咲とリルの雄々太区グルメ旅。モツ煮編・その1
「おかえりなさいっ!」
「ああ、起きてたのか」
「遅かったね。ご飯すぐ出来るよ、それとも先にお風呂入る?」
「……メシはいいや。食ってきた。咲子は?」
「さっき眠ったよ。貴方が帰ってくるの頑張って待ってたんだよ」
「チッ。子供使ってあてつけかよ」
「ち、違うの。そんなんじゃ無いんだけど」
「なんだよ。言いたいことあるなら言えよ」
「今日、貴方の誕生日だったじゃない? それで……」
「うるせえ!」
「や、やめて!」
私は……、何を見せられているのだろうか?
リルと晶ちゃんのおままごとは、回数を重ねるにつれ、ドス黒い雰囲気が漂う展開を繰り広げるようになっていた。
晶ちゃんはコジロウさんの娘だ。
とても可愛らしい女の子だ。
元・奥様が相当お美しい方なのだろう。
そんな女性を射止める甲斐性があったなんて、人は見かけによらないものである。
コジロウさんは無事娘さんと再会することが出来たものの、久々の再会に会話が無くなり、私やリルのことを話したらしい。
すると晶ちゃんは直ぐに興味を示したらしく、一度食事に行ったところ、直ぐにリルと意気投合し、今に至るというわけだ。
今や週一で遊びに来る。
そして週末は泊まっていく。
自由だな。
「晶……、俺達別れないか?」
「リル夫さん……、なんでそんなこと言うの? わたし頑張ったよ? 貴方が、貴方が他の女と遊んでるのも我慢した! それなのにっ! なんでっ!」
晶ちゃん、演技うま。
涙流してるよ。
あとわたしはいつまで咲子ちゃん役として布団に入ってなければいけないのだろうか。
そろそろお腹が空いてきた。
このドラマが始まってからもう二時間経っている。
「あの、えーとね。盛り上がっているところ悪いんだけど……」
「ほら見ろ。お前が大声出すから咲子が起きてきたじゃないか」
「ごめんね、咲子ちゃん。ベットに戻りましょ」
だめだ、役に入り過ぎてる。
私、お腹空いたんだけど。
「ふう。キリがいいのでここら辺にしておきますか」
「あー、楽しかった! なんかお腹減ってきちゃったな」
「私もです。晶は何が食べたいですか?」
「えーと、そうだなあ。……、モツ煮?」
……渋。
そんなわけで、私達は競艇場に足を運んだ。
モツ煮と言えば競艇場、競艇と言えばモツ煮だ。
幼い頃、よく食べた思い出の味なのだ。
「すごーい! 船が走ってるー!」
「おお。私もこちらに来て長いですが、こんな場所があるなんて知りませんでした」
「私のお父さんが好きだったんだよね。小さかったからよく分からなかったけど、モツ煮が美味しいのが印象深くてさ」
「咲様、皆さんブラウン系のコーディネートですね。それにブツブツ一人で話してる人も多いです。……、大丈夫ですか、ここ」
「大丈夫、大丈夫。さ、あそこだよ」
モツ煮とビールを買い、一マーク付近でレースを観戦する。
父はこの組み合わせが大好きだった。
そして外で食べるだけではなく、店内で食事をすることも可能で、なんとライスも食べることが出来る。
ネギを沢山乗せ、七味をかけて米とモツ煮をかき込む。
きっと、リルも晶ちゃんも気に入ってくれることだろう。
「わあ、美味しいです!」
「でしょう? 入場料払う価値があるってもんだよね」
「……、うーん」
あ、あれ?
リル気に入らなかったかな?
おかしいな、リルの好みの味のはずなんだけど——、ってなんで新聞読んでんだ、こいつ。
「次の三号艇は勝負駆けですか……、地元東京支部で期待の星。荒いレースが多いですが、それは即ち豪快なレースをするということ。展示も……よし、出てる。行き足も良さそうですね。五号艇の進入次第では、本番ダッシュもあり得ます。ここは勝負レースですっ!」
「リルちゃん、詳しいんだねっ! すごーい!
さっき「こんな場所初めてです」って嘘だろ、こいつ。
なんでウチの親父みたいなこと言ってんだ。
最近こそこそ携帯いじってたのはこれか? これなのか?
「ふふふ、頂きましたね。三が頭で来たら大勝利です。帰りはタクシーですよっ!」
「わーいっ! タクシーだー!」
ま、別にいいけど。
考えてみれば賭け事とか好きそうだわ、リル。
……、私も買ってみよっかな。舟券。




