せてはいたんだけどね。ある時、私の研究を妬んだバカがテロ未遂を起こしやがって……その時に何体か行方不明にもなったのよ」
飯島から告げられた衝撃の事実を聞き、コメント欄が荒れ始める。
《チャットコメント》
『逃げ出したってヤバ……』
『街中にモンスターが紛れ込んでるかもしれないってこと?』
『ちょっと待て……迷宮からモンスターが逃げないって言ってなかったか?』
『そんな事件あったっけ?』
『ちょ……この配信、大丈夫? 俺たちとんでもないこと聞いてない?』
コメント欄が不穏な空気であふれ出す中、音羽は冷静に質問を続ける。
「逃げ出したモンスターはその後どうなったのか、聞いてもよろしいですか?」
「あ? モンスターの行方なら、迷宮内に逃げ込んだって報告は来ているわ。どうせ失敗作ばかりだし、野垂れ死んでるんじゃない? ま、おかげさまで次の段階に進めたからいいんだけど」
「次の段階?」
「そうよ。モンスターの力を自由にコントロールできるようになったのよ。あの手この手を使ってアホどもを納得させたから、迷宮内は治外法権ってことになってるの。だいたいね、異世界の産物を日本の法律で縛ろうなんて言ってるほうがどうかしてるのよ。研究のためには多少の犠牲は目をつむらないと、成果なんて出ないでしょ? ……迷宮内で何か起こっても証拠なんて残らないけどね」
「なるほど……証拠が残らないのであれば、捕まえようがないですもんね?」
「当たり前でしょ? 私の高貴な実験の糧になれるのだから、むしろ幸せなことだと誇るべきよ!」
「やっぱり腐りきった考え方は昔から変わってないみたいね……」
まるで道具のように切り捨てる飯島の発言を聞いて、静かに怒りがこみ上げる音羽。
この後、彼女が発した言葉により全員が言葉を失うことになろうとは……
最後に――【神崎からのお願い】
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