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リルは秘密を抱えてるみたいです。

 ……、リルです。


 咲様との楽しい旅も終わりを迎え、間抜けの殻になってます。

 いや蝉の抜け殻……、違うな。

 甘エビのむいた殻でしょうか。


 殻で出汁取ると美味しいですよね。

 蝉の殻ではないですよ。

 間抜けの方でもありません。

 甘エビの殻ですからね。

 ゆめゆめお忘れなきようお願いします。

 

 ……、とにかく。

 私が何の殻になろうとも、あの素晴らしき日々は戻ってきません。


 悲しさのあまり、食欲不振に陥ってます。

 本当に、今回ばかりはまじ卍。


 一体何故、咲様が旅を終える決断をしたのか。

 これにはのっぴきならぬ重大な、そしてセンセーショナルで、エモーショナルな、そんでもって時折センチメンタルな感じの理由があるとか無いとか。


 なんやかんやお大袈裟に言いましたが。

 簡単に言うと、周り切っちゃったんですわ、世界。

 もう行くとこないの、なんのって。

 最後の方なんて、樹海とか行ってましたから。

 人間なんて一人もいないに決まってます。


 咲様なんて、ゴリラに顔面を鷲掴みされたり。

 虎に追い回されたり。ははっ。

 アナコンダにアナコンダバイスかけられてたり。

 

 あははははははははっ!

 ……、んんっ。こほん。


 私達は再びコリンに舞い戻りました。

 それはそれは歓迎されたのですが、暇で暇で仕方がありません。

 咲様のお手伝いをしたいという人間が殺到するものですから、私の仕事が無くなってしまったのです。


 それからというもの。

 私は毎日、砂浜で過ごしました。

 そして砂つぶを数える日々が始まりました。

 雨の日も風の日も——。

 

 その日も砂つぶを数えに海向かうと、大きな鯨が遊びに来ていました。


「ありゃ? 懐かしいですね。『巨鯨』さんじゃないですか」

「よお、リル。元気でやってるのか?」

「げっ……。コジロウ」

「そ、そんなあからさまに嫌な顔しないでよ」


 何しに来たんだ、こいつ。

 

「それにしても懐かしいな」

「そうですね。相変わらず貴方は小汚いですが」

「リルはだいぶ変わったな。咲ちゃんのおかげで」

「気安くちゃん付けで呼ばないでもらっていいですか? 虫唾が走り回るんで」

「……、はい、すいません」


 コジロウは、単純に咲様との私に会いに来たらしく、お土産を沢山抱えていました。

 お土産置いて帰ればいいのに、まったく。


「佐々木さんは?」

「忙しそうですよ。休めばいいのに、走り回ってます」

「そうか。構ってもらえなくて寂しいな」

「……、そんなバナナ。バナナあります?」

「はい、どうぞ」


 まあ、寂しいんですけどね。

 バナナの味も、今となっては涙の味ですよ。

 ……、また咲様と旅に出たいなあ。


「本当に安心したよ」

「何がですか?」

「リルが幸せそうで。どうだい? 少し昔話でも」

「……、勝手にどうぞ」


 たまには思い出話も、悪くないかもれませんね。

 すっげえ暇ですし。



 私とコジロウの昔話。

 きっと誰にも言うことはない、秘密の話。

 だけど咲様にだけはいつか話そうと思う。

 少し怖いけど、咲様には話したいと思える。

 

 私が魔王だった——、あの頃の話を。







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