咲とリルの雄々太区グルメ旅。餃子編・その2
あ、ありえない。
なんでビール飲めないの?
年齢制限って何?
法律で決まってる?
咲様はこんな不自由な世界で暮らしていたのですか……。
「法律なんて、法律なんてくそくらえです!」
それ以前に私、二十歳超えてますけどね!?
まあ、若く見られるのは悪い気しませんけど。
それにしても混雑しています。
大繁盛ですね、白猫亭並みです。
しかし、昼間からビールを飲むとは、咲様は怠惰の極みに達したと懸念しましたが、どうやら思い過ごしだったようですね。
この世界は、昼からビールを嗜む人もチラホラ見られます。
それに結構酔っ払ってます。
酔っ払いを見ると、やけに冷静になれるのはなぜでしょうか。
私も今後はお酒には気をつけることとしましょう。
「物騒なこと言わないで。ほら、これで我慢しなよ」
「うええ、なんですかコレ」
真っ黒だ。
なにこれ醤油?
ジョッキに醤油って、やばくないですか。
咲様、私のこと暗殺しようとしてます?
それにシュワシュワしてます。
醤油がシュワシュワしてます。
なにこれー、やだー、飲みたくなーい。
絶対に砂肝の仕返しだよー。
怖いよお。
咲様、根に持ってるんだぁ!
「あ、美味しい。ビールより好きかも」
「しいー! ビールのこと喋らないで!」
こんな飲み物もあるんですね。
すごい世界です、本当に。
「お待たせしましたー」
おやおや。
隣の席に出されたのが名物・羽根付き餃子でしょうか。
なるほど、羽根が生えてますね。
ふむ。
表面はパリッと香ばしく焼き上げ、楽しい食感を演出するというわけですか。
やりおる……、人気があるのも頷ける。
こいつぁ美味そうだ。じゅるり。
「リル、隣見過ぎ。もう少しで来るから待ってて」
「あ、咲様!」
来ました!
遂に目の前に羽根付き餃子が着陸しましたっ!
そうか、そうだったんですね。
その羽根は自らを美味しく、そして熱い内に私を食べてという強い想いから具現化した、いわば天使の羽根。
涙ぐましいですね。
「お醤油と、お酢、ラー油を少しかけてっと」
「あ、リル。気をつけて食べないと火傷するよ」
「ふふふ、今の私に多少の熱さは関係ないですよ。では、いただきまーす」
「あ、まって!」
……っ!!
こ、これはっ!?
想像通り、いや想像以上の羽根の食感です!
パリパリと口内で響く音色は、餃子の素晴らしさを脳内にガツンと伝える、まさにオーケストラ。
そして、皮の中から顔を出すのは、これでもかというほどの肉汁!
滲み出る豚肉の旨み、甘味が口に広がります。
まるで向日葵が咲き乱れる中、麦わら帽子を被り、白いワンピースをひるがえす少女になった気分。
……、ちょっと違うか。
生姜や、野菜も絶妙なバランスで練り込まれており、餡と良く馴染んでいます。
恐らく調合したのち、寝かせることによって味を熟成させているのですね。
手間暇かけた、愛情の一品ということがヒシヒシと伝わってきます。
まさに至高の一品。
あっぱれ、あっぱれ。
シェフを呼びたまえ!
だけど……。
だけどっ!!
「ふぇっ、ふぇっちゃくふぁふぁふいふえすっ!(めっちゃくちゃ熱いですっ!)」
あ熱すぎますって!
でも美味しい、けど熱い!
あ、熱すぎん!?
「だから言ったじゃん。猫舌とか関係ないんだって。熱いもんは熱いんだから」
「くっ、ここまでとは。餃子の攻撃力の高さ……、恐れ入りました。まさかここまでの殺傷力を誇るなんて」
「リルは大袈裟なんだよ。さ、わたしも食べよーっと。んー、久々に食べたけど美味しいー! これがまたビールが合うんだよねえ」
おお、いい飲みっぷりです。
このシュワシュワな醤油も美味しいですが、人が飲んでるビールって、何故にこんなに美味しそうに見えるのでしょうか?
くそ、こんなことならフルーネを誘拐……、もとい連行、じゃなくて連れてくれば良かった。
こっちの世界じゃ、お酒飲めないじゃーん!
周りが皆んな飲んでるから余計に飲みたいよー!
「はあ、美味しかったねえ」
「……、そうですね、最高でした。餃子は。」
「折角だからお土産買って帰ろうか。コジロウさんも夜には戻るだろし」
「ほうほう、家でもこの味が楽しめるのはいいですね」
「それに——」
咲様はテーブルに身を乗り出して、私の耳元で囁きました。
本当に、この世界は驚くことばかりです。
自動車とかいう動く乗り物。
所々聳え立つ電柱という名の石柱。
思わず全部押したくなるボタンが並んだ自販機。
訳の分からないものばかりです。
だけどダントツでこれが一位です。
まさか、缶ビールなるものがあるなんて!
それにしても咲様は、なんでもお見通しですね。
「じゃあ、お会計して少し散歩したらコンビニ寄って——」
「ビール買って帰りましょうっ!」
「だから声が大きいんだって」
そうと決まれば、お土産も沢山買わないといけませんね!




