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「じゃあ、イカを捌いていこうか」
「私も手伝いますっ!」
まずは胴体から、ワタと一緒にゲソを取り外す。
墨袋を取る時は破れないように丁寧に。
胴体から軟骨を引き抜いて中を綺麗に洗い流し、エンペラがついたまま、食べやすい大きさに輪切りする。
引き抜いたゲソは目から下を切り落として、クチバシを取る。
吸盤の周りを取らないと口の中に残るので、ゲソを引っ張るように手で擦りながら水洗い。
ワタは一度濾して醤油、酒、味醂とよく混ぜ合わせる。
本当は味噌があったら尚良しだけど、無いものは仕方がないから今回はこれで。
玉ねぎ、とニラを食べやすい大きさに切ったら、調味料とイカを合わせて火にかけてっと。
「はい! イカのワタ焼き、できあがりー!」
ああ、いい匂い。
ビール飲みたい。
まじでビールどうにかして飲みたい。
もし作ったら密造酒になってしまうのだろうか。
うーん。
悩まし——あ、確かイカって。
「リルってイカ食べたらダメじゃん」
「そうなんですか? 食べた事ないです。匂いはとてもいいですけど」
「猫はイカ食べると腰抜かすって言うよね」
「腰が!?」
「タコも駄目じゃなかったっけ?」
「そ、そんなあ」
そんなにうなだれなくても。
ケット・シーはやっぱり猫の認識でいいのか。
リルも全然否定しないし。
「でもお魚もあるし、リルはそっち食べようね」
「はい! お魚は大好きです!」
「いっぱいあるから順番に捌いていこう」
お昼ご飯の準備をしていると、コジロウさんは海鮮を沢山持ってきてくれた。
元々この場所で色々な食材を集めているらしく、沖に罠も仕掛けているというのだから驚きだ。
「咲様、魚を捌くといいますと?」
「流石にこのままだと食べれないから。鱗とったり、小骨抜いたりね。見ててね」
この日のお昼ご飯は、コジロウさんも手伝ってくれたのもあって、とても豪華なものになった。
わたしとリルがワタ焼きにお刺身盛り合わせ。
コジロウさんは干物とお吸い物。それに炊飯を担当してくれた。
「しかし佐々木さん、料理上手なんだね」
「コジロウもまあまあ上手だけど、咲様のは段違いですよ。レセプションでも沢山作ったんですから。モロコシに焼き鳥、じゃがバター、お好み焼き、厚切りポテトに胡瓜の一本漬け」
「全部美味しそうだけど、酒飲みが好きそうなのばかりだね」
……、バレたか。
そりゃあね。
だけどたまには作りますよ?
パスタとかの洋食も。
だけど、わたしはパスタより焼きそば。
ふわふわのオムライスより、チャーハン。
サンドイッチより、おむすび。
ヤンニョムチキンより、普通の唐揚げ。
一口しかないフィレステーキより、生姜焼きが好きなんだ。
ついでに言うとカクテルより、辛口の日本酒が好きだ。
「酒飲み? 咲様、お酒好きなんですか?」
「まあ、はい。嗜む程度には」
「……、へえ。そうなんですね」
リルのこの反応。
酒飲みは嫌いなのか。
「隠れて飲んでましたもんね。料理酒」
「味見だよ。味見」
「なあ、まだ食ったら駄目なのか? スッゲーいい匂いしてるから我慢してるの辛いんだけど」
「アディル、いいこと言うじゃないですか。食べましょ、食べましょ」
「いただきまーす」
リルは刺身が美味しすぎたらしく、自ら海鮮丼を開発して興奮していた。
次はわさびと紫蘇にも挑戦してほしいものだ。
アディスも美味しそうに食べていたので一安心。
大自然の中で食べるご飯は、おうちご飯と雰囲気が違っていいものだ。
「時に、佐々木さん」
「はい? どうしましたか」
「ビールは好き、かな?」
「好きですけど……、まさかっ!」
「実はあるんだよ。僕も好きでね」
コジロウさん。
あんたリルから逃亡してビールを?
まあ。……、気持ちは分からんでもないが。
「折角だから後で行きますか? 戻ったらビールは飲めませんし」
「行くっ! ん? 戻ったら?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ」
「佐々木さん。ここね、幻獣界なんだよ」
「……、はい?」
「お酒好きの神様は多いですからね。そこだけは充実してますよ」
そういうこと、先に言って?
アディス固まってんぞ。




