8
「あははははははは! 砂肝を生で食べるなんて!」
爆笑してる。
あれって、生食ダメなの?
お腹……平気かな。
「あはっ! はははははは!」
「もしかして、わたしで実験した?」
「ごほん。何はともあれ、まずはご主人様の『スキル』の解明が必要ですね」
「リル?」
「食の探求です。同じ道を志す同志であれば理解して頂けるかと」
……いい顔で何言ってんだ、こいつ。
はあ。
まっ、いっか。
なんか楽しそうだし。
それより今は、そんな事よりもだ。
「実は気になってたんだよね。わたしの『スキル』。稀有なんでしょ? 稀有ってかっこいい!」
「そうですね。かっこいいですね。早速、お調べしましょうか」
わたしを冷たくあしらうと、リルは不思議鞄から、銀色に輝くプレートを取り出した。
「なにそれ」
どうやらプレートには何も記されていないようだ。
両面無地のシンプルな造りをしている。
「これは『スキル』を調べる『スキルカード』と呼ばれているものです。どうぞ、これを」
「ふむふむ」
「記されるのは『スキル』だけではありません。本当に稀ですが『祝福』が記される場合もあります。あとは簡単なステータスですね」
『スキルカード』ねえ。
鉄ではないみたいだね、軽いし柔らかい。
かと言ってプラスチックでも、アルミでもないな。
なんだろうこれ。
不思議な物体だ。
「ふーん。それで?」
「それだけです」
「ふむふむ。……え?」
「だから、それだけです」
リルは手のひらをくるりと回した。
裏面を見ろってことらしい。
「あ、なんか書いてある」
さあ、どんな『スキル』かな?
緊張するけど、楽しみ!
「どうでしたか?」
「えっと『スキル』は魔力付与《極》と料理、創造。『祝福』が無限魔力だね」
「……なんと、まあ」リルは丸い目を更に丸くながら、詰め寄って来た。
改めて見ると、リルって可愛い顔してる。
サラサラの髪も綺麗だし、まつ毛まで真っ白だ。
赤い瞳はまるで宝石みたいで、まるでルビーみたいに輝いてる。
「もう一度聞いてもいいですか」
「……ああ、ごめんね。魔力付与と料理と」
「その次です」
「次は無限魔力だよ。『祝福』って珍しいんだっけ?」
「珍しいなんてもんじゃないですよ」
てことは、これはいいやつ授かっちゃった?
ラッキーと捉えていいんだよね?
異世界のテンプレきちゃったよ。
きっとこれで悠々自適な生活を送ることが出来るんだ!
わたしは巨万の富を得られるかも知れない。
そして美しい男をはべらかし、異世界の女王として君臨するのだ!
って違う、違う。
幸せご飯な。
いかんな、欲望爆発したわ。
「『祝福』自体は先程お伝えした通り、稀に見ます。むしろご主人様ならあり得ると思ってました。だけど私が驚いているのは内容です」
「無限魔力のことだよね」
確かに字面は最強って感じだ。
「もしご主人様が戦闘系の『スキル』を持っていたら、この世は終わっていました」
この世の終わり?
まるでわたしが魔王みたいじゃないか。
仮にそんなんあっても、破壊の限りは尽くしませんよ。
「『スキル』は新たに取得する事は不可能です。なので複数持ちの場合は組み合わせが重要となります。その点でもご主人様は恵まれています」
ミラがあんな事になったのは『スキル』のせいか。
無意識に発動してたわけね。
でも、ちょっと待って。
それって幸せご飯どころじゃないじゃん。
不幸を呼ぶご飯だよ。
だっておっさんが褌姿で宙に磔になっちゃうんだから。
「穏やかな性格を変貌させる。それほど爆発的な魔力の付与。これだけでも世界制覇狙えます」
「狙わないから」
「創造もとても便利です。料理道具などを作るのに持ってこいですね。まさに大当たり」
「じゃあ料理器具を揃えなくてもいいって事!?」
「……後々分かると思いますよ。どれだけ便利かということが」
リルは少し呆れた様子だった。
だけど仕方がないよ。
すごいってのは分かるけど、分かんないもん。
分かるのはそれだけ。
そのうち理解するとしてもね。
「さて、ミラ達が目覚める前にトンズラしましょうか」
「何でトンズラなの。急展開すぎでしょ」
「契約が来月までなんです。ご主人様と旅に出るなんてバレたら違約金を取られちゃいます」
「ダメじゃん。そういうのは、ちゃんとした方がいいよ」
「時間がもったいなくないですか?」
この子、意外に破茶滅茶だな。
人に砂肝食わせたり、今もトンズラかまそうとしたり。
「ダメ、ダメ。わたしはこの世界の人にご飯を作りたいんだ。だけどそれは無料って訳じゃなくて、商売としても成り立たせたいの」
「なるほど。商いをするのであれば人の信頼は裏切れない……そういうことですね。失言でした」
分かってくれたか。
素直なところは可愛いね。
「ならば、拠点を構えなくてはなりませんね。そうなると世界を旅するのは難しくなります」
「実は一つ、提案があるの。ちょっと耳貸して」
「ふん、ふん。なるほど。……それは名案ですね」
「でしょう? まあ、わたしの世界ではありきたりなんだけどね。その為には少し準備期間も必要だからさ」
少なく見積もっても、準備には一ヶ月以上はかかるかもしれないな。
もしかしたらそれでも足りないくらいかも。
出来ればリルの契約が終わる頃までには、完璧にしたいけど。
「そうなると……人手が必要ですね」
確かに人手がいる分には助かるな。
まけど大所帯になるのはちょっと気が引ける。
どうせなら気楽にやりたいもん。
でもこの際、そうも言ってられないのかな。
「今から商業ギルドに行きましょう。商いをするのには、許可が必要です。そして準備に協力してくれる人材を集めましょう」
役所って感じかな。
許可が必要なのは、こっちも変わらないんだね。
……めんどくさいな。
「やっぱりそうだよねぇ」
「どうしたんですか? 暗い顔をして」
「書類とか嫌いなんだよね。わたし」
「そこは我慢して頂かないと。誠実な商いであれば更新期間も延びますし、面倒くさいのは最初だけですよ」
まさか異世界にも役所があるとは。
でもリルの契約期間もあることだし、丁度良かったかもしれない。
もしかしたら、丁度良かったのかも。
これを機に、異世界の文化に少しでも慣れておこくとしよう。