咲とリルの雄々太区グルメ旅。餃子編・その1
遂に今日、リルとコジロウさんを雄々太区に招待した。
今や私の魔力のコントロールは、針穴に糸を通す正確さを誇る。
これに関してはリルのお墨付きだ。
練習を重ねた甲斐があるというものである。
なので、特に問題なく、リルとコジロウさんを雄々太区へと連れてくることが出来た。
コジロウさんは、直ぐに電車に飛び乗り娘さんの元へと駆けに行ってしまった。
相当楽しみにしていたのだろう。
感動の再会を思うと涙を禁じ得ない。
一方、リルは到着するや否や、異様な警戒心の高さを発揮した。
いつもの太々しい態度はどこへやら、環境の変化に弱いなんて意外な事実である。
道ゆく車や、舗装された道路、果ては電柱から自販機まで、ありとあらゆるものに、過剰に反応していた。
そして、私のアパートに着くと、頑なに外出を拒み、一歩も部屋から出ようとしなかった。
押し入れの中から引っ張り出すのに、どれだけ説得したことか。
急に猫っぽい行動をとるものだから驚きを隠せない。
中から爪を研ぐ音がしたので、かなりのストレスを感じていたのだろう。
敷金が返ってこなくなるから、本当にやめて欲しい。
だけど結局、昼頃には炬燵に入り、ミカンを頬張りながらワイドショーを見ていたので、リルの順応性の高さには舌を巻く。
早速、リルに美味しいものを食べさせようと思ったのだが、最初から人混みに連れて行くと疲れてしまうかもしれないので、近くの商店街に連れて行くことにした。
お肉屋さんには揚げたての惣菜もあるし、美味しいパン屋さんもある。
それに、最近タピオカミルクティーの店も出来た。
流行りが過ぎ去った頃に出来る辺り、流石は雄々太区だ。
「ほら、リル。尻尾と耳隠して」
「なぜですか? もしやケット・シーは捕獲対象ですか?」
「いや、違うけどバレたら面倒だから」
「面倒を避ける為に面倒な思いをしなくてはいけないなんて、全く不便な世界です」
えーと、私のパーカー着せれば尻尾まで隠せるかな?
ニット帽被せれば耳も隠せるね。
あー、瞳の色も目立つかも。
幸い空港も近いし、外国の子供と勘違いするだろう。
「ま、いっか。これで」
「ふふ、似合います? 異国の服を着ると少しワクワクしますね」
「うん。(中学生みたいで)可愛いよ」
「えへへ。良かった」
私の住むアパートから徒歩十分。
そこに少し大きな駅前商店街がある。
夕方になると買い物をするおばちゃんや、自転車に乗ったおばちゃん、それに世間話をするおばちゃんで賑わいを見せるが、この時間なら比較的おばちゃんも少ないだろう。
「おお、出店が所狭しと並んでます」
「色々なお店があるんだよ」
「おお、異国情緒溢れますね……、ん? あそこ、凄く人が並んでます」
何か気になるお店でもあったかな?
あ、いつの間にか餃子屋さんが出来てる。
しかもあれって有名な羽根付き餃子のお店だ。
やっぱり人気なんだねえ。
「なんのお店ですか?」
「餃子が有名なお店だね。折角だから食べてみる?」
「ああ、餃子! 確か一回咲様が作ってくれましたよね。耳みたいな食べ物でしたよね?」
「耳って」
「確かに美味しかったです。こちらの世界では行列を作る程人気があるのですね」
不思議そうな顔してる。
気になるのかな。
私もビール飲みたいし、今日はあそこにしてみよう。
「ビールも飲めるし、行ってみよう」
「ええー。こんな真っ昼間からビールですか?」
「いいじゃん。駄目?」
そんな気分じゃなかったのかな?
うーん、残念だ。
「でも……、悪くないですね。そうと決まれば並びましょう!」
「こ、こいつぅー!」
あ、でもリルって年齢確認しようがない。
もしかしたらビール飲めないかもな……。
どう見ても二十歳に見えないし。
ま、いっか!




