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 わたしは別世界の別世界にいるってこと?

 どんだけ次元跨いでんだよ。

 中々そんな奴いないだろ。


「コジロウが『神鯨(ケートス)』の口内に転移陣を張って、漁をしてたんですよ。まったくいい迷惑です」

「幻獣界と海を『神鯨』で繋いでいたってこと?」

「そういうことなんだ。ご存知の通り天罰が下ったけど。急に雷落ちて来たから何事かと思ったよ」

「し、師匠ここが幻獣界って……本当なんですか?」

「はい。私の実家すぐそこですよ」


 やっと口を開いたアディスが再び固まってしまった。

 そりゃそうだ。

 私だって驚いた。


「こんな所帰って来たくなかったです。嫌な思い出ばかりですから。ビール飲んだら帰りましょう」

「じゃあビールなんていらないから早く帰ろうよ。無理しなくていいよ」

「気にしないで下さい。石投げられたり、崖から突き落とされそうになったり、地面に埋められそうになったりしただけですから」

「殺されかけてんじゃん」

「もちろん華麗に回避して、仕掛けてきた奴全員に同じ目に合わせてやりましたけどね」


 リルの気が強い理由が分かったわ。

 やらなきゃやられる環境に身を置いてたのか。


「リルさん。お詫びにこれを……」

「お詫び?」


 コジロウさんは一枚のメモ帳を差し出すとリルに手渡した。

 そこにはびっしりと文字が書き込まれていた。


「ビールの作り方?」

「佐々木さんお酒好きそうだし、リルも——うわっ!」

 

 リルがメモ帳を受け取った瞬間だった。

 急につむじ風が吹き上がり、緑と青の光の球体がメモ帳を奪って行った。


「帰っちゃうの?」

「ねえ。帰っちゃうの?」


 子供の声?

 だけど聞き覚えが……。

 確か目覚める前に聞こえてきた声と同じだ。


「うわわわわわっ」

「あはははは」

「し、師匠ー!」


 声の主は無邪気に笑いながらアディスを宙に浮かせた。

 アディスも必死に手足をバタつかせているが、どうすることも出来ない。


「んー? 珍しいですね。精霊ですよ」

「じゃあメラミーと同じ?」

「幻獣界でも珍しいんですよ。しかも懐いてます」


 アディスはそのまま海に放り込まれてしまった。

 ムキになって抵抗すればするほど精霊は面白がっているようだった。


「使役してみては? 色々と便利ですよ」

「確かに便利そうだけど、わたしにもそんなことが出来るの?」

「これさえあれば完璧です」


 リルは鞄から虫取り網と虫籠を取り出した。

 麦わら帽子も渡してきたが、それは丁重にお断りした。


「虫取り網なんて久々だな」

「連れってってー!」

「わたしもー!」


 な、なんだ!?

 近寄ってきた!

 

「虫取り網は不要でしたね。お互いの同意があれば使役は完了です。簡単そうで難しいんですよ。わたしはメラミーと一夜語り明かしましたから」

「よろしくねー!」

「よろしくねー!」


 精霊は元気よく挨拶すると、パッと姿を消してしまった。


「……いなくなっちゃった」

「精霊は咲様と同化状態になっています。身体的な変化はありませんのでご安心を。そして呼び出すのには媒体が必要になります。ってことでどうぞ」


 指輪なんかでいいんだ。

 あ、でもこれリルと同じデザインだ。


「ペンダントでもピアスでも何でも構わないんですけどね。指輪が一番楽なんで」


 実感湧かないな。

 一体なんの精霊が同化したのだろうか。

 ……まっ、いっか。


「よし、もう帰ろうか。ビールの作り方も分かったし、長居する必要もないよね」

「おいコジロウ。お前約束守れよ」

「それは分かったけど……本当に良いのかい?」

「約束を守ってくれればいいですよ」


 この二人……本当はどういう関係なんだろう。

 出会いとか気になるな。

 コジロウさんもここに残りそうだし。


 聞いちゃおうかな。

 

「話すと長いんですよ。ちょっと暗い話になっちゃいますし」

「……リルは人の心が見えているのかな?」

「咲様が分かりやすいだけですよ」


 リルが鋭いだけだと思うけど。

 長くて、ちょっと暗い話かあ。


 ……リルさん。

 わたし、余計気になります。

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