リルは秘密を抱えてるみたいです。その5
さあ、どうなるのでしょうか。
どうなってしまうのでしょうか。
待てっ! 次回っ!
といきたいところですが、それはやめておくことにしましょう。
こんな咲様の真剣な顔を前に悪ふざけは出来ません。
こんな、真剣な……、顔。
ふふふ。ひ、人の真顔って面白いですね。
「ははい。質問です」
「は、はい。どうぞ。ふふ」
まあ、想像はつきますが。
てかそれしかないですよね。
「同じ質問になるけど、リルは本当に魔王なの?」
ですよねー。
そうですよね、やっぱりそこですよね。
でもいつかは伝えなければいけなかったことです。
咲様を騙しているみたいで、ずっと気になっていたことだったのですから。
でも、いざその時が来ると緊張しますね……。
魔力酔いもすっかり覚めてしまいました。
緊張度合いでいうと、デイダラボッチとの死闘以来でしょうか。
心なしか、咲様からデイダラボッチ並みの圧を感じます。
「正確に言えば元・魔王です」
「あ、本当なんだね」
「黙っててすいません」
「魔王って何するの?」
「……、そのままの意味です」
その言葉にそれ以上もそれ以下もありません。
言い訳もないし、したくありません。
私は幻獣界で魔王として恐れられていました。
人間のいうところの神の世界、その世界に君臨していた魔王。
なりたくてなったわけではありませんが、魔王であったことは否定できない事実。
忘れたくても忘れならない。
変えたくても変えられない。
私の過去。
「ふうん、そうなんだ。さ、帰ろうか」
「そうなんです。驚きましたよね、ガッカリしましたよね、失望しましたよね」
「いや、早く帰ろうよ」
「言い訳はありません。でも、これだけは分かってほしいんです」
「あの、聞いてる?」
「私は——、私なりの信念を持って魔王やってました! 誰にも負けない立派な魔王になるべく、研鑽を怠らぬ毎日を過ごしていました」
「……、おーい」
「はい? なんでしょう」
ああ、咲様。
真顔はやめて。
私、笑っちゃうから。
「待ってくれっ!」
は、この声は!?
気のせい……、か。
私ったら、馬鹿なんだから。
もうコジロウはこの世にいないのよ。
あの人はもう、映写機に転生して異世界を救う勇者になったんだから。
「コジロウさん!? 生きたんですね!」
「や、やあ。咲ちゃん。美人に磨きがかかったんじゃないかい?」
(コジロウさん、まだ煙出てる)
「ちょっとコジロウ。私、言いましたよね? 気安くちゃん付けで呼ぶなって」
「す、すいません」
「いやいや、別に呼び方なんてなんでもいいから」
全くもう、咲様は甘ちゃんです。
もしかして尼ちゃんですか?
「んなわけあるか。尼さんをちゃん付けで呼ぶな」
「なぜ心の声を!?」
「小声が漏れてんだよ」
「そんなことよりっ!」
おおう。
コジロウまで真剣な顔をしている。
こっちはイラッとしますね。
何故でしょう。
「咲ちゃん、勘違いしないでほしい。リルは魔王をやりたくてやっていた訳じゃないんだ」
「はあ、そうですか」
「リルは荒れ狂う幻獣界を救う為に、敢えて汚れ役を買って出てたんだ」
「あ、はい」
「それなのに、その圧倒的な力によって逆に恐れられるようになり、気づいたら魔王として畏怖される存在に……」
「らしいですね」
「忌み子として生まれた存在であることは間違いない。しかし、リルは違う。リルは……、え?」
「だからそれも上映されていたんで、はい。分かってますけど」
そんな場面ありましたっけ?
監督の私も知らない場面です。
誰か脚本いじりました?
まさか、真実を分かってほしいという私の深層心理が写し出されていた?
だとしたら……、監督失格では。
いやっ! 元・魔王失格です。
失ト・シーです。
「全部ちゃんと見ましたから、分かってます。それにそんな説明なくたって、リルはそんなことしないって信じてます」
「咲様っ!」
「咲ちゃんっ!」
「ちょっとコジロウさぁ、乗っかるのやめてくんない?」
「口調が変わるほど嫌がらなくても」
私は咲様の底知れぬ器を把握しきれていませんでした。
咲様はやっぱり咲様なのです。
尼ちゃんなんかじゃありませんっ!
しかし、一体いつそんなシーンが流れたのでしょう。
奇想天外、摩訶不思議です。
奇妙奇天烈です。
「だってあんた——」
ま、まさか咲様が私の脳内を!?
「コーンバター食べた後、ほぼ寝てたじゃん」
……、これは一本取られましたね。




