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 潮風に流され、煙は徐々に晴れていく。

 リルのご主人様なる男の姿は消えて——いなかった。


「…………ゲホッ」


 なんで煙玉投げたんだろう……。

 く、苦しそうだし。


「コジロウ! 探しましたよっ!」


 わあ、リルが怒ってる。

 真面目な表情も珍しいや。



「……ごめん」

「嘘ついてまでいなくなるなんて」

「いや、違くてね。あー……うん」


 あからさまに怯えている。

 主従関係逆じゃん。

 膝ってこんなにガタガタするの?

 よくそれで立ってられるもんだな。


「咲様、この男はコジロウといいまして、私が探していたご主人様なのです」

 

 和名、だよね?

 ファルコンみたいに横文字じゃないんだ。

 

「初めまして、コジロウさん。佐々木咲です」

「うん。よろしくね」

「おい、挨拶済んだら面貸しな」

「佐々木さん。生きてたらまた話そう。君も召喚されたんだろう?」

「……え?」


 ああ、やっぱり同郷なんだ。

 そりゃあ料理にも詳しいはずだ。

 

「無駄口を叩くな」

「はい」


 コジロウさんは観念しているのだろう。

 拒否することも、抵抗することもなく、大人しく連行されていった。


 わたしは祈る事しかできなかった。

 リルが上手く手加減をする事を。

 せっかくだから聞きたいこと沢山あるし、無事に帰ってきてくれるといいな。


「ま、大丈夫だと願おう。それよりも——」


 実は正直なところ、コジロウさんの安否よりも気になる事があるのだ。

 それは、この焼け焦げた家。

 ではなく、その周りに干してある数々の食材に興味が惹かれるのだ。 


 よくもまあ、ここまでの量を乱獲したものだ。

 違法漁業にならないのかな。


「そうじゃなかったら取り放題ってこと? それはそれですごいな」


 あ、イカの一夜干しがある。

 鯵の干物にウルメイワシまで。

 

 でもやっぱり海苔だよね。

 海苔を手作りするってかなりの手間だよ。

 もう職人じゃん。

 きっとコジロウさんは、かなりの料理好きなんだろう。

 

「……あ、あれ!? ここは」

「あ、少年。気がついたみたいだね」


 少年の顔は砂だらけになっており、首にはワカメが巻きつき、頭にはクラゲが乗っていた。


「俺……鯨に飲み込まれて、それで——」


 こんな有様なのに瞳がキラキラとしている。

 いいなぁ。

 子供の目って凄く澄んでる。

 わたしの目なんて、そこで干してあるウルメイワシみたいな時あるぞ。

 

「師匠が助けてくれたんだっ!」

「それってもしかしてリルのことかな」

「もちろんだよ! あんなにすげえ魔法、生まれて初めてだ。俺は絶対に弟子入りするんだ」


 確かにそれはそう。

 あの時のリルは格好良かった。

 わたしが男だったらほっとかないよ。


「ねっ! すごかったよね!」

「へえ、あんた話分かるじゃん。俺、アディスってんだ。あんたは?」

「佐々木咲だよ。よろしくね」


 意外といい子じゃん。

 それにしても弟子入り志願か。

 随分とキャラが変わっちゃったね。

 だけどリルは嫌がるだろうな。


「咲はリルの弟子なのか?」

「わたし? わたしは——」


 友達……のつもりだけど。

 リルからすれば少し違うのかな。

 でも——。


「友達。うん、リルは友達だよ」


 それが一番しっくりくる。

 

「なあ、ちょっとお願いがあるんだけどさ」

「なあに?」

「俺って師匠と喧嘩しちゃってただろ」

「はは、そうだね。リルが怒らないか心配だったよ」

「咲から弟子入りの件、お願いしてくれないか?」

「ええ!? ……うーん」


 頼む分にはいいけど……。

 リルって根に持つタイプだからな。

 ギルマスにもそうだったし。

 現在進行形でコジロウさんも被害にあってるし。


 もしかして男嫌いなのかな?

 だとしたらなんて勿体無いなあ。

 あんなに可愛いのに。


「お願いするぶんには構わないよ。でも苦戦するんじゃないかな?」

「本当か! ありがてえ。そこは覚悟してるから大丈夫だよ」


 意外にもノリノリになるかもしれないしね。

 慕われるのが嫌な人なんていないし。

 人じゃなくてケット・シーだけど。


「ぐっ! ぐわあああぁぁっ!!」

「あ、この声——」


 コジロウさんだよな。

 いったい何をされたんだよ。


「この轟音はっ!? もしや、師匠が魔獣を?」

「相当怒ってるな、こりゃ」

「こりゃあ魔獣もひとたまりもないだろうな」


 だ、大丈夫かな?

 生きてる……よね?

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