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俺は彼女を抱くわけにはいかない  作者: 生出合里主人
第十の試練 俺は友達を抱くわけにはいかない
49/66

49 最高の友人

 2027年9月26日 日曜日



 歩夢は高校を卒業して以来、自分からは地学部の仲間たちに連絡をしていない。

 地学部の仲間たちからはたまにメールや電話をもらうが、その時期には奇妙な規則性があった。


 毎月1日から5日の間に連絡してくるのは境。


「よー日比野~、調子はどーよ~。オナニーしてる~? 俺はもちろん毎日してる~。お互いそれしか楽しみがないからね~。最近のマイブームはセーラー服かな~。なんで今さらセーラー服かってー? それは日比野ならわかってくれるだろ~? ん? 待って、電話切らないで~」


 6日から10日の間は宝蔵院。


「日比野、相変わらず声が軟弱だぞ。貴様はそれでも侍かーっ。ところで話は変わるが、新しいスーツを着たわたしの写真を送るから、即刻感想を教えろ。わたしにしてはちょっと短いスカートに挑戦してみたんだがな。貴様万が一けなしたりなんかしたら、たたき斬るからなっ」


 11日から15日の間は黒部。


「あ、あのね日比野君、またおもしろいゲーム見つけちゃった。日比野君好みの女の子がたくさん出てくるんだ。た、例えばゴスロリのメイドとかね。え? 好きじゃない? だけど二人でブクロに行った時、ずーっと見つめてたじゃない。よっぽど好きなのかと思ったよー」


 16日から20日の間は速見。


「マジかーっ。師匠まだ童貞なの~? まあ俺もたいしたことないけどねー。昨日はたったの三発だしー。俺の子ネコちゃん、きっもち良かったな~。あれ? なんか怒ってる? 電話越しにすさまじい殺気を感じるんだけど。生霊とかになって首絞めないでくださいね~」


 21日から25日の間は一之瀬。


「日比野っちさあ、昔部室からあたしのコスプレ写真持って帰ったでしょう。あれなにに使ってるの? なにに使ってるのってばぁ。なんならまた、リアルで見る? 二人っきりで。ってウッソーん。日比野っちってほんと純情バカだよねー。あ、一応先輩だった。ソーリ~」


 そして26日から月末までの間は再び黒部。


 地学部員たちの連絡は気温測定のように規則正しく、歩夢の卒業後も三年間続けられた。後の七年は次第に回数が減っていったものの、それでも断続的に続いている。

 そして、この日も。



「よう黒部。忙しいのに朝から電話をくれるなんて、なんかあったのか?」

「日比野君こそ、いつかけても留守じゃないか。それで、この前のベータテストでは世話になったね。相変わらずの手厳しい意見を参考にして修正入れたから、一言お礼をと思ってさ」


 黒部はよどみなく話せるようになっていた。

 それどころか、声には自信がみなぎっている。


 ゲームデザイナーとなった黒部は、いじめっ子たちを駆逐していくFPS「ダブルリターン」で一躍注目された。

 その後自ら会社を立ち上げ、若き経営者となっている。


 そんな彼が運営するゲームこそ、登録者数が三百万人を超える国民的MMORPG「ファイナルヒロイン」だ。


「それで最近はどうなの? なにか変わったことはなかったかい?」

「変わったことねえ。たくさんあったけど、全部バーチャルな感じの出来事なんだよな」

「よくわからないけど、僕にできることがあれば言ってよ。せめて相談だけでも、さ」

「なあ黒部。心配してくれなくても大丈夫だよ。俺、死んだりしないから」


 電話の向こうから、沈黙が聞こえてくる。

 それはほんの数秒だったが、歩夢には数分に感じられた。


「そ、そんな心配なんかしてないよ。僕日比野君の声を聞くと、なんか自信を取り戻せるんだよね」

「そっか。だったらいつでも連絡してくれ。いつも話をしてくれて、ありがとうよ」


 まったく、こいつってほんと人を見る目がないよな。

 せっかく成功して偉くなったんだから、俺なんか相手にしなきゃいいのにさ。

 他の連中も、いつまでおせっかいを続ける気なんだろう。



 明差陽からも時折メールや電話をもらう。

 会うのは年に二、三回。

 誘うのはいつも明差陽のほうからだった。


 明差陽は女子大生になってさらにきれいになり、OLになってますます色っぽくなった。

 会うたびに歩夢は舞い上がったが、会話はまるで男同士のように色気がない。


 異性と友達でいるなんて難しいと思っていたけど、あいつだけは不思議と馬が合うんだよな。


 あいつが俺にとって、最高の友人?

 まさかな。

 少なくとも向こうは、そんな風には思っていないだろう。


 銀行に勤める明差陽から、「同僚と婚約した」というメールを受信したのが先週。


 歩夢は胸に痛みが走ったような気がした。

 だがその感覚はなかったことにする。


 これで俺たちの友達ごっこも終わりかな。

 人妻になったら、さすがに二人きりじゃ会いづらいだろうし。


 歩夢が「しょうがないから結婚祝いをしてやるよ」と返信して、成増の居酒屋で飲むことになった。

 歩夢の地元を指定してきたのは、明差陽のほうだ。



「ちょっと、今日は無理かもしれないっす」


 その日職場では日下部が過労で早退し、歩夢の負担が倍増していた。

 しかし歩夢は明差陽のダイナマイトバディを思い浮かべることで、普段にはないバイタリティを爆発させる。


「やれる。俺はやれるぞぉ。うおお~っ」


 おかげでかえっていつもよりも早く仕事を終わらせ、約束の時間に間に合わせることができた。


 俺のモチベーションって、こんなんでいいんだろうか……。



「よう仲間」

「日比野、久しぶり」


 地下鉄成増駅の前で、いつもと同じように軽い挨拶を交わす歩夢と明差陽。

 前にも利用したことのあるスキップ村商店街の居酒屋に入り、半個室でL字型の席に座る。


 明差陽のエロいボディは、大人になってその成熟度をさらに上げていた。

薄手の白いブラウスもタイトなグレーのミニスカートも、男を狂わせるボディラインを露骨にアピールしている。

 歩夢は歩いている時も座ってからも、その体つきをずっと盗み見ていた。


 うーん、やりたい。

 俺のDNAが、この女をものにしろとささやいてきやがる。


「婚約おめでとう。引く手あまただったのに、よく一人の男に決められたもんだな」

「うん。そうね。ありがと」


 二人は乾杯するが、明差陽はいまいち幸せそうに見えない。

 だが歩夢は、気づいてもそのことには触れない。

 もう一つ気になるのは、明差陽が髪を伸ばしていたこと。


 あの人と同じくらいの長さだな。

 まったく、いい女のくせになにやってるんだか。

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