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「召喚獣と一言で表してもその実態は様々です」

 それこそピンキリですよ、とミラが教えてくれた。


 召喚獣には、リルのみたいな人型の神獣もいれば『神鯨(ケートス)』のようなタイプもいる。


 一方、メラミーやヴェントは精霊と呼ばれている。

 てっきりわたしは、神獣と精霊は別物だと思いこんでいた。

 しかしミラ曰く、精霊も召喚獣のカテゴリーに入るらしい。


 使役していない精霊は、召喚士にとって敬うべき存在。

 なので三羽烏は扇風機みたいにぐるぐる回された後、ヴェントにお説教を受けていた。


「うるさいとか以前の問題で、おじさんが取っ組み合いをするのはどうなの?」と語尾も伸ばさず、冷めた口調で話すヴェントはまるで別人。

 いや、別精霊だった。


 キャラを崩してまで説教をするヴェント。

 ヴェントにとって、フルーメはとても大切な存在みたいだ。

 しかしあそこまで怒るとは。


 三羽烏はぐうの音も出ずに、褌姿のまま俯いていた。

 とりあえずズボン履けばいいと思う。


「しかし、咲様。思った以上にバトリアとの確執は深そうですね」


 主張しているのは領土の返還か。

 グラモア側は支援や援助をしているらしいけど……。

 それだけでは納得がいかない何かがあるのだろう。


「コルンの森で得られる資源は、それこそ木材とか鉱石?」

「一番は魔石でしょうね。この世界で暮らしていくのには重要なものですから。簡単に説明しますね——」


 魔石。

 それは魔獣の体内で稀に生成される鉱石。

 採取した魔石は、魔力を溜め込む器として利用される。


 火の魔法を注入すれば魔石は熱を帯び、氷の魔法を使えば冷気を帯びる。

 電の魔法を使うとピカーっと光る。

 簡単に言うと、そんな感じだ。


 魔石を水に落としてお湯を作ったり、コタツみたいに足元を温めるなんて使い方が出来るらしい。


「誰でも魔法が使えるわけではありませんからね。火魔石が一つあれば、そんな人達も生活が楽になります。冬場には暖を取る事も可能です」


 魔石はこっちの世界のインフラってことか。

 ガスや電気が無い代わりに、魔石でそれらを補って生活してるんだね。


 なるほどねぇ。

 確かにコリンの森には魔獣が多かった。

 森に篭っていたからそれは分かる。

 これだけ魔物が多ければ、魔石の採取にも困らないだろう。

 そんなに重要なものならば、バトリアが固執するのも当然か。


「魔石の特徴は、魔力の保存です。魔石の質によっては一度込めた魔法がかなりの期間持続します」

「じゃあ、良質な魔石は——」

「いいお値段で取引されますよ」


 それだけ便利ってことの証明だ。

 ガス代を払う代わりに、一ヶ月持続する火魔石を購入するって感じ?

 衣食住で必要になるものだから需要も高いだろうし、結構人気がありそう。


「薪の値段が一束、100ミョルです。ひと月で3000ミョルミョ超えますからね。安い魔石を買ったとしても、数ミョルミョルのお釣りが出ますよ」

「……、ミョ?」


 ミョ、ミョル?

 なにそれ。

 もしかして通貨の単位なの? 


「火魔石はひと月ほど持つ物で6000ミョルミョです。薪より割高ですが、手間も掛かりませんし用途が広いです。やはり人気がありますね。一度その便利さを知ってしまえば、3000ミョルミョくらいの差なら皆気にしません」


 ふむふむ。

 火魔石には3000ミョルミョ以上の価値があるってことか。

 よく分からんけど。

 

「昔は薪も10ミョだったんですけどね。伐採を林業以外の人達は出来なくなって、それ以降は100ミョルになってしまいました」


 10ミョだったのが、100ミョルになったのね。

 うん。全然分からん。

 話長くなりそうだから、掘り下げるのはやめておこう。


 じゃあ元々、バトリアは魔石の売買を収入源にしていたのか。

 だとしたらそれは大問題だよね。

 いくらグラモアから援助を受けているとはいえ、インフラと密接に関わっている魔石の売買に比べたら相当なマイナスに決まってる。


 バトリアは援助や支援云々の話をしていないんだ。

 魔石産業を横取りされた遺恨が、今も根強く残っているのだろう。


「バトリアは小さい国ですし、グラモアに対して有利に立つことの出来る交渉材料もありません。敗戦国というのも相まって内情は最悪でしょうね」


 話を聞く限り、恐らく魔石の売値も、コルンとは違っている気がする。

 反乱が起こるくらいだ。

 足下を見られてるに違いない。


 こうやって話を聞けば聞くほど、わたしなんかが関われる問題じゃないよなあ。

 この世界の歴史なんて分からないし、国の政治問題ともなってくると下手に首を突っ込んだって、役立たずもいいとこだ。

 

 だけど命が関わってる問題が目の前にあるのに、なにも出来ないのも悔しい。

 うーん。

 なにか、ウィンウィンの関係が築くことが出来ればいいんけど。

 魔石に変わるだけじゃなく、それに匹敵する何かがバトリアにあればいいのに。

 

 取引材料、か。

 ……、そうか。


 無ければ作ればいいんだ。

 特産品や名産、もしくはそれに準ずる産業を産み出すことが出来れば——。


「何か思いつきました?」

「……、うん。わたしは食べ物のことしか取り柄がないからさ。どうしても、思い浮かぶのがそっち方面になっちゃうんだけど——」


 だけど。

 上手くいけばバトリアの侵攻を食い止められるかもしれない。

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