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「焼豚なるものを眺めていたら、どうにもお腹が空いてきました。どうしたものですかね? 咲様、私はどうしたものなのでしょうか?」


 リルは我慢の限界がきたようだ。

 本当に食べること好きだなぁ。


 ……そうだ。

 リルにおむすび作ってあげよう。

 目玉焼きご飯食べれてないしね。

 まあ、結果食べれなくて良かったんだけど。


「じゃあおむすび作ってあげる。お米を食べやすい大きさにして食べるんだ」

「わあ、食べたいです!」


 残念ながら具が無いんだけど。

 塩むすびしか作れないや。


「あれ? そういえば残りのお米ってどこにいったの?」

「鞄に入ってますよ。私の鞄は特別製なので、中に入れた物は鮮度そのままに保てます」


 すご。

 いいなそれ。

 わたしも欲しいんだけど。


「鞄に入れた時には、既に冷めていましたので、私も食べれます」

「おむすび作らなかったらどうしてたの?」

「夜中にこっそり食べようと思っていました。はい」


 うん。

 素直でよろしい。

 思った以上に食いしん坊だ。


「でもいいんです。今食べます」

「塩味のシンプルなおにぎりしかできないけどね」

「なんでもいいです。きっと美味しいことには違いないですから」


 わたしの料理に対する信頼度バカ高いな。

 よし、まずは塩水を用意してっと。

 塩分濃度はこんなもんかな。

 

「じゃあ作るよ。ほい、ほい、ほい。はい出来た」

「お言葉ですが塩水をかけて食べれば良かったのでは?」

「いや、何かそれは嫌だな。まあ、おにぎりはこういうもんだから。手で持って食べてね」

「そういうものですか。では、いただきます」


 ……。

 …………。


 なんか無言で食べ進められると緊張する。

 なんで真顔なんだろう。

 ねえ! 

 なんで真顔なの!?


「……お米がここまで変貌を遂げる事もさることながら、口に運んだ瞬間、お米様がホロリと崩れる握り具合は正に熟練の職人がなせる業。そして絶妙なる塩加減。これが中々難しい。何より手で握ることにより、作り手の愛が感じられます」


 誰だお前は。

 逆に恥ずかしくなるわ。


「なる程。これが『お結び』。まさに作り手と食べ手の心を結ぶ素晴らしき御料理。わたくし感服いたしましたわ」

「……なんで泣いてんの?」


 おむすびってそんな意味なの?

 初めて知ったわ。


 リル相当お腹空いてたんだな。

 おかしくなってるもん。

 むしろ変になってるよ。


「はっ! 私は何を!?」

「こっちが聞きたいわ」

「これが『魔力付与』のひょうは。はんへおほろひい」

「食べながら話すのやめな?」

「ごくん。これが『魔力付与』の効果。なんて恐ろしい。あ、ご馳走でした。びっくりするくらい美味しかったです」

「お粗末様でした。『魔力付与』ってコントロール出来ないのかな」

「出来ますよ。しかし咲様は常に魔力放出状態なので、作るもの全部に垂れ流して——あっ」


 ……あ?

 ……あ。


「焼豚、食べても大丈夫かな?」

「ど、どうなんでしょうか」


 どうしよう、これ。

 

「まあ、私の手も加わっていますし。私も胡散臭い料理評論家に変貌するくらいで済んでるので、大丈夫じゃないですか」

「そうかなぁ。ならいいんだけど」

「なるようになります。最悪、パンクして気絶するだけなんで」

「それが心配の種なんだけどね」


 最初にミラに食べさせるのはやめとこう。

 毒味はおっさん達に任せるか。

 悩んでても仕方がない、後は天に任せるのみ。

 夕飯を待つこととしよう。


「そういえばリル。あんた雇われ料理人でしょ」

「はい。それがどうしました」

「なんで今日の晩御飯使ってないの?」

「私の料理レベルがバレたからじゃないですか?」

「一体何を作ったんだよ」

「私が雇われたのは今日です。初出勤です。咲様が召喚されるほんの少し前に雇われたのですよ」

「じゃあ作ってないじゃん」

「作りましたよ? 作った(というか皿に乗せた)のは新鮮な、ふふ。モンゴリアンワームの砂肝だけです。あれを見て、ははは。既にクビになっているのかも知れませんね、あはははは」


 なんでこいつはそこにツボってんだ。

 それこそ違約金取られるだろ。


「この世界の料理人なんて、咲様に比べたらたかが知れてますしね。恐らく目をつけたのは、私がケット・シーだから。後はこの鞄だと思います」

「ケット・シーだから?」

「ケット・シーは幻獣界でもトップクラスの魔力を保持しています。そして私は忌み子の異端児なのです」


 そういえばそんな事言ってたな。

 爪弾き者とも。


「戦力として目をつけられたのでしょうね。魔王討伐の戦力として」

「なんでバレたの? 耳隠せば分からないじゃん」


 リルは耳を隠せば、可愛らしい綺麗な白髪の女の子だ。

 忌み子の異端児なんて言われても、到底想像できない。


「世にも珍しいケット・シーの料理人として、自らを売り込んでたからですよ」

 

 むしろ全面に出してたのか。

 てことは料理人を雇う自体、この世界では珍しい事なのかも知れない。

 それこそ富豪の家の料理人くらいか?

 その富豪ですら、何を食べているか怪しいものだ。

 

「私が契約時に損をさせないいった理由は正にこれです。私はこの世界のイレギュラー。世界を破滅に導く特異点なのです」


 な、なんだ急に……。

 そんなの魔王の存在価値無くなっちゃうじゃんか。

 時折見せるリルの刺々しい言動の方が、どちらかというと魔王っぽいし。


「咲様に対するあらゆる外敵や禍い。仇なす者全て薙ぎ払ってご覧入れましょう。……ん、はて? なんでこんな話してたんでしたっけ」

「な、なんでだっけ?」

「おや。暗くなってきましたね。さ、テーブルセットをしましょうか」


 リルはまるで何事もなかったかのように、テキパキと準備を始めた。

 何も気にしていない様子で。

 

 わたし言ったよね。

 文鳥と亀しか飼った事ないって。


 世界を破滅に導く召喚獣。

 それの一体どこがペットなのだろうか。

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