最終話
ミラは最後まで頭を悩ませていた。
わたし達について旅をするか、聖都に戻るのかを。
しばしの間、痛む頭を抱えながら、最終的にミラは戻ることを決断した。
お世話になった三羽烏や、聖都の人達に黙って旅立つことは出来ないとの判断だった。
キリシア達との別れはサッパリとしたものだったが、意外にもリルは名残惜しそうだった。
少し素っ気ない、そんな態度でミラと別れの挨拶を終えると、そそくさと馬車に乗り込んでしまった。
歳の頃も近いせいか、リルにとっては話しやすい相手だったのかもしれない。
「……、なんですか?」
「寂しい?」
「んなバカな」とリルは笑った。
———
「ねえ、ねえ。勇者というか、あの驚きの肉体美を誇る人は結局どうなったのかな?」
「ああ、悲惨にも誤召喚された筋肉さんですね」
魔物や魔獣などの存在はこの目で確認しているのだから、もちろん魔王なる者も存在するのは確かだろう。
「話を合わせた方がいいと思ってたのですが、そんなこと出来るならとっくにやってると思いませんか? わたしが魔王だったら即実行、即支配しますよ」
こいつ、とんでもないことを言い出したな。
だけどリルの言うこともごもっとも。
まだ一ヶ月も滞在していないが、この世界で魔王の話は一度も耳にしなかった。
「人間側に神に祈る時間も与えず、絶望を骨の髄まで味合わせる。それをしない理由」
魔王がそんな気はないからですよ、とリルは言った。
ならばなぜ、わたしや筋肉さんは召喚されたのだろうか。
まだわたしは良いとしても、筋肉さんにとってはいい迷惑だろう。
「そんな気は無くなった、と言うのが正しいかもしれませんね」
「なんか知った口だね。勿体ぶらず教えてよ」
「私、ミステリアスな女性を志していますので。おほほほ」
一瞬リルが魔王なのではと思ったが、ミステリアスを目指しているのならば、それを聞くのは不粋というものだろう。
「さてさて。まずは海沿いを進んだ先の町を目指しますか」
それにしても最低半年の旅か。
思いがけず、随分と長旅になりそうだ。
「何を言ってるのですか。グラモアが大国とはいえ、この世界からしてみれば、ほんの一部。これからですよ。咲様の料理が国に、大陸に、そして世界に広まっていくのはこれからなのです」
まだまだ始まりの始まり、序章が幕を閉じた程度です。
と、リルは馬車を走らせる。
「おおー、壮大だねえ。何年かかることやら」
「本当にいいんですか?」
リルは少し心配そうに尋ねてきた。
「帰らなくて」
少し名残惜しいと言えば、嘘になる。
それに少し、心変わりした点もある。
「……、いつかリルを、連れて行ってあげたいな。わたしの生まれた世界に」
「それはいいですね」
「美味しい食べ物もいっぱいあるよ」
「目的がまた一つ増えましたね。それにしても、あんなに帰りたくなさそうだったのに」
「リルと一緒ならどこだって平気」
「奇遇ですね。私もそんな気がします」
きっと、どこでも行けるし、なんでも乗り越えられる。
そりゃあ嘘みたいなことや、大変なこともあるだろうけど、そんなの全然へっちゃらだ。
まだまだわたし達の物語は終わらない。
私と、リルのご飯で。
世界が笑顔で溢れる、その日まで。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。
お楽しみ頂けたのなら幸いですが、誤字脱字など甘苦しい点もあったと思います。
順を追って修正していきたいと思いますのでご了承下さい。
↑
言ったそばから誤字をかましてますね。
自戒としてそのままにしておきます。笑
後日、いつになるかはまだ未定ですが、リルの視点で少しだけ物語を追加しようと思っています。
最後になってしまいましたが、ブックマークや評価をつけて下さった皆様ありがとうございます。
一喜一憂の日々でしたが、おかげでとても充実したものになりました。
次回作構想中ですので、思い出したらまた作者ページを覗いてくれると幸いです。
猫鈴




