咲とリルの雄々田区グルメ旅。焼肉編・その3
「はあ、美味しかったー! やっぱり焼肉って神だよね」
「それにしても、何故コジロウと?」
「わたし、一人焼肉が出来ないんだよね。なんでか知らんけど」
「ああ、それで。咲様にそんな弱点があるなんて意外ですね」
「むしろ弱点の方が多いと思うけど」
「私はこっち来て三日目に焼肉行きましたよ」
「……、え?」
「夜中に小腹が減りましてね。夜の街を彷徨っていたら匂いに釣られて入店してました」
そこまでの度胸があるのに、何故初日にあそこまで怯えていたのか分からない。
順応性高すぎんか?
「しかし、美味しい焼肉屋さんでしたね。晶も喜んでましたよ」
「気になるメニュー沢山あったよね。今度行ったら頼んでみよ。リル達は何食べたの?」
「愚問ですね。全部ですよ」
「あんた、配信で稼いでなかったら破産間違いなかったね。もやし生活まっしぐら」
「ふふ、今日は寝ずにパソコンに向かわなければいけませんね。ところで咲様。一つ……、いや二つ程、心配事がございまして」
心配事?
聞きたいような、聞きたくないような。
「晶の件なのですが、どうやら冒険者になりたいらしくて」
「それは……、うーん」
「どうやらあっちの世界に対して、かなり憧れているらしく、トラックに激突するまで考えていたようです」
過激だな。
身を投げる程、思いこがれていたとは。
なるほどね、それは心配だわ。
しかし、よりによって冒険者か。
採取依頼のような、難易度の低いことならまだしも、きっと晶ちゃんのことだ、魔獣討伐とかやりたがりそう。
リルが側についているから安心とはいえ、コジロウさんだって心配するに違いない。
もちろん、わたしだってそうだ。
『巨鯨』の時のようなことだってある。
あの時はリルですら対応しきれなかった。
似たような状況、もしくはそれ以上に危ない場面に出くわしたって、なんら不思議じゃないもんな。
まあ、あれはコジロウさんの仕業だったので、ことなきを得たけど。
「んー。可哀想だけど、冒険者体験は諦めてもらうのを条件にするしかないかなぁ」
「無難かもしれませんね」
「それで? 二つあるんでしょ、心配事」
「スキルです。晶には、確実になんかしらのスキルが付与されます。それが強力であればあるほど、晶は危険に首突っ込みそうな……、そんな気がするのです」
あー、そっか。
わたしはもちろんのこと、誤召喚された筋肉さんですらスキルを授かってたからなあ。
これは……、安請け合いしてしまったかもしれない。
だけど今更断るのも酷だよねぇ。
リルとコジロウさんも、晶ちゃんにはかなり詰められている。
行けないとなると、更に拍車が掛かってしまうかも。
挙句の果てに身を投げられたら、目も当てられない。
「……、日帰りだし、やれることも限られてる。注意しとくに越したことはないけど、わたしとリルが目を離さなければ大丈夫じゃない?」
「そうだといいのですが」
今度、晶ちゃんにはちゃんと話をしておかなきゃな。
怪我なんて絶対にさせられない。
旅のしおりでも作っておこうかな?
「後は……、何といっても魔王の存在ですね。昨日、私のステータスから魔王の表記が無くなったので、恐らく向こうでは新たな魔王が爆誕しちゃってます。残忍で冷酷、その上人間嫌いな魔王だったら悲惨なことになること間違い無し。もしかしたら、コルンもバトリアも、既に制圧されているなんて事態が起こっているかもしれません。なので向こうについた瞬間、咲様と私は確実に狙われます。なんせ有名人ですから。もしかしたら一緒にいる晶だって危ないかもしれません。魔王に選ばれる程の素質があるからには、私と互角、いや、それ以上の実力を秘めている可能性だってあります。咲様の魔力が如何に無限とはいえ、戦闘となれば話は別。きっと見るも無惨な——」
……、心配事三つじゃねぇか。
むしろ最後が一番駄目だろ。