第7話 タブレットの復活と作戦開始
「まさか叩き潰したと思っていた研究が、まだ続いていたなんてね……」
「どういうことなのじゃ? モンスターたちが暴走していたのと、何か関係があるのじゃろうか?」
不思議そうな顔で聞き返すルリに、音羽は顔を近づけてマイクで拾われないような小声で話しかける。
「そのことなんだけど……ちょっとリスナーたちに聞かれると都合が悪いのよね。なんとかして配信を切れないかしら?」
「そのことなんじゃが、今タブレットを見ていたら使えるようになっておるのじゃ」
「え? どういうことなの? さっきまでフリーズして何も受け付けなかったのに……」
「原因はわからないのじゃが、下僕どもの音声が聞こえるようになったタイミングで操作ができるようになっていたのじゃ。まあ、映像は真っ暗のままじゃがな」
(どういうこと? 間違いなく飯島女史の干渉で何かエラーが起こっているのは間違いないし……また邪魔される前に配信を切っておいた方がよさそうね)
ルリの言葉を聞いた音羽は頭を高速回転させて、最適解を探し始めていたときだった。突然、彼女の背後から声をかけられる。
「音羽、俺にいい考えがある」
「え? 瑛士くん? いつの間に……」
驚いた音羽が慌てて振り返ると、なぜか顔にルナが張り付いた瑛士が立っていた。
「瑛士くん……何してるの? 今はふざけている場合じゃないんだけど」
「いや、違うんだ! ほ、ほら、飯島女史に顔を見られたらマズいだろ?」
「……」
「な、なんだよ、その眼は!」
何も言わない音羽の冷めた視線に耐え切れず、焦り始める瑛士にさらなる追い打ちが襲いかかる。
「ご主人……もしかしてルナとのケンカで、負けそうになっておるんじゃないのか?」
「……ルリ? お、お前は何を言っているんだ? そ、そんなわけないだろうが」
「ふーん……その割には、ずいぶん焦っておるようじゃが?」
疑念を抱いたルリの視線が突き刺さり、冷や汗が止まらなくなる瑛士。そんな様子をお構いなしに、彼女の口撃は止まらない。
「なにも言い返せないところを見ると、図星のようじゃな?」
「ナニオイッテイルノカサッパリワカラナイナ」
「そうか、なんとしても認めないのじゃな。しかし、ご主人。自分の置かれている立場を理解したほうがよいのじゃないかのう?」
「あ? 何を言ってるんだ?」
瑛士が不機嫌そうに言い返すと、ルリが不敵な笑みを浮かべながら声を上げる。
「よーく聞くのじゃ。ルナはよく躾ができておってな、トイレ以外では粗相をすることはないんじゃよ」
「ふーん、それがどうかしたのか?」
ルリの言っている意味が理解できず、ぶっきらぼうに答える瑛士。
「じゃがな、わらわが“いいぞ”と言うまで外でも我慢しておるんじゃ」
「そうなのか。ちゃんと躾ができているならいいじゃないか」
「あ……瑛士くん、そろそろルリちゃんを煽るのは、やめておいた方がいいと思うよ」
二人のやり取りを見ていた音羽が、瑛士に近づいて囁いた。
「どうしたんだ? ルナがちゃんと躾られているって話だろ?」
「やっぱり何もわかってなかったのね……いい? ルナちゃんは“許可がないと外で粗相をすることはない”と言っているの」
「そうだな。それがどうかしたのか?」
「瑛士くんの顔に張り付いたルナちゃんだけど、どんな状態かわかってる?」
「前足が頭に乗っていて……ちょっと待て、口元にお腹の辺りが来ているんだが……まさか?」
「そのまさかよ。さっさと謝った方が身のためだと思うけど?」
音羽の言葉を聞いて、事の重大さにようやく気が付いた瑛士が見事なスライディング土下座を披露する。
「ルリ様! 私が悪うございました!」
「ん? どうしたんじゃ?」
「いえ……生意気言ってすいません……」
絞り出すように言葉を話す瑛士に対し、勝ち誇ったような表情を浮かべるルリ。
「わらわは何も言っておらんがな。まあ、何かやましいことでもあったんじゃろうな?」
「ぐぬぬ……」
「ま、あとでゆっくり配信しながら聞かせてもらおうかのう。なあ、ルナ?」
口角を吊り上げたルリが話しかけると、元気よく返事をするルナ。
「キュー!」
「クソ……まだ勝負は終わってないからな!」
「キュ、キュキュー」
「は? “何度やっても結果は同じだからあきらめろ”だと?」
ルナを顔に貼りつけたままケンカを始める瑛士たちに対し、ルリが一喝する。
「こりゃ! 今はケンカしている場合じゃないぞ!」
「このやろう……お前が煽ったから……」
「はいはい、そのくらいにしておきましょうね。私の口から説明するよりも、この異変を引き起こしたであろう張本人に聞いてみたくない?」
二人をなだめつつ、音羽が空中に浮かぶドローンに目を向ける。
「そうだな……ヤツに聞きたいことは山ほどあるしな」
ルナを顔に貼りつけたまま、ドローンとは逆方向を見上げている瑛士。その様子を見て、呆れた音羽が声をかける。
「瑛士くん……カッコいいこと言っているけど、見てる方角が全然違うわよ」
「仕方ないだろ! さっき口論した時に動いたせいで全く見えないんだよ! お前もちゃんと見えるように動けよ!」
「キュー? キュキュキュー!」
「は? “そんなこと知らねーよ。自分が悪いんだろ?”だと? この野郎……やっぱり白黒きっちりつける必要があるな……」
再び一触即発の空気が流れ始めると、大きなため息を吐くルリと音羽。
「さて、あとは飯島女史が挑発に乗ってくれるかがカギね……」
ルリに気付かれないように顔を上げ、ドローンを睨みつける音羽。彼女の瞳はまるで獲物を射抜く刃のように鋭かった。
はたして瑛士たちは、因縁の相手から情報を聞き出すことができるのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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