咲とリルの雄々田区グルメ旅。焼肉編・その2
「考えてみると、焼肉って久々かも」
「沢山歌ったので、お腹が空きましたね。私、ライス特盛いきますけど、晶はどうします?」
「私は普通盛りでいいかな」
焼肉って本当に美味しいです。
意味が分からないくらい美味しいです。
隣の七輪から立ち昇る煙だけでも米いけます。
またこの七輪と炭火がいいのですよ。
家じゃ絶対出来ないですもん。
プレートでやる、お家焼肉も確かに捨てがたいですが、だけど、やはり七輪と比べると、どうしても劣ってしまう。
そこには火力という、明確で致命的な差があります。
しかもですよ?
家で七輪にチャレンジしようものならば、部屋に煙幕が張られたようになるし、部屋には臭いが残ってしまいます。
しかも咲様のアパートは和室。
畳にまで臭いが染み付くこと間違いなし。
その上で、火の粉が飛んだりなんかしたら、目も当てれません。
あっという間に火の手が回り、見るも無惨な結果になります。
せめてお庭でバーベキュー風にやるのならまだしも、そんなものはありません。
なので焼肉屋さんは、否が応でもテンションが上がるのです。
「何食べようかなー。牛タンとハラミとー、リルちゃんは?」
「どうしましょうか。それにしても色々ありますね」
ふむ、しかし一口にタンと言っても種類が豊富ですね。
厚切り黒タンに、タン元、タンスジ……、タンゲタもあります。
ハラミに関しても、切り落としからサガリまで。
すごいですね。
あまり期待せずに入りましたが、これは思わぬ名店の可能性がありすよ。
「なんかメニューが多いね。見て見て、カメノコだって。こっちはザブトンにミスジ」
「ツラミ、カイノミ、ランイチ。すごいですね」
「どこの部分か全然分からないや」
一頭買いでもしてるのでしょうか?
何を食べるか悩む……、と言いたいところですが、そういう時は全部食べればいいのですっ!
今なら一頭丸々行ける気がします!
「すみませーん! ここからここまで、全部下さいな!」
「リルちゃんさ、カラオケでも結構食べてたよね」
「そうでしたっけ?」
「ま、リルちゃんなら食べれるか。……、それよりもさぁ」
うーん、また始まっちゃいましたか。
どうしたものですかね。
晶は、あっちの世界に相当興味を持っています。
行くだけならいいんです。
私も案内してあげたいですし。
咲様が提案したように日帰りならば、なんの問題も無いでしょう。
だけど、心配なのは晶が向こうに行きたい理由です。
どう考えても危ない目にあう気がして仕方がありません。
「またその話ですか?」
「だって今なら咲ちゃんもいるし、何故かお父さんもいるじゃん。話つけるには丁度いいかなって」
今日は特に酷いですね。
今日も……、と言った方がいいかもしれません。
「いいですよっ!」と二つ返事してあげたいところですが……。
「晶はなんで冒険者になりたいんですか? 別にそんなのやらなくても楽しいと思いますよ。小さいですが、バトリアという国のお城も見学できますし、こっちと違って多種多様な種族もいます。きっと歩いているだけでワクワクしますよ」
だって、私がそうだったから。
咲様がこちらに連れて来てくれて、本当に世界が広がりました。
最初は少し怖かったけど、咲様や晶が色々教えてくれて、理解を深めるほど、本当に楽しくなりました。
きっと晶も向こうに行ったら、散歩してるだけでも楽しいと思うんだけど。
うまく伝わらないものです。
「何言ってるの、リルちゃん。異世界と言ったら冒険者なの。しかも日々の日常に疲れて、心ここに在らずの心身状態で赤信号を渡り、トラックに轢かれないと異世界には行けないの。こんなチャンス無いんだから」
……、そういうものなのでしょうか。
でも、咲様はマンホールに落ちたからと言っていたような気もしますが。
「もしくは、ボールを追いかけて飛び出した子供を助けようとして、トラックに轢かれないと駄目なの」
「中々ニッチな手段しか無いのですね」
「そんなことないと思うけど……、こっちでの主な異世界への移動手段は、トラックと相場が決まっているのよ」
そういうものですか。
まあ、トラックは取り敢えず置いときましょう。
向こう席で、咲様とコジロウも、この話は当然しているはず。
隣が空いたら、店員さんに移動をお願いしてみるとしますか。
私が心配とするところは、それ以外にもあるのですが……。
ま、そこは咲様とコジロウにお任せするとしましょうか。




