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俺は彼女を抱くわけにはいかない  作者: 生出合里主人
第一の試練 俺は女子高生を抱くわけにはいかない
6/66

6 言えない妄想

 名前をもらったアンドロイド「マリア」は、機械とは思えないほど華やかな笑顔になった。


「マリア? ステキなお名前。わたし、嬉しい。どんな漢字を使うの?」

「そんなの、カタカナでいいんだよ!」

「お怒りですね。申し訳ございません。どのように修正すればよろしいでしょうか」


 今にも泣き出しそうなマリアを見て、歩夢は血の気が引く思いがした。


「あっ、ごめんごめん。大きな声を出して悪かった。全然怒ってないから、気にしないで」

「歩夢は怒ってない。マリア安心した。マリアは歩夢と仲良くしたいの」

「お、おう、そうだな。それでマリアは、俺になにをしてくれるの?」

「歩夢がしてほしいこと、なんでもしてあげるよ」

「なんでも?」


 頭の中に人には言えない妄想が飛び交う。

 歩夢は首を振り、妄想を一つ一つ打ち消していく。



「うーんと、あれだ。楽しくおしゃべりでもしような。ええと、マリアは何歳なの?」

「何歳? 起動して三時間だよ」

「だよねー。生まれは……あの会社の工場か。じゃあね、えーと、ご趣味は?」

「趣味趣向は、歩夢が好きなように設定してね」


「設定……初めはデフォルトってことか。これからどう接したらいいのかわからないな」

「どうセックスしたらいいか? 歩夢の好きな体位でいいよ」

「うん、うまく聞き取れていないな。しょせんはAIだからしょうがないか。いろいろ試さないといけないな」

「エロエロ試していかせる。マリアがんばる」

「それ、わざと間違えてないか? あのねっ、マリアは、なにをしたら、楽しいのっ?」

「楽しい? マリア、よくわからない」

「ですよねー。話かみ合わねー」


「マリア、会話が下手でごめんなさい。マリア、話がつまらないから歩夢に捨てられちゃう」

「そんなことぐらいで捨てないから。うーんと、そうだな。俺はね、ファイナルヒロインっていうゲームにハマってるんだけどさ」

「歩夢はゲームが好き。マリア覚えた」


 あぁ、そうか。

 このアンドロイドのAIは、会話を重ねることによって情報を収集するって言ってたな。

 だから初めは情報不足で、会話がうまく続かないって。


 それにしばらく同じ場所にいれば、空間認識によって効率的な運動ができるようになるとも言ってた。

 だったらだんだん、歩くのもうまくなっていくんだろう。

 それはそれで、ちょっと寂しいけど。



「歩夢、マリア、充電してもいい?」

「充電? あぁ、やっぱりそういうこと、するんだね。機械だってことすっかり忘れていたよ。ソファの横のコンセント使って。それ、そこそこ」


 マリアが前かがみになり、両手で左足の白いソックスを下ろしていく。


 いかんぞ俺。

 そんなの、色っぽいと思ってはいかんっ。

 大人で、社会人で、紳士の、俺!


 しかしマリアが左足の親指を上向きにポキッと折った時、歩夢は思わず「あっ」と声を漏らしてしまった。

 中からプラグが現れ、右を向いたマリアが左足を伸ばし、壁のコンセントに足の親指を差し込んでいく。


 不自然に壁に刺さったつま先。

 生足と呼んでいいのかわからない細くて白い足。

 少し恍惚としているように見えなくもない彼女の表情。

 それらを鼻の穴を広げながら観賞する歩夢。



 数分間充電したマリアは、よろけながらも自力で玄関にたどり着いた。

 そしてスーツケースをつかむと、一気に持ち上げようとする。


「あっ、ちょっと待った」

 歩夢はウェットティッシュでまず自分の手を拭き、それからスーツケース、特に車輪部分を丹念に拭いてから、ようやく部屋の中へ持ち込んだ。


「歩夢はきれい好き。マリア覚えた」

 歩夢にはそれが、非難にしか聞こえない。

 しかしマリアは、晴れ晴れとした笑顔だ。


「ところでその大きな荷物、なにが入ってるの? 付属品とか?」

「付属品は白のパンティー五枚、赤のパンティー一枚、黒のパンティー一枚……」

「あー、もう言わなくていいや。黒もあるのかぁ……」


「今、歩夢のお腹がグーッって鳴ったよ。マリア、お料理する。でないと歩夢が餓死しちゃう」

「いきなり餓死はしないけど、料理なんてできるのか?」

「標準的なレシピはプログラム済みだよ。なにか、リクエストはある?」

「簡単なやつでいいけど、今なにがあったかな……」



 歩夢が台所にある食材を案内すると、マリアはスーツケースからフリル付きの黄色いエプロンを取り出し、それを制服の上から着て、ぎこちなくではあるが蝶結びをしてみせた。


 その格好は、反則じゃないかなマリア君。

 かわいすぎるぞっ。


 料理を始めるマリア。

 だが包丁さばきがひどく大ざっぱで、破片がそこら中に飛び散っていく。

 それでも歩夢にとっては、自分の家で自分以外の誰かが料理をしている、という事実が重要だった。

 そんな光景を見るのは、十六年ぶりだ。



 マリアは意外にも手早く肉じゃがを作った。

 しかし見た目は雑だし、食べてみると味付けが濃すぎる。


「歩夢、味はどう?」

「うん……まあ、食べられるよ」

「喜んでもらえて、良かったっ」


 マリアは微妙なニュアンスがわからないらしく、満足顔で食事を始めている。

 食器や箸の扱いはわりとうまい。

 しかもかなりの大食いらしく、歩夢の倍以上食べている。


「いい食べっぷりだね。なにか運動とか、するのかな?」

「運動? セックスするよ」


 歩夢は口の中の物を噴き出した。

 食べ物がテーブルから薄手のスラックスへこぼれていく。

 それをマリアが、「歩夢はきれい好き」と言いながらふきんで拭いていった。


「あっ、そこは自分でやるからいいよ」

「歩夢は股間だけ自分で拭く。マリア覚えた」

「それ覚える必要ないだろ。じゃあね、マリアはどんな食べ物が好き?」

「精液」


 歩夢がまた噴き出す。

 マリアが「歩夢は股間だけ自分で拭く」と言いながら掃除する。


「あのね、精液っていうのは食べ物じゃないんだよ」

「飲み物だった」

「飲み物でもないかな」

「膣から吸収するものだよね」

「うん、これは聞いてはいけない質問だったね」


 マリアって、話をどうしても下ネタに持っていこうとするんだな。

 なんか俺、エロい気分になるように誘導されてないか?

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