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 失敗を何度か繰り返し、その度に味見を繰り返す。

 ぬるい、微炭酸、泡ばっか。

 そんな様々な失敗作を経て、ようやく納得出来るビールを完成させることが出来た。


「木製のビア樽に変更したのは功を奏しましたね!」

「うん、やっぱりイメージって大事だわ。タライのビールなんて想像出来なかったもん」


 なんとか成功したのは一安心。

 だけどビール作りは、思った以上に時間がかかってしまった。

 これだと手の込んだ料理を作るのには時間が足りない。


 しかしっ!

 わたしの真骨頂は酒の肴なのだ!

 刺身をメインとして提供するのならば、他の品はお手軽に済ませば大丈夫なはず。

 

「でもこの作り方だと咲様しかビールを作れません。今回だけなら大量に生産して、わたしの鞄で保管していれば問題はないですが」

「それなんだよなぁ……」


 これはリルの言う通りだ。

 この生産方法は、いわゆる今回限りの裏技的なやり方。

 継続的に生産出来るようになるには、コジロウさんの協力が必要になってくる。


「咲様のことですから、何かお考えがあるとは思いますが」

「コジロウさん頼りになっちゃうかもしれないけどね」

「あやつは協力せざろう得ないです。なんせ貸しがたっぷりとありますからね」

「だといいんだけど……、よし。ビールの問題は一旦置いといて、食事の準備に取り掛かろうか!」


 刺身を作るんだったら、豪勢に盛り付けてみよう。

 今回はレセプションみたいに大人数を相手にするわけでもない。

 ビールの美味しさと、刺盛りの派手さで勝負しよう。

 

「お魚って沢山あるよね?」


「アホみたいに鞄に入ってます」と、リルは次々と魚を取り出した。


 アジ、イワシ、サンマなどの光り物。

 タイやヒラメ等の白身魚。

 しまいにはマグロの柵まで飛び出してきた。


 コジロウさんは漁師の経験でもあるのだろうか?

 それにしても有り余るほどの量だ。

 

 若干、見た目の違いや色の違いはあるのに不安を感じるが……。

 さすがに食べれないものを送ってくることはないと思うので、気にせずに捌いていくことにした。


「最初は何からにしようかなあ。なんか目移りしちゃうね」

「この平べったいのは……、どうやって捌くのですか?」

「これはヒラメ。捌いてみる?」


「なんかヌルヌルしますね」と、リルはヒラメを指先でつつき始めた。


 ヒラメの特徴の一つだよね。

 ヌメリが強く、捌くのも少しだけ手間がかかる。

 だけどそれもリルにとって、いい経験になるだろう。

 よし、これからいってみるか。


「まずね、水をかけながらこうやってタワシで擦っちゃうんだ」

「ヌメヌメと、鱗が取れるんですね」

「そうそう。でもこれじゃあまだ完璧じゃないんだ」


 ヒラメは『皮すき』をやる必要がある。


 『皮すき』とは頭を右に向け、尻尾から頭に向けて鱗ごと表面の皮をすき取る作業だ。

 失敗すると身に包丁が入って傷ついてしまうし、すいている皮が途中で切れてしまう。

 これがちょっとだけコツがいる。


 そして、よく手入れをした包丁も必要になる。

 包丁に関しては心配なさそうだけど……。


「ん……、んん? ちょっと難しいかも」

「失敗してもいいよ。薄く切るからなんとか誤魔化せるし」


 とは言うものの、初めてやったとは思えない位の『皮すき』をリルは披露してみせた。

 やっぱり包丁の扱いに関しては、わたしよりリルの方が全然上手い。


「上手、上手。ヒラメは鱗がすごい細かいんだ。これをやらないとウロコまみれになっちゃうの。さ、一回まな板を綺麗にしようね」

「……、はい! 綺麗にしました!」


 ヒラメはここからも少し難しい。

 まずは頭を落として、内臓を取る。

 ここまでは他の魚と同じ。


 まずは尻尾に切れ目を入れ、エンガワを傷つけないように背びれの下に包丁を入れる。

 骨に刃を当てながら、中骨まで切れ目を入れ中骨に沿って切り落とす。


 こうすることで背側で身が二枚、腹側で二枚。そして骨が残るので、五枚おろしというわけだ。


 などと説明してると、リルは苦にする様子も見せずにあっという間に綺麗に捌いてしまった。


 すげえな。

 わたしなんて失敗しまくったのに。

 身もエンガワも、ボロボロにしたもんだ。


 器用というより、これはセンスだな。

 リルは間違いなく包丁を操るセンスがある。

 これは大きな料理の才能だろう。


「五枚おろしにしないで、そのまま三枚おろしにしちゃう人もいるけどね。知識として覚えといて損はないと思うよ」

「……、勉強になります。咲様はなんでも知っているのですね」


 いつもこうやって褒めてくれるけど、実際わたしの知識なんて大したことはない。

 本当だったら、ちゃんとした人に教わった方がいい。

 きっとリルはすごい料理人になれる。

 

「なんでもは知らないよ。わたしなんて全然。料理が上手で、詳しい人なんて山ほどいるからね。あとは皮をひいてエンガワ外しておしまい」


 おしまい、なんだけど——。

 このエンガワが美味しいんだなあ。


 エンガワ好きなんだよ。

 たまに行く回転寿司のエンガワはカレイだし。

 ヒラメのエンガワなんて、あまり食べる機会ないんだよな。


 よし。食べちゃおう。

 ビールを鞄から出して、エンガワでぐいっとやってしまおう。

 リルも目をキラキラさせてるし、気持ちは同じに違いない。


「リルさん。お待ちかねの——」

「味見タイムですねっ! 待ってました!」

「あのさ、ちっさいコップでいいからビールもお願いしていい?」

「お、いいですねえ。わたしも飲んじゃおっかな!」

 

 それじゃあ、いただきまーす!


 やっぱりエンガワは美味しい。

 ビールも冷えてて最高だ。


「んー。 脂が乗ってて、味も濃厚ですっ! ……、なんかミラに悪いことしてる気になっちゃいますね」

「そ、そうだね」

「もしかして咲様。……、忘れてました?」


 そ、そんなことはないよ!?

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