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「リルー?」


 おそるおそる木陰を覗き込むと「どうしましたか?」と、リルが顔を出した。


 怒ってないのかな。

 いつもの飄々とした感じだ。


「今からご飯作ろうかと思うんだけど、鞄から荷物出してもいい?」

「おおっ! いいですね。お腹空いてます」

「もうお説教は終わったの?」

「咲様のお手伝いもありますし、これくらいにしておきましょう」

「……うう、すいませんでした」


 何をされたらそうなるの?

 袖や裾がビリビリだ。

 酷い有り様になっている。


「ご主人様にも容赦ないのがさすがだわ」

「私は常に公平なので。まあ、正確には仮初のご主人様ですけどね」

「仮初?」

「咲様とは違った契約をしているのですよ。そしてコジロウは契約違反をしたのです。これくらいで済んだのをありがたく思って欲しいですね」

「はい。僕が悪いんです。すいませんでした」


 リルの性格を知らないわけではないだろうに……よくそんなことしたものだ。

 今まで雲隠れしていたのも、それはそれで凄いとは思うが。


「詳しい事はまた後ほど。そういえば先ほどから少年の姿が見当たりませんが」

「ああ、アディスね。それが聞いてびっくり! ギルマスのお子さんなんだって」

「……ギルマスの?」


 そんな嫌そうな顔せんでも。

 言わなきゃよかったかな。


「今は火起こしの準備を手伝ってもらってるんだ」

「あの小生意気な小僧が素直に言う事を聞くタイプには見えませんが。ドッペルゲンガーなんじゃないですか?」

「ドッペルゲンガーかどうかは知らないけど別人みたいにはなってるよ。リルの事、すっごく尊敬してた」


 リルは再び嫌そうな顔をした。

 なんでそんなに分かりやすいんだ。


 これは弟子入りは厳しいかもしれない。

 アディス、あんた心底嫌われてるぞ。

 それにリルって弟子取るってタイプじゃないと思う。

 面倒見が良いタイプではないよ。


「改心したのならいいんですけどね。でも次やらかしたら奥様の元へ強制連行します。それが一番効果ありそうですし」


 はは、それは間違いないかも。


「おーい! 用意出来たぞー!」

「すごいじゃん。早かったね」


 アディスは集めた石で竈門を作り終えていた。

 冒険者希望だけあって手際がいいようだ。


「だけど火が起こさなくてさ。もうちょっと待っててくれよ」


 煙がすごい。

 目真っ赤だし。

 それでも一生懸命な姿を見ると、やっぱり根は真面目なんだろうな。


「何やら苦戦してますね」

「海岸だしね。しけった枯れ木が多いのかも」

「本当に心変わりしたのですかね。随分と健気にやっているではありませんか」

「言ったでしょ? リルのこと尊敬してるって」

「ふう。仕方ありませんね。私も鬼じゃないので手伝ってあげますか」

「はははは。鬼っていうよりは——」

「なんですか? どうやらまだ軽口叩ける余裕があるみたいですね」


 コジロウさんはすぐに口を紡いだ。

 どうやら彼は学ばない人みたいだ。


「メラミー」

「何か御用ですか?」

「メラミー。ご無沙汰だね」

「咲様もお元気そうで何よりです」

「……メラミーさん。久しぶり」

「まさか、コジロウ!? よくヘラヘラしていられるものだな!」


 メラミーは掌ほどの体を、みるみると巨大な火球へと変貌させた。


「お、落ち着いて! メラミーさん!?」

「メラミー、コジロウはいいよ。あの子の火起こしを手伝ってあげて」


 メラミーはリルの言葉でピタリと動きを止めた。

 可愛らしい声とその見た目に完全に騙されてた。

 メラミーもだいぶ危なっかしい性格のようだ。


 ていうかリルが止めなかったら本当に危なかったよ。

 コジロウさんの前髪燃えてるし。


「……リル様がそう仰るのなら」

「ありがとう。お願いね」

「メラミーの性格はリルに似たのかな?」

「どの部分を私に重ねているのかは分かりませんが、あれで一応火の妖精ですからね。性格は見た目通りの激情型。燃え盛るのはあっという間です。さ、私達も行きましょう」


 それにしてもコジロウさんは踏んだり蹴ったりだな。

 突如雷に打たれて更に家を焼かれと思えば、リルとメラミーに亡き者にされそうになるとは。


 犯した罪はかなり大きそうだ。

 罰が一斉に里帰りしているみたいだ。

 少し可哀想にも思えてくる。


「咲様は甘いです。大甘です。私は『神獣』なんですから。悪い事したらバチが当たるのが世の常というものです。ね? コジロウ」

「その通りでございます」


 もう口調が家来なんだよな。

 一連の流れを見る限り、かなり罪は重そうだ。

 

 竈門を見るとメラミーが薪の中に体を埋めていた。

 アディスはなんだが楽しそうにその光景を眺めている。

 

「すっげ。火の玉が喋ってる」

「ありがとうね、ミラミー」

「あの、お師匠様。今まですいませんでした」

「……お師匠様?」

「なんかリルの弟子にして欲しいんだって」

「お願いします! 俺を弟子にして下さい!」

「ちょっとアディス!?」


 まさか砂浜に頭突っ込むほどの土下座をするとは。

 流石にこれは驚いたな。

 どうやら本気で弟子入りを志願しているようだ。


「そんなに簡単に頭を下げたらダメですよ。それはコジロウだけで十分なのです」

「じゃあ弟子に!」

「それとこれとは話は別です」


 やっぱりダメなのかな。

 可哀想だし後でもう一回願いしてあげよう。

 

「弟子入りなんて仰々しい事はお断りです。だけど魔法を教える位は構いませんよ。奥様……あなたのお母様にはお世話になりましたし」

「し、師匠! ありがとうございます!」

「……どんな心変わり?」

「ストレス発散しましたからね」


 コジロウさんはストレスの捌け口なの?


「いやぁ、それにしてもここに迷い込んでからバタバタ続きだったよ。これで少しは落ち着いたかな?」

「本当ですよ! 早急にご飯を食べないと!」


 リルはあらかたの材料と道具を取り出すと、竈門の前にきれいに並べていった。

 どうやら本気でお腹を空かせているようだ。

 こういう時の準備の早さはピカイチだ。


「早く! 早く!」

「分かってるって。リルも手伝ってね」

「当たり前です!」


 さてと。

 事情はよく分からないけど、コジロウさんもなんだか可哀想だしね。

 励ます為にも、ここは腕を振るうとしますか!



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