咲とリルの雄々田区グルメ旅。モツ煮編・その2
「それにしてもすごかったあ。ね、リルちゃん」
はいはい、そうですね。
「まさかあんな逆転劇が待ち受けていたなんて……、今思い出してもドラマティックだよ。咲ちゃん、ギャンブルの才能あるんじゃない?」
「はは、そんなことないよ。たまたまだよ」
そうです、たまたまです。
ビギナーズラックですよ。
「モツ煮も美味しかったなあ。もっと食べれば良かった。……、あれ? 咲ちゃん、そんな荷物持ってったっけ?」
「実はね、夜の晩酌にモツ煮をお持ち帰りしたんだ。食べたければ家で食べれるよ」
「わーい! やったー!」
うるさ。
……、騒がしいです。
静かにして欲しいものです。
隣に大敗を喫した惨めなケット・シーがいることを忘れていませんか?
少しは気を使って欲しいものですよ。
それにしても、まさかボラが跳ねて選手に直撃するなんて。
競艇はそこまで予想しなくてはいけないのですね。
選手に大事が無かったことが幸いですが……、これからは予想の仕方を変えなくてはいけません。
まずはボラがいるかどうか。
より水面の観察が必要になってくる。
特に一月から春先にかけてはボラが産卵の為に活発化し、海から川に遡上してきます。
「リルちゃんも惜しかったけど所詮、私達は人間なの。自然現象には逆らえないわ」
晶がナチュラルに煽ってきますね。
天然なのでしょう。
こういうところはコジロウそっくりです。
今晩、奴がお迎えに来たら八つ当たりするとしましょう。
「さあ、着いたよ」
「咲様……、私コンビニ行きたいです。今晩はやけ食いです」
「あんた、まだ食べるの? 場内の食べ物全制覇したってのに」
「わーい! やけ食い、やけ食いー!」
もはや私の心を癒すのは、レジ横のピッツァまん、そしてよもぎ饅頭だけ。
来るべきリベンジに備え、力を蓄えておきましょう。
なので、あんまんと肉まんの追加は致し方ないことなのです。
これは未来への投資なのだから。
家に戻ると、すっかり夜になってました。
そう、夕食の時間です。
出来上がるまでコンビニで買い漁った品を晶と摘んでいると、咲様が、おうどんを出してくれました。
「モツ煮の味を少し変えて、モツ煮込みうどんにしたんだ。これがまた美味しくて。わたしの好物なんだ」
「わーい。咲ちゃんありがとう! いただきまーす!」
ふむ、咲様に好物と言わしめる一品。
興味が湧かないはずなどありません。
早速頂くと致しましょう。
目は口ほどにものを語る——、咲様の視線が「まだ食うのかよ、こいつ」と如実に語りかけてきますが、ここはシカトです。
「あ、美味しい。咲様が好物というのも頷けます。それにしても、この白いモツと、黒いモツ。一体どの部位なのでしょうか」
味はもちろんのこと食感から、風味まで全く違う。
同じ内臓でここまで違いが出るとは。
「どこの部位なんだろうね? あまり気にしたことなかったよ」
どこの部位か分からないまま食べてたんですね。
普通気になりません?
何食ってるか分からないってことですよ?
「だけど美味しいからいいじゃん」
「そうだよ、リルちゃん。美味しいのは正義だよ」
なるほど、なるほど。
モンゴリアン・デス・ワームの砂肝を、躊躇いもせず口に運んだ理由がわかりました。
咲様の食への探究心は素晴らしいですね。
皿に乗ってれば何でも食べそうです。
まさか〇〇や、△×□も食べるのでは?
間違いない、きっと疑いもせずに口に運ぶはず。
毒物ではないので試してみることにしましょうか。
「さてと、美味しゅうございました。お皿洗いは私めが」
「お、サンキュー」
「リルちゃん、わたしも手伝うよ」
「いえいえ、晶はお客さんなのです。炬燵に入りながらよもぎ饅頭でも頬張っていて下さい」
「……もう、お腹一杯だよ」
「じゃあ、食べた後の牛さんのように惰眠を貪っていればいいです。とにかく手伝いは不要。咲様とゆっくりしていて下さい」
よし、邪魔者は消えましたね。
皿洗いをしながら第二ラウンド開始です!
絶対に取り戻してやるんだから!
「リル……」
はっ!
い、いつのまにか背後に!?
気配の消し方が忍者並みです。
伊賀ですか!? 甲賀ですかっ!?
「あんた、もうギャンブル禁止」
「ななっ!」
その後、三時間にも及ぶ交渉の末「月一で千円だけ」と、咲様からお許しを頂きました。