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「生きてるかな」

「息はあるみたい」

「珍しいね」

「うん、珍しいね」

「魔力も多いよ。これは『祝福』だ」

「なら大丈夫だね。行こう」

「そうだね、行こう」



 ……ううーん。

 子供の声?

 それになんか焦げ臭い。


 『巨鯨』に飲み込まれて……それで。


 意識がはっきりとしないまま辺りを見渡すと、視界に飛び込んできたのは、辺り一面の砂浜だった。

 

「どういうこと……」


 まさか『巨鯨』の口の中? 

 でも空も、雲も、太陽もある。

 あの時、確かに漁船ごと丸呑みにされたはず。

 気を失っている内に吐き出されたのかな。

 

「……リル!?」


 ……いない。

 まさか。

 いや、いや、落ち着け。

 わたしが無事なんだ。

 きっと大丈夫に決まってる。


「ふうー。……よし」


 まずは落ち着いて。

 それで状況整理だ。

『巨鯨』に飲み込まれて砂浜で目が覚めた。


 うーん。

 冷静になっても意味が分からん。

 正直なめてたのが最大の反省点だ。

 

 後はこの臭いだよな。

 なんでこんなことになってるんだろう。

 さっきから、明らかにこの人が焦げ臭いんだよな。

 頭からけむり出てるし……。

 そもそも人なのかな。


「あのぅ……。だ、大丈夫ですか?」

「…………」


 目を凝らすとよく分かる。

 これアフロだ。


「すいませーん」

「…………」


 シカトだ。

 どこ見てるんだろう。

 すっごく遠い目をしている。

 ……ん? 


 あの家を見てるのか。

 家も……焼け焦げてる。


 ぜんっぜん状況が飲み込めん。 

 この人の見た目のインパクトも相まって混乱がすげえ。


 家で実験でもしてたのかな。

 それで爆発でもしちゃったとか。

 そんなベタな爆発って本当にあるんだね。


「あの——」

「急に雷が落ちて来たんだよね」


 やっと喋った。

 とりあえず人間ではありそうだ。

 

「か、雷ですか」


 それにしても随分と淡々と話すな。

 頭からの煙、勢い増してない?

 熱くないのかな。


「見てごらん。目も覚めるような青空だ。なのに何故、落雷が発生したのだろうか……」


 もしかして雷直撃したの?

 よく生きてるな。

 やっぱり人間じゃないのかな。


「鵺、雷獣、はたまた麒麟?」

「そんなことより頭から煙が」

「それとも君の魔法?」


 振り返った男の風貌は、丸いサングラスに甚平だった。

 なんか……不思議な人だ。


「いや、わたしは魔法が使えないので」

「そうなんだ。てっきり襲撃されたものだと」


 襲撃されるような覚えがあるのだろうか。


「実はですね。さっき鯨に飲み込まれてしまいまして。気づいたら——」

「咲様! ご無事でしたか!」

「あっ、リル!」


 良かったぁ。

 だけどなんで少年を引きずってんの?

 せめて抱えてあげればいいのに。

 

「木に引っかかってました。まるで干した敷布団みたいでしたよ」

「そ、そうなんだ。とりあえず無事で良かったよ」

「あと口にアメフラシが入ってました。ざまあないですね。あれ? こちらの御仁は…………、あぁん?」


 どうした急に。お前はヤンキーか。

 初対面の人に失礼だぞ。

 すっげえ斜め下から睨みつけるじゃんか。


「ああん?」

「リルどうしたの? グレちゃったの?」


 ほらあ、後ろ向いちゃったじゃん。

 ちょっと震えてるじゃんか。

 

「おい。ちょっとこっち向け」

「めっ! 初対面の人にそんなこと言わないの!」


 変なのは元々だけど、喧嘩売るタイプじゃないのに。

 この人の小汚さがギルマスに似てるからってそんな態度取らなくてもいいのに。

 

「御免っ!」

「なっ! 煙玉!?」


 まさかの忍者!?

 でも、だとしたらわたしと同じじゃん。

 いや、わたしが忍者ってことではなくて。


 この人もわたしと同じ世界から?


「くっ! 小癪な真似をっ!」

「き、消えた……」


 すげえ。

 忍者って本当にいたんだね。

 折角だから、逃げる前に分身して欲しかった。

 

「……咲様。あやつとはどこで?」

「ここだよ。会ったばっか。目覚めたら頭から煙出てて。それにしても変な人だったね」

「今の、迷子のご主人様です」

「そう。忍者のご主人様…………え?」

「私が探してる、迷子のご主人様です」


 リルはそれ以上何も喋らなくなってしまった。

 あれが、リルのご主人様?


 知らなかった——。

 これは衝撃の展開だ。


 まさかリルのご主人様が忍者だったとは。

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