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咲とリルの雄々太区グルメ旅。ラーメン編・その2

 それにしてもすごいですね。

 真夏だということを忘れてしまいそうです。

 それがキンキンに冷えた室内のせいなのは一目瞭然ですが。

 

 咲様が余裕の表情で腕組みしてるのが信じられません。

 窓の結露だってハンパじゃない。

 うー、冷え性には応える寒さです。


 咲様は暑い季節に、熱いものをと仰ってましたが……、これもう冬と変わらないからね?


 真夏に冬のような室内で、温かいラーメンを食べ、ふたたび外に出たら炎天下って。

 逆に体調崩しそうです。

 寒暖差についていけません。

 もしかして私、騙されました?


 しかも今から胃に入れるのは、暑気払いとは掛け離れた一品である『特盛、麺固め油多め味濃いめ』という代物。 

 ……、ごくり。

 これは厳しい戦いが予想されますね。


「はい、お待たせぇ」


 しかし、なぜでしょう。

 いざ、目の前に着丼したラーメン様の御姿を拝見致しますと、そんなものは全て忘れてしまいます。

 わたしってば、相変わらず単純なんだから! テヘッ☆

 

 ではでは、さっそくスープから。

 

「……、はあ。おいし」


 汗を流した私の体内に、大量の塩分が補給されていく。

 もう塩タブレットなんか私には不必要。

 水筒にこのスープ入れて持ち歩くことにします。

 なんで一口目ってこんなに美味しいの?

 こんなの、反則だよ。


 そして、この鶏油(チーユ)

 昨今の物価上昇の煽りを受け、油類等も値上げを避けられないものになっているのにも関わらず、海パンの芸人さんよろしく、そんなの関係ないと言わんばかりの量。

 膜張ってます。

 湯葉みたいです。

 鶏油だけ掬って飲みたくなってきちゃいます。


 固めに茹でられた中太ちぢれ麺は、スープとよく絡み合います。

 うん、小麦の味もしっかりしてる。

 

 そして主役を引き立たせる名脇役達の登場です。

 ほうれん草に、海苔、うずらの味玉、そして焼豚。

 そこに黒胡椒を多めにかけて食べたら、もう最高!

 ニンニクや生姜それに豆板醤などは、先に入れるとずっとその味になってしまうので今はまだやめときましょう。


「咲様、美味しいで——、なっ!?」


 私は咲様の器を見て、思わず箸を落としそうになった。

 それは衝撃の映像でした。


 咲様が注文されたのは『中盛り、麺固め油多め味薄め』。

 顔の浮腫を気になさる咲様は、人のことラーメン屋に連れてくる割には、味を薄めというチョイスをする、そういった冷静さを持ち合わせています。


 冷静さと情熱のマリアージュ。

 それが咲様の真骨頂なのです。

 

 しかし。

 この日の咲様は一味違いました。

 一体何がそうさせたのかは分かりません。

 確かに海苔ダブル、味玉、白髪ネギ、ほうれん草をトッピングした豪華絢爛な見た目も見事なのは間違いないのですが……、でも違うんです。

 私が衝撃を受けたのは、大量のおろしニンニクと豆板醤を、こんなにも早い段階で投入していることに対してなのです。


 そうか、わかった気がします。

 今日に限っては『味薄め』は浮腫み対策なんかじゃないんだ。

 最初から大量に入れるニンニクと豆板醤により、塩分マシマシになることを想定してのものだったのですね!


 怖い、私怖いです。

 咲様の食に対する愛情が。

 しかし、もっと怖いのは食後の口臭です。


 何考えてあんなにニンニク入れてるんでしょうか?

 二日酔いでどうかしちゃったんでしょうね。

 それとも嫌なことでもあったのか。

 人間社会って本当に大変そうですね。


「な、なに」

「いや、ニンニクすげえなって」

「明日……、ほら。休みだし。最近冷やし中華ばっかだったしさ。悪くないよ? 悪くないんだけどさ。昨日からラーメンも食べたかったし、ね?」


 どうやら多少の罪悪感みたいなものはあるようですね。

 まさに罪の味ってことですね。

 そんな咲様の為に、今の私ができること。

 それは——。

 

「えーーい!」

「リルがこの段階でニンニクをっ!? しかもわたしに負けず劣らずの量を!?」

「ふふ。私と咲様は、いわば一心同体。地獄の底まで付き合わせてもらいますよ」


 うん!

 やっぱり醤油豚骨にはニンニクですねっ!


「おいしー! わたし、お米も持ってくる!」

「ふふふ、咲様ったら」



 その夜、必死に歯を磨きました。(それでも臭い)

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