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「……、この格好をする必要があったのでしょうか?」

「当たり前です。潜入といえば忍者、忍者といえば忍び装束。これはこの世に生命が誕生した時から決まっている因果律なのです」

「因果律の意味分かってる?」

「いいえ?」


 明らかにコジローさんからの影響だろ。

 だけど、この格好。

 少し胸が躍ってしまうのは何故だろうか?

 

「まあ、コジローからの受け売りですけどね」

「だろうね」

「ピンク色は逆に目立つと思うのですが……」


 ミラの忍び装束はピンク色だった。

 この暗闇の森の中、最も保護色とはかけ離れた色。

 もはや不忍(しのばず)装束だ。


 今回バトリアへと向かうにあたっては、リルとミラが同行することになった。


 三羽烏はお笑い担……、じゃなくて、バトリアに対して少しうがった見方をしている部分があるので、今回はお留守番をしてもらっている。


「咲様、あれがバトリアです」

「……、本当に小さな国なんだね」


 バトリアは、コルンの森を抜けた先にある崖の上から一望できる。

 城下町が防壁でぐるりと囲まれており、中心には城が小さな聳え立っている。

 城周りは堀で囲まれており、中央に城へと繋がる橋が一本だけ架かっているのが窺えた。


 バトリアの町はコルンとは違って城下町だ。

 すんなり入ることは難しそうだ。

 というのも、中に入るのは関所を通る必要があり、通行証が必要なようだ。

 誰と会うのか。

 なにが目的なのか。

 問題なく通過するには、それらを明確に証明しないといけない。


 謎の女と、猫耳女と、美少年の組み合わせで証明証無し。

 正面突破は難しいとの見解だった。

 馬鹿正直に理由を話しても、恐らく門前払いだろう。


 だろうね。

 だって見るからに怪しいもん。


 というわけで『夜間に勝手にお邪魔しちゃって、騒ぎを起こさずに話を進めちゃおう作戦』に出た次第である。


 作戦の内訳はこうだ。


 武装集団のリーダーとの接触。

 その後、バトリアの王との謁見。

 そしてわたしが考えた案を飲み込んでもらい、これを実行し、尚且つ争いを起こさずして、グラモアとの交渉に臨む。


 これらの『任務(ミッション)』を完遂(クリア)し、両国の友好を深めこれからは仲良くしようねって内容だ。


 言っててハードル高くね?

 って思ったけどやるしかない。


 因みに、作戦失敗時にはリルが魔力を解放して、脅しまくって半ば強引に王様と会うらしい。


 そんなんしたら打首になるぞ。


「城壁を突破するには、ある方法があります。ミラ、貴方ならどうしますか」

「えーと、警備の薄い壁を登る、とか? リルとは違う?」

「喝っ! 部隊長とお呼びなさい」


 ……、なに言ってんだこいつは。


「えっと、部隊長? の案はなんでしょうか?」

「忍者と言ったら鉤縄でしょうよっ!」 


 リルは鉤縄を不思議鞄から取り出すと、効果音付きで誇らしげに掲げた。

 今の所、忍ぶ気はないようだ。

 楽しそうでいいね。

 ミラも偉いね。ちゃんと付き合ってあげてんだから。


「本来ならば城壁如きはひとっ飛び、あるいは爆破、もしくは抉って穴を開けます」

「本来そんな事しないから」

「だけどね、だけど私達は忍者なの。因果律なの。だったら鉤縄一択でしょう? ニンニン」


 うんうん。

 いつもならもう寝てる時間だもんね。

 大晦日に夜更かしを許されて、テンション上がってる未成年みたいになってるんだね。

 でも明日恥ずかしくなるからその辺にしときなね?


「初めて見ました。これを壁の向こう側に投げて引っ掛かるんですね」

「——っ!? 恐ろしい子。一目見ただけで……。これが才能なのね。だけど努力の数なら、アタイ負けない!」

「リル? そろそろ落ち着こうか」

「とまあ、冗談はさておき。忍具もあながちバカに出来ません。一番警備の薄い場所で鉤縄を試してみましょう」


 そう言うと、リルは器用に鉤縄を城壁の内側に投げた。

「引き寄せて縁に引っ掛かれば成功です」と縄を手繰り寄せる。


 言うだけあって忍具の使い方が小慣れてる。

 リルは身体能力も高く、縄を伝って簡単な城壁へと登った。

 そして一度辺りを見渡し、打ち合わせをしていないハンドサインでこちらに合図した。


「来いって事ですかね?」

「うん。そうだろうね」


 ミラは誘われるがままに縄をつたい、登り始めた。

「決して運動神経は良くないです」とミラは言っていたが、さほど苦戦する様子はない。


 確かにミラは謙遜するタイプではある。

 しかし正直な子ではあるので、自信が無かったというのは本音だろう。

 それでもミラは見事に城壁を上り切ってみせた。

 これは若さの成せる業だろう。


 ……、次はわたしか。

 ドラ猫追いかけて、マンホールに落下する鈍臭さを兼ね備えるわたしが、この高さを?


 いくら鉤縄があるとしても、とても登れる自信がない。

 自慢じゃないが、わたしの運動能力は絶望の一言で言い表すのもおこがましい程だ。


 運動会の徒競走はぶっちぎりでビリ。

 走り幅跳びは、踏み切りの直前にどっちの足で飛ぶのか分からなくなり転ぶ。

 体も固いし、スキップも出来ない。

 握力もないし、斜め懸垂も平均の半分以下だ。


 リルはそんなわたしの気も知らずに、相変わらずこちらにハンドサインを送っている。


 やめろ、だからウインクすんな。

 なんでずっと下手くそなの?


「はあ……、そんなことも言ってられないか」


 わたしは意を決し、縄を掴んだ。

 そしてゆっくりとではあるものの、城壁の半分程度まで登る事が出来た。


 だが、ここが限界だった。

 掴んだ縄は掌に深刻なダメージを与え、徐々に握力を奪っていく。

 踏ん張る足もガクガクだし、息も絶えだえ。

 わたしに残された道は、落下の他に無かった。


「やばいっ! まじで無理!」

「えっ? さ、咲様!?」


 その瞬間。

 突然耳元でヴェントが囁いた。


「僕が上まで運んであげるねー」


 わたしはそのまま、フワフワとリルとミラが待つ城壁へ着地した。


「……、お待たせ」


 何だよ。

 なんで二人とも無言なんだよ。

 しばしの静寂の後、堰を切ったようにリルが話し始めた。


「……、咲様って、ほら。えっとあれなんですね。何と言いますか、想像してた以上でした。でも得意不得意は人それぞれですもんね。今度からはわたしが咲様を確実にエスコート致しますから。いいんです、いいんです。お気になさらず、次から頑張りましょう」



 やめとくれ。

 言葉数多く励まされると、すっごく悲しくなるから。

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