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アディルが港町を出発した二日後。
すぐにミラと三羽烏はこちらに出向いてくれた。
「咲様!」
ミラは顔を合わせるやいなや、弾ける笑顔を振り撒き、こちらに駆け寄ってきた。
相変わらずまつ毛が長いし、目がでっけえし、髪はサラサラだし、顔は可愛かった。
ハグしたいけど、犯罪になりそうなのでグッと堪えた。
「アディル君はコルンに残るみたいです。何やら緊張の面持ちでしたよ?」
「ははは、覚悟は決まってるみたいだね」
親子なんだから仲がいいのが一番。
アディルも根は素直でいい子なんだから、きっと上手くいく。
「ご無沙汰しております、咲様。息災で何より」
三羽烏は同じポーズをすると、声を合わせて同時にお辞儀した。
えっと。
どれがファルコンだ?
……、ふふっ。
だ、だめだ。
三羽烏を見ると、あの光景が脳裏に浮かんで離れない。
だけど笑っちゃだめ。
あれ、わたしのせいなんだから。
「……、こほん。ミラ達は大丈夫なの? 色々、聞いたよ」
「大丈夫とは言い切れません。しかし、今回コルンに攻め入ってくるのはグリモアとは違い、小公国バトリアの武装集団です。余程の事がない限りはこちらが有利だとは思います」
本当に戦うんだ。
こうして話を聞いても、まだ実感が湧かない。
ここで仲良くなった人達が傷つく姿は見たくないな。
でもそれは抗争相手の家族や友達だって、そう思ってるはず。
「リルには簡単に説明を受けています。咲様は無血での解決をお望みだと」
「そうですね。それが理想です」
ミラと三羽烏、そしてリルでさえも、わたしの言葉を聞き黙り込んでしまった。
甘っちょろいのかな?
甘っちょろいんだろうな。
抗争が起きるって事は、話し合いの段階がとうに終わっているということ。
その結果が現状なのだか。
わたしなんかが、まして異世界から来た謎の女に口出しされたら、双方良い気分は絶対にしないだろう。
……、そもそも原因はなんなのだろう。
わたしは、まだそれさえも分かっていない。
重い空気の中、ファルコンだか、ホークだか、イーグルだか分からないおっさんが切り出した。
「元々、コルン一帯はバトリアの領土だったのです。先の時代に起きた争いで、コルンはグリモアの支配下となりました」
「じゃあ、それを取り戻す為に?」
やっぱり問題は根深そうだ。
これはわたしなんかが解決出来る問題じゃない。
だけどコルンの皆や、ギルマスに奥さん。
アディスだって傷ついてしまうかもしれないのに。
わたしが出来ることってなんだろう。
「コルンの森は資源の宝庫、そして自然の要塞でもある。バトリアはそれを取り戻したい。こっちだってバトリアには相当な支援や、復興の手助けをしているのにも関わらず、この有様。結局奴らはこちらが何をしても気に入らないのです」
恐らくファルコンだと思われるおっさんは、壁に寄りかかり格好をつけながら説明をしてくれた。
「ちょっと待て、ホーク。はしょらないでしっかり説明をしろ」
……、ファルコンじゃなかった。
ホークが説明していて、それをファルコンかイーグルがはしょらないでって注意したのね。
「これ以上何を説明しろと言うんだ?」
「だから、もっと経緯をしっかり説明しないと」
「おいおい、二人とも落ち着け。やめろイーグル。胸ぐら掴むな」
「俺はイーグルじゃない! ホークだ!」
「ファルコンはいい加減見分けつけろよ! 何年三つ子やってんだよ!」
「ホークだって間違えるじゃないか!」
「やめろ! 俺はイーグルだ!」
……、わ、訳わからん!!
アンタら三つ子かい。
どうりでそっくりな訳だわ。
なんで同じ顔で、同じマントつけて色まで一緒なんだよ。
ややこしいわ。
「くっ! この」
「おまっ! 髪掴むな」
「んっふう! んっふ」
おい、やめろ。
三人で取っ組み合いすんな。
ぐるぐる回るな。
余計分からなくなるから。
「いい加減にしろよ! ……、俺達、もう四十二だぜ」
「……、ホーク」
「違う。……、ファルコンだ」
だめだコイツら。
それにしても、四十二か。
厄年なんだね。
(咲様、咲様。私は何を見せられているのでしょうか?)
(わたしが聞きたいよ。何しに来たの、この人達)
(私達が呼んだんですよ)
(あ、そっか)
(見て下さい。ミラがうろたえてますよ)
(可哀想に——あ、あれ?)
おっさん三人が小競り合いをし、ミラがうろたえ、わたしとリルでコソコソ話をしていると、突如指輪が光り始めた。
「うるさいなっ! フルーメが起きちゃうだろ!」
「ヴェント!?」
ヴェントは指輪から勢いよく飛び出ると、三羽烏を躊躇なく宙に浮かせた。
三羽烏は四肢をばたつかせ必死に抵抗するも、ヴェントは構わずに三人を回転させ始める。
「あわわわわわわっ!」
三人は扇風機の羽根のように高速回転を始めた。
強さは中といったところか。
あまりにも凄まじい遠心力により、三人のズボンはあっという間に飛んでいく。
そして赤、白、黄色の褌があらわになった。
何故分かりやすい場所で区別を付けようとしないで、褌のカラーリングで個性を出そうとするのか?
「お、お助けをー!」
謎は深まるばかりだが、特に知りたくもない謎である。