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俺は彼女を抱くわけにはいかない  作者: 生出合里主人
第三の試練 俺はメイドを抱くわけにはいかない
15/66

15 日替わりの衣装

 2027年7月7日 水曜日



「おはようございます、ご主人様」

「ん? ご主人様?」


 歩夢が重いまぶたを開いていくと、そこにいたのはゴスロリ系のメイド服を着たマリアだった。


「なんだよそれ。うちはいつからメイドカフェになったんだよ」


 黒いスカートと白いソックスの間に鎮座する絶対領域に、覚醒した視線が釘付けになる。

 完全なる童顔とロリータ系の服装は、フライドポテトとコーラくらいマッチしていた。


「マリアは、ご主人様の家政婦でございますから」

「俺が昨日家政婦って言ったからメイド服なのか? でもなんでそんな服持ってるんだよ」

「衣装は七種類用意してあります。マリア、ご主人様好みの女性になってみせますわ」

「曜日ごとに日替わりでコスプレするってことかあ。大サービスだな」



 尻を突き出し、首をかしげているマリア。

 大きく見開いた瞳が、朝の光を受けて輝いている。


 あざとい。

 でもそれがまたかわいい。

 マリアがキャラ変するたびにドキドキしちまうな。


 男の本能は、たくさんの女性に精子を配ろうとする。

 だから女性は男に浮気をさせたくなかったら、いろんな格好をして、違った面を見せて、男の本能に別の女性だと錯覚させればいい。

 特に制服は人を特定のキャラに当てはめるから、浮気心をだますのに効果的だ。


 まあ俺はべつに、そんなのに興味はないんだけど。

 ただマリアが、なにを着ても似合っちまうっていうだけだ。



 フリルに包まれた女の子が、陽気に腰を振りながら家事をしている。

 掃除をしたり洗濯したり、部屋の中を縦横無尽に跳ね回る。

 かと思えば派手に転んで、泣きっ面。


 なにをやってもかわいくて、いくら見ても飽きないな。

 こらこら、こっちにお尻を向けるなよ。

 おいおい、そんなに腰をクネクネ振るなって。

 そのまま後ろからいけそうじゃねえかよ。

 短いスカートの中に手を入れて、白い下着を引きずり下ろして……考えただけでもヤベえ……あ、ムスコが。


「ご主人様、絶対領域に手を入れたいんですか? それで服を着せたまま後ろからするんですね」

「あのさぁ、勘が良すぎるのは困るんだって。頼むからもっと鈍感になってくれよ」

「ご主人様は感じにくい女の子が好き。マリア覚えました」

「いやそれはむしろ逆なんだけど」

「ご主人様は感じやすい女の子が大好き。マリア訂正のうえきっちり記憶しました」

「余計なこと言わなきゃよかった」



 前日と同じ朝食だが、味付けは進歩していた。

 これなら毎日でも食べられるだろう。


「ご主人様、口元にジャムが」

 歩夢の顔からジャムをぬぐい取った指を、上目づかいでなめるマリア。


 歯を磨こうとした歩夢は、上目づかいのメイドから歯磨き粉をつけた歯ブラシを渡される。

「ありがとう。でも自分でやれるからね」


 歩夢が寝室で着替えようとすると、マリアが中に入ってきて手伝おうとする。上目づかいで。

「あのさぁ、そうしつこくつきまとわれたら、かえって迷惑なんだけどな」

「出過ぎた真似をいたしました、ご主人様……」


 マリアがいかにも寂しそうに、極端に歩みの遅い小刻みな足取りで退いていく。


 ちくしょう。

 これじゃまるで、俺がいじめてるみたいじゃねえか。



 自責の念にとらわれた歩夢が無言で出勤しようとすると、バッグを渡しにきたマリアが顔をのぞき込んでくる。


「ご主人様、なんか元気がありませんよ。ラブラブパワー注入~っ」

 マリアは指でハートマークを作り、それを自分の胸元から歩夢の胸元へ押し出していった。


「そんな子供っぽいことを……。でも、ちょっと元気出たかも」

「ご主人様にはマリアが必要。ご主人様はお気づきになった」


 ダメだ。会社に行きたくない。

 前から行きたくなかったけど、今は十倍行きたくないぞー。



 仕事が手につかない。

 業務時間が異様に長く思えてじれったい。

 いくら考えないように努めても、メイド服やらOL風やら制服姿やら、魅惑的なマリアの姿が次々と浮かんでくる。


 これから毎日、こんなくすぐったい地獄が続くのか?

 こんな誘惑だらけの禁欲生活、耐えられるのか俺……。

 仕事がきついっていうのも、こういう時は救いだな。



 夜八時、今日も働きまくった結衣が帰宅する。

 ポニーテールを揺らしながら休憩室を出てきた結衣。

 同僚と談笑し、華やかな声を散らしている。


 結衣は一年生の時から、平均週六回シフトに入っていた。

 運動は得意なのに部活もやらず、授業が終わると直接出勤してくる。


 シングルマザーの一人娘。

 母親は心身ともに不調で仕事が長続きしない。

 だから結衣は、自分で生活費を稼ぐしかないのだった。


 社員よりよっぽど仕事のデキるこの店の大黒柱だが、どんなに優秀でも高校生の時給は上がらない。

 それが会社の方針なのだ。


 俺よりあの子のほうが、よっぽど店長に向いているのにな。

 正当な評価をしないで、あの子がやめちゃったらどうするんだよ。



 歩夢はふと、結衣が豊西学園高校の制服を着ていることに気がついた。

 忘れていたが、高校の後輩だったのだ。

 マリアと違って白いシャツと黒いリボンの夏服だが、つい二人を比較してしまう。


 胸は結衣のほうが大きいな。

 それに男連中が噂していたけど、脚が長くてきれいだ。


 男は胸と同じくらい女性の脚が好きだけど、そういえば母乳の脂肪分って、太ももや尻で作られるって話があったな。

 男の美脚好きにも、理由はあるってことだ。


 結衣の脚は細めではあるけど、肉付きは悪くない。

 それにひきかえ、マリアの脚は細すぎるんだよな。

 太ももは太いから太ももなんであって、細かったら細ももなのにな。


「ちょっと店長代理っ、なにあたしの制服姿ガン見してるんですかっ」

「いやっ、設楽、違うんだっ」


 今俺のムスコが元気なのはお前のせいじゃなくて、マリアのせいなんだよ~。


「なにが違うんですかっ。今あたしに手を出したら淫行ですからねっ。身の破滅ですよっ」

「身の破滅か……それもいいかもな」

「ええっ……大丈夫ですか? 店長代理ぃ」


 歩夢は真顔で心配している結衣を見て焦る。

 けれど今さら発言を撤回しても手遅れだ。


「いや、そんなことを考えちまう年頃なんだよ。俺のことなんか気にしないで、早く帰りな。今日もお疲れ様。いつも本当にありがとう」

「あっ、こちらこそ、いつもお礼を言ってくれて、ありがとうございます」


 結衣はしばらく視線を歩夢に残しながら去っていく。

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