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ショートショート5月〜5回目

作者: たかさば

 なんだか、鼻が…むずむずする。


「……ッ、はっくしょん!!!」


 くしゃみをしたら、何やら…鼻のあたりに、違和感が……?


「……はっくしょん!!!」


 くしゃみをしたら、鼻が……大きくなったような…。


「……はッ、くしょん、はっくしょん!!!」


 くしゃみをするたびに、鼻が……伸びている?


「……はっくしょ、クション!!!」


 くしゃみは、止まらない。


「はっ、はっくしょん!!!」

「くッしょん!!!」


 鼻が伸びて、 垂れ下がってきた。


「くしょん、はッ、はっくしょん!!!」

「くしょ、はっ、はっ…ハクション!!!」


 鼻が伸びすぎて、まるでゾウのようだ。


 これは……いったい、どうした事だ。


「すん、すすん、ずー!」


 くしゃみが、ようやく…止まった。


 顔面から…へその上あたりまで伸びている、鼻。

 たしかに自分の顔の中心部にある鼻なのだが…明らかに不調和だ。


 この世界には…、象の鼻を持つ人間は、存在していない。

 この鼻を…いったい、どうしろと?


 外出することが、難しくなりそうだ。

 今までの日常が、著しく変化していまいそうだ。


 ……できることなら、元の鼻に戻したい。


 元に戻すには…どうしたらいいだろうか。


 くしゃみを出して伸びたのだから、鼻をすすれば……、何度かスンスンやってみるも、鼻先はぶらぶらしているだけだ。

 顔面から飛び出してきたのだから、鼻を押し込んでみれば……、鼻先をギュウギュウと押して顔面に埋め戻そうと試みるも、ぐにゃりと曲がるだけだ。


 元に戻せないのであれば…共生するしかあるまい。

 こうなってしまったことを嘆くよりも、どうすればこれから快適に過ごせるのかということを模索するべきだ。


 鼻が伸びたことによる、利点を探さねば。

 鼻が伸びたことを受け入れ、前向きにならねば。

 鼻が伸びたことを喜べるような、発想の転換をせねば。


 長い鼻をぶらぶらさせながら、腕を組み組み、考えてみる……。


 臭いものを避けながら、ご飯を食べることができそうだ。

 いい匂いを嗅ぎながら、ご飯を食べることができそうだ。

 手を使わなくても、ご飯を食べることができそうだ。

 風呂で、潜水遊びができそうだ。

 プールに行った時、シャワー遊びができそうだ。


 ……楽しそうではあるが、根本的な解決にはなっていない気がする。


 どう足掻いても、象の鼻を持つ人間などどこにも存在していないという事実は打ち消せそうにない。

 どれほど強い意志を持ってしても、明らかな異質を特異な目で追う人々を振り切れそうにない。


 せめて、ぶらぶらと長ったらしくぶら下がっている部分がもう少し短ければ……。


 ……そうだ、思い切って、鼻を削いでしまうのはどうだろう?


 もともと存在していなかった部分だ。

 余分なところを切り落とせば、もとに戻るかもしれない。


 ……痛くなければ良いのだが。


 キッチンの引き出しから、出刃包丁を取り出す。

 しばらく使ってなかったから、刃がこぼれている。


 ……研ぐか。


 砥石をシンク下から取り出そうとしゃがみこんだら…、なんだか、鼻が、むずむずする。


「……ッ、!!!」


 これ以上鼻が伸びてはたまらないと、くしゃみを我慢し……飲みこんだ。

 すると……、何やら…違和感が……?


「……っく、ひっく!」


 横隔膜が震えて、身が縮こまり、肩のあたりがキュッとなった。


「ひく……、うひっく!!!」


 のどの奥が鳴って、胃袋のあたりが硬くなって、変な鼻息が出た。


「ひ、ひっく、ひくっ!」


 しゃっくりをするたびに……鼻に違和感が。


「ひゃっく、っく!」


 息を吸うたびに、鼻が揺れ動く。


「しゃっく、ひっく!」


 腹部が波打つたびに、鼻が顔面に吸収されていく。


「っく、ひくっ!」


 のどが鳴るたびに、鼻が短くなっていく。


 鼻が縮んで、まるで何事もなかったかのように…元の顔に戻っていく。

 これは……いったい、どうした事だ。


「ッく………、………。」


 しゃっくりが、ようやく…止まった。


 顔面に、無事おさまった、ごく普通の鼻。

 たしかに自分の顔の中心部にある、なんてことのない、鼻。


 この世界には…、象の鼻を持ったことがある人間なんか、存在していないはずだ。

 この鼻は…いったい、何がしたかったんだ?


 伸びてみたかった?

 焦らせてみたかった?

 気の迷いで?

 衝動が抑えられなかった?

 お試し?

 実験?

 おふざけ?


 色々と………、思う所は、あるが。


 元に戻って、よかった。

 早まらなくて、よかった。


 鼻を切り落としていたら、今までの日常が著しく変化してしまう所だった。


 ……できれば、このようなことは二度と起きてほしくないものだ。


 もし、また鼻が伸びたら……、とりあえず様子を見ることにしよう。

 もし、また体のどこかが伸びても……、落ち着いて対処できるだろう。


 ……良い、経験になったな。


 気を取り直し、コーヒーを淹れ。


「スン、スン……」


 良いにおいだなと、鼻を鳴らし。


 ………?


 なんだか、後頭部に……、違和感が。



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