リルは秘密を抱えてるみたいです。その6
一本取られた——、そしてどうやらそれは、咲様にだけ、というわけでではなかったようです。
本来ならば、こんなこと言いたくないですが。
認めたくないですが。
記憶から抹消する為に、今一度魔王となりて、全世界を分子レベルから創造したいくらいの屈辱で! す! がっ!
どうやら、コジロウにもしてやられたみたいですね。
あいつ私が寝ている間に勝手に思い出映像流しやがって。
はあ、マジで萎える。
「コジロウさんって、リルのこと好きだよね」
「はい? 聞き捨てなりませんね。スキーならまだしも、好きとはこれいかに?」
「だって必死だったもん、リルの為に。妬けちゃうくらいに」
「そうですか? あいつが焼けたのは脳内ですよ。続編制作を防ぐ為にネタバレしたとしか思えません。狡いんですよ、あいつは」
「そうかなあ」
「何を勘繰ってるのです? 気持ち悪い考察はやめて頂きたいです」
咲様って……、以外にも恋愛脳なんですね。
初めて旅立つ時も、ミラと別れるの寂しい?
とか聞いてきましたよね、確か。
ミラが何歳年下だと思ってるんでしょうか?
私はタイプは歳上なのです。
包容力を重視します。
こう見えて意外に甘えるタイプです。
そして今回はコジロウですか。
無いわぁー。絶対無いわぁー。
無い無い無い。
ふむふむ、これは誤解を解く為にも、少し私の口からも説明が必要のようです。
「……、補足」
「ん?」
「補足していいですか?」
「ん、いいよ」
「あれはあくまでコジロウが作り出した映像です。いわば、コジロウの主観ですね」
「ナレーションもコジロウさんだったしね」
「だから今から話すのは、コジロウも知らない私の話」
咲様に話しておかなきゃいけない、コジロウと出会う前の話。
「座ろっか」
「はい」
私とコジロウの関係は、主従関係にありました。
でもそれは、私が幻獣界から外の世界へ連れ出す為の一時の契約の為。
幻獣界から人間の世界に渡る条件は二つあります。
一つ、召喚士と契約を結ぶこと。
二つ、幻獣界に来た人間と主従関係になること。
私が人間界に来ることが出来たのは、もちろん後者です。
この世界に私が存在できるのは、コジロウのおかげなのです。
話はここから少し遡ります。
私は忌み子として生まれました。
だからと言って、どうということはないんです。
だからと言って、愛されなかったわけではありません。
だけど、小さい頃は少し違いました。
少しだけ臆病で、少しだけ勇気がなくて。
そして少しだけ自分が嫌いでした。
真っ白な髪に、赤い瞳。
周りのみんなと違う自分が嫌いでした。
私が大きくなった時、幻獣界で大きな争いが起こりました。
大切な家族も傷ついたし、友達も傷つきました。
私が魔王として頭角を表したのはこの頃です。
全員が全員悪者ではありません。
だから私は悪者をやっつけました。
でもそれは独善的で、そして偽善的な行為でした。
一人で勝手に抱えた劣等感を、幻獣界を救うことで相殺しようとしたのです。
しばらくすると争いは無くなりました。
また平和な生活が戻ろうとしていました。
だけど私が守りたかったものは、私の前からいなくなってしまいました。
掬い上げた筈の大切なものは、気づかぬ内に指の隙間から溢れていたのです。
感謝されることもありました。
それこそ、崇め讃えられるように異常なほど。
同時に恐れられらようになったのです。
私の魔王として戦ったその姿が。
でも、それでも良かったんです。
皆んなのことを守れたから。
私がいない所で皆んなが笑顔なら——、それで。
そんな時、現れたのがコジロウでした——。
「……、ちょっと待って」
「はい?」
「誰の話?」
「私以外に誰がいるんですか」
「待って、泣きそう」
「どこかに泣きそうなシーンありました?」
「リルって真面目に話出来るんだね」
……、もう話すの辞めようかな。
でも、咲様が心配そうに手を繋いでくれているので、仕方ないので話すとしましょう。




