表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/79

咲とリルの雄々田区グルメ旅。とんかつ編・その1

「何故なのですかっ!」

 

 ……、うるさ。

 なんだ急に。

 いつものことだけど。


「分からない、分からないよっ! 咲様もそう思いません!?」


 すごい憤ってる。

 因みに現在時刻は午前二時。

 丑三つってます。

 埃が舞うから、枕バンバン叩くのやめて欲しい。

 

「天麩羅ってサクサクが美味しいですよね?」


 何故、この時間に天麩羅なのだろう。

 天麩羅粉に浸されて揚げられる夢でも見たのだろうか。

 いくらなんでも突拍子が無さすぎる。

 まあ、いつものことだけど。


「なのにっ! なのに何故、天つゆでびちゃびちゃにしちゃうの!?」


 その昔——、油を高温に保ちつつ、天麩羅をサクッと揚げることは至難の業だった。

 その為、天つゆや、大根おろし等の薬味により油のくどさをとっていた。


 と、聞いたことがある。

 恐らく、その習慣が現代にも残っているのだろう。

 でも私はサクサクの衣に天つゆをつけるのはアリだと思う。

 そりゃあ、岩塩や抹茶塩も美味しい。

 だけど天つゆって美味しいじゃん。

 そこにそれ以上の説明はいらないよ。


「なんでですかっ!? 咲様っ! ねえ、なんで!?」

  

 そして今、私にその説明をする元気はない。

 眠すぎて目が開かない。

 夜行性発揮するのやめてもらえません?


「こ、このままじゃ寝れない。寝れないよぉ、おーん、おーん」


 ……、泣いた。いや、鳴いてる。

 なんだその声。

 初めて聞いたぞ。

 アポカリクティップサウンド?

 リルの口からその音出ると、本当に世界が終焉に近づきそうだからやめて。


「この謎を解明すべく、今日は天麩羅を食べに行きます。三食天麩羅です。オヤツも天麩羅です。夜食も天麩羅です」


 分かったよ。

 分かったから、もう寝てくれ。

 だめだ。

 半目開けるのも辛い。

 きっと白目になってる。


「ねーえー! さーきーさーまーー」

「うるせえ!」

「な、なんですか。急に大声出して」

「その昔——、油を高音に保ちつつ、天麩羅をサクッと揚げることは至難の業だった。その為、天つゆや、大根おろし等の薬味により油のくどさをとっていた。って聞いたことあるよっ!! だけど本当のところは知らないよっ! だって私は天麩羅じゃないからねっ!」

「へえ……、そうなんですね」

「大声出してごめんね。でもお願い……、寝かせて」

「あ、私ったら気が利かなくてごめんなさい。咲様、ゆっくりお休みになられて下さい」

「リルも早く寝なよ? おやすみ」

「おやすみなさい」


 わたしったら、つい大声を出して。

 明日の朝ごはんは豪華にして、リルに謝ろう。

 ごめんね、リル。


「咲様、咲様っ! 明日やっぱりとんかつ食べませんっ!?」

「うるせえっ!」



 と、いうわけで。 

 わたし達は今、有名なとんかつ屋さんに並んでいます。

 この地域はとんかつがとても人気で、いわゆる激戦区となっている。


 TVでもよく紹介されているし、雑誌にだって掲載されている。

 なんかミーハーみたいで少し嫌だけど、いざこうして並んでみるとそんな考えは吹き飛んだ。

 むしろ頭の中はとんかつ畑だ。

 今なら丸呑み出来る自信がある。

 その後、誤嚥して咽せる自信もある。

 

「いやあ、楽しみですねえ。昨晩、天麩羅の謎をディスカッションした甲斐があるというものです」

「リルが一人で喋ってただけじゃん。ねえ、そんなことよりどれにするの?」


 ロースカツに、ヒレカツ。

 ササミチーズカツ。

 カツ丼もある。

 

 ああ、牛に生まれ変わりたい。

 わたしは牛になりたい。

 なんでわたしは牛じゃないの?

 胃が四つ欲しい。

 そしたら全部食べれるのに。


 でも牛は草食性。

 結局は油物は食べられない。

 ああ、このジレンマからは一生抜け出せないのね。


「全部……、ですかね」

「わたしも全部、といきたいところではある。だけど無理だ。絶対食べれない。ちくしょう」

「じゃあ、こうしましょう。昨晩起こしてしまったお詫びに、咲様に一口ずつあげますよ」


 

 ……、優し。

 半目で大声出してごめんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ