リルは決意をしたようです。中編
私は決意しました。
そして同時に始まったのです。
人生初のダイエット生活が。
ここでその生活の流れをご紹介しましょう。
まず少し早起きをしてマラソンです。
基本中の基本ですね。
これは意外にも気持ちのいいものでした。
お日様を全身に浴び、清々しい朝の空気を目一杯吸い込むと、なんだか心が晴れやかになります。
なんと言ってもマラソン後のご飯が美味しいこと。
これだけでマラソンは続けられそうです。
お昼は咲様のお手伝い。
『白猫亭』の噂は、今やグラモア中に広がっています。
幌馬車を見かけた人が噂を広げ、あっという間に行列が出来てしまいます。
私は主に接客を担当してますが、もちろん味見の仕事も怠りません。
てんやわんやしていても、それは絶対なのです。
変なものをお客様に提供するわけにはいきませんからね。
この味見が私の大切な仕事なのです。
ピークが終わると、遅めの昼食です。
その日のメニューを少しアレンジしたものが主な昼食です。
咲様のご飯は、何故かマヨネーズの相性が抜群にいいです。
なのでマヨは欠かすことの出来ない調味料ですね。
そして休憩。
お腹がパンパンになったところで、お昼寝タイム。
今までならそうしてました。
しかし私は今や、一流のダイエッター。
寝っ転がり目を瞑りながらも、足を上下に動かすことを忘れません。
そしてお待ちかね。
おやつの時間です!
当初、「おやつは我慢すれば?」と咲様に言われました。
とんでもない。
咲様は、なんて恐ろしいことを言うのでしょう。
ちょっと何言ってるか理解が追いつきません。
口にするのもはばかれます。
耳を疑いました。
夢かと頬をつねりました。
確かにむにむにしてました。
おやつの為に生きている。
今の私は、胸を張ってそう言えるのです。
えっへん。
なので、絶対に。
何があってもこれだけは譲ることは出来ません。
おやつを抜くことは拒否することをここに誓います。
宣誓を宣言します。
白猫亭は基本的にお昼の営業のみです。
咲様は夕方になると、魔力の操作とスキルの練習をします。
お世辞にもスジがいいとは言えませんが、努力の才能は人一倍あるようです。
当初と比べると、とても成長しています。
素晴らしいですね。
私は最近、魔法なんて全然使ってません。
このままだと使い方すら忘れてしまいそうです。
夜ご飯は私が担当しています。
今日は何にしましょうか。
そうだ。牛丼にしましょう。
甘辛いタレに、温泉卵。
そこに大量のチーズを乗せる。
考えただけで、ヨダレが出ます。
そうだ。
ビールも一緒に飲みましょう。
フルーネはいつでも、咲様の指輪から呼び出すことが可能。
とても便利でいいですね。
夜の運動は筋トレです。
腹筋、腕立て、背筋、スクワット。
計、十回ずつ。
少ないのでは、と疑問を持たれる方もいられるでしょうね。
大間違いです。
今まではやらなかった運動です。
その効果は絶大でしょう。
そして問題はここからなのです。
むしろ私の諸事情の大半は、この時間に集約されていると言っていいでしょう。
夜も更け、咲様も眠りにつく頃。
私の腹の虫が産声を上げます。
そして、我慢すればするほど目が冴えて来るのです。
しかし、ここでアレを口にしたら、今日一日の苦労が水泡と化します。
我慢我慢。
せめて気を紛らすことが出来れば。
よし、一人しりとりをしよう。
しりとり、りんご、ゴリラ、ラッパ、パセリ、リス、砂、生クリームあんこバターパン、あっ!
んがついちゃった。
いけない、いけない。
それにしても、夜食で生クリームあんこバターパンを食べるのは最高ですね!
「……、リル」
「はっ! 咲様!」
「何してるの?」
「……、在庫の確認です」
「口に生クリームつけながら?」
「はい。これが異世界のトレンドです。こうすることによって、記憶力は当社比二倍。暗算も早くなり、膝の痛みは消え、朝の目覚めも良く、運気は上昇。更に足が長くなり——」
「……」
「バッチリ二重になります」
「へえ」
どうやら咲様は呆れてしまったようです。
私は……、ダメなケット・シーですね。
ダメット・シーです。
「リル、本当に痩せたいの?」
「……、はい」
「じゃあ明日からダイエットメニュー作ってあげるよ」
「咲様!」
「わたしも付き合うからさ、一緒に頑張ろうよ」
「じゃあ明日からですね!」
「うん。明日から」
「じゃあもう一枚食べてもいいですか!?」
「…………」
流石に食べさせてくれませんでした。




