平成ザリガニ物語
〔およそ100年前〕
大正七年に「食用」として輸入されたカエルがいた。
ウシガエルである。偉い学者先生が、20匹くらい日本に連れてきた。
貧しい時代の貴重なタンパク源として定着させようという試みだった。
それから、およそ十年後の昭和2年に20匹くらい輸入されたのがアメリカザリガニだった。きちんと処理すれば食べることもでき、前述のウシガエルのエサにも適している優れものだった。
〔およそ50年前〕
昭和の後半にもなってくると、アメリカザリガニの繁殖力はすさまじかったので、西日本において単に「ザリガニ」といえばアメリカザリガニになった。
〔今年、2023年〕
外来種問題として、ウシガエルとアメリカザリガニが取り上げられるようになり、令和五年6月1日から、アメリカザリガニは野外への放出、輸入、販売、購入、頒布等を許可なしに行うことが禁止になった。ちなみにウシガエルは禁止にまで至っていない。
昭和の終わりで平成の始まりの頃、私は小さな子供でした。
それは、夏の始まり。農業用水路に水がタップリと流され、田植え作業もやり終えた頃、農作業の手伝いもなくなるので、同級生達3人が僕を遊びに誘ってくれた日だった。
「お~い、リンコフ。暇ならザリガニ釣りにいこうぜ」
「ん?いいよ。糸と餌ある?」
「あ、持ってきてねぇ」
「ちょっと、待っててね」
僕は、釣り糸5本、スルメの足5本、網、水槽を家内からテヤテヤとかき集め、誘いに来た同級生達に持ってもらう。合計4人だが、一つはスペアだ。
「誘うなら、それなりに準備くらいあるってもんでしょ」
文句を垂れながら。
「ははは♪ほんとは公園行くつもりだったんだけど、来る途中の水路にザリガニがいっぱいいたのよ」
「そそっ。で、釣ろうかなって。よてーへんこー」
「準備なら、リンコフがしてくれるしぃいいいい」
今日は、たまたますぐに整ったけど、そんなにアテにされてもねぇ。
そんなことを考えながら、僕達4人は、ザリガニが沢山いるという農業用水路へと向かった。
到着すると……
「すげぇ、ザリガニだらけ」
少し汚れた水の中を見ると、水路の壁にザリガニが何匹も確認できた。
「だろっ、さぁ釣ろうぜ」
「リンコフ……糸にスルメつけて」
「へいへい」
僕は、スルメの足を口に入れて、水に沈むようにふやかし、ザリガニのハサミに掴まれてもちぎれにくいようにシッカリと糸に結び付ける。
「スルメくっちまうなよ~♪」
「そんなことするなら、持ってこないし」
スルメの塩味が口の中にひろがりながら、僕は答えた。
「そういえばさ。ザリガニって、食用カエルのエサだったらしいよ」
「え~?カエル、食べるの?気持ち悪い」
「カエルはトリ肉みたいな味だって、ザリガニはシャコ海老みたいな味って、じいちゃんが言ってた」
「ザリガニも食べてたの?」
「そそ、戦争で食べるモノ無かったって言ってたし」
「ウマイのかなぁ」
「泥抜きがメンドクサイってさ」
そんな話を聞きながら、僕は手を動かす。
「4人分できたよ」
「「「さんきゅ~リンコフ」」」
そして、僕達4人は、一端にスルメを取り付けた糸の もう一端を手でつかみ、そろりそろりと、ザリガニ近くにスルメをぶら下げる。
「おっ、はさんだ」
隣では、ゆっくりと糸を持ち上げようとしているので、僕は、自分のスルメを地面に置いて、網をかまえた。
ゆっくり、ゆっくり……勘の良い同級生は、水面の上から、さらに空中へと持ち上げる。落ちた時に備えて網を構えるが、必要がなかったみたいだ。
「一番のりぃいいいい」
彼は、そう言って、水槽の中にザリガニを入れた。
「じゃぁ、網役を頼んでいいか?」
「ん~いらなくね?」
「いや、空中で落ちた時、キャッチしてよ」
「しかたないなぁ」
そう言いつつも、網役をかわってくれた。
「あっ、僕もきた」
そろりそろりと、先程と同じように、ザリガニを吊り上げる。
「やるなぁリンコフ。さっきの俺のよりデカイ」
「たまたま、だよ。一番乗りじゃないしね」
そうして二人で称え合っていると、アセるのは他のふたり。
「なんで、スルメから逃げるんだ」
「私のなんて、見向きもしない」
……りょう君は、スルメをハサミじゃなくて、顔に近づけてるから。
……ゆうこちゃんは、上流側から近づけてスルメの味を流さないから。
先に釣った僕達が、アドバイスすると、今度は二人とも上手くいきそうだ。
「「あっ、はさんだ」」
そして、二人とも同時にかかったようだ。
二人は、ゆっくり、ゆっくり、糸を移動させる。
ゆうこちゃんのザリガニの動きが怪しいので、僕は網を構えて動かす。
ポトリ
「ナイスキャッチ。リンコフ♪」
網の中ではモソモソとザリガニが動いていた。
ハサミ&足と網が絡まる。
「ちょっと、めんどくさいかも」
「りょう君、時間かかりそうだから、そっちが先に水槽に入れて」
「わかった」
慣れていない少年が、不用意にザリガニ掴もうとすると、どうなるか。予想できることもなく……
「痛てェー、コノヤロー」
ザリガニのハサミに指を挟まれたりょう君は、痛さのあまり、地面にザリガニを叩きつけ、踏みつけたのだった。
地面には、薄い青色の血液が飛び散り、ハサミと胴体の殻が飛び散った。
「きゃ~、、、こわい」
ゆうこちゃんが怯えている。
「なにも、殺さなくてもいいだろ」
「しょうがねぇだろ、はさまれたんだから」
喧嘩する前にさ、確認しようよ。
「指、だいじょうぶ?」
「ああ、なんともない」
「綺麗な水で洗ってきたら」
「そうするよ」
空気が少し悪くなったので、彼の離脱は助かったように思う。
「なぁなぁリンコフ。これから、りょう君を『ザリガニ殺し』って呼ぼうぜ」
「……なんか、カッコイイなソレ」
「やめようよ、残酷だよ。私、思い出したくない」
昭和の終わり……平成ヒトケタの頃。ザリガニを殺した彼に正義はなかったように思う、平成ザリガニ物語。
でも、令和の今はどうだろう。悪鬼たる外来種を成敗した彼は、英雄にちがいない。令和ザリガニ物語は、今の子達が大きくなったら書いてくれるのかな。
(おしまい)
だからね?正義の味方ってのはね?
「ヒャッハー、死ね死ね死ね。アメリカザリガニどもぉおおお。稲を痛めつけるクソ共は駆逐してやるぜ。ウケケケケケ」
っていうのが、令和の時代の正しい姿なのかもしれない。
ちなみに、アメリカザリガニを捕まえて、しばらく家で飼育した後、自然に帰すのはアウトです。ブラックバスが有名ですね。
誰かに無料でプレゼントするか、殺処分しないと駄目なんですよね。
殺処分の仕方も色々ありまして、アメリカザリガニは冬眠するので、冷凍庫にいれて、冬眠させて、そのまま凍死させるのが、動物愛護団体のオススメな殺処分です。
でもまぁ、寄生虫とか持ってるザリガニを冷凍庫に入れたくないですよねぇ。熱湯かけて瞬殺した後、バラバラにして生ゴミに出すのが正解かもしれませんねぇ。
天皇陛下万歳とかしなくなった歴史的転換点を、私はザリガニを通して見たのかもしれません。
え?「指定テーマは、食事だろ」って?
ザリガニは食料だから大丈夫に違いない。
ザリガニイーター様達が感想欄で暴れるハズ。




