立直《リーチ》
常盤ひらくは、ドアの前に立つ。
校舎内に数ある中の一室だ。
しかし看板だけは、真新しい。
息を吸う。
慣れない手つきで、ドアを開けた。
「来たね、ひらく。ようこそ麻雀部へ!」
出迎えたのは、二年生だった。
美人系の顔立ち。茶髪のセミロングレイヤー。同色の瞳。学校指定のカーディガンを着ている。
立河直。麻雀部の部長である。
「こんにちは、部長。麻雀部設立おめでとうございます!」
「ありがとう。これもひらくたちのお陰さ。じゃあ早速部活らしく、この前の復習でもしようかな?」
ナオがホワイトボードを動かす。
キュキュッと文字を書いた。
立直。
「まずは麻雀の花形! あたしの一番好きな『手役』さぁ!」
「部長! 手役ってなんですか?」
「麻雀はアガるために、規定の形が存在してね。その中で自分の手牌だけで構成したものを『手役』というんさ」
「リーチという手役が、麻雀の花形というのは?」
「基本中の基本でありながらも、最強の役なんさ! リーチに勝る手役なし!」
「リーチの後は、捨てる牌を選べない。それに自分がアガれる状態だと、わざわざ相手に宣言する。そんなリスクに見合う、価値がある手役ってことですね?」
「そう! そういうことさ、ひらく! リーチすると『出アガリ』ができるようになったり、ツモや一発や裏ドラなどの、豪華特典付きさぁ! あ、他もあとで教えるけど……今はリーチはすごいってだけ覚えといて!」
ひらくは、元気よく返事をする。
次は、とナオが文字を綴った。
「リーチのやり方ね。麻雀は『合計14枚の牌から、4メンツ1雀頭』を作る競技なんさ。まずはこれを見て?」
[23888m 345p 789s 北北][ツモ牌 1m]
「私がアガった手です!」
「うんうん。この中で『3つ』の並び……例えば789sで1メンツなんさ」
「横は123や234など『3つ』の数字が続けば1セット……それを麻雀ではメンツと呼ぶんですね」
「あと888mは、3つで縦の1セット。残り北北が雀頭といって、どこでもいいから2枚の組み合わせが必要なんさ」
「つまり今の手牌では『23m』『888m』『345p』『789s』で4メンツと『北北』が雀頭で、4メンツ1雀頭。この13枚の形が手牌に揃ったとき、リーチをして1-4mから最後の1枚を待つわけですね」
「さすがだ、ひらく! 飲み込みが早い、天才!」
「いややや、そ、それほどでも……あるのかなぁ……?」
にへら、と顔を崩す。
部室のドアが開き、
「おっすー! あー、ひらくも来てる! よかったぁ!」
更級ふうろと、闇黙秘が入室した。
ナオが立ち上がり、
「メンツも揃ったし、今の教えを実践してみよう!」
雀リングを起動する。
「セットアップ! 雀牌!!」
麻雀が広がる――
【一局戦】
東一局 ドラ3p
東家 ふうろ 25000
南家 ひらく 25000
西家 ひめる 25000
北家 ナオ 25000
ひらく 配牌
[1256m 378p 568s 東西中]
ドラ2。
今のところ漢字の重なりもない。
……狙うは基本のリーチ……!
ツモ。
[1256m 378p 568s 東西中][ツモ牌 4p]
打、東。
メンツになるパターンは、数字の連続系か同じ牌の重なり。
それはつまり、
……数字の牌を使うと、圧倒的な効率……!
漢字だけの牌から、整理していく。
――――――――――
[1256m 3478p 568s 西中][ツモ牌 2m]
打、西。
[12256m 3478p 568s 中][ツモ牌 2p]
打、中。
――――――――――
ナオのツモ番。
打、5p。
「チー!」
ふうろが[←567p]仕掛けてくる。
一副露。
打、6p。
ツモ。
[12256m 23478p 568s][ツモ牌 2m]
強いのは、数字が続く形。
1222m、56m、78p、56sがメンツだと考えると、不要牌が見えてくる。
打、8s。
「ポン!」
ふうろが、再び[888→s]仕掛けてくる。
二副露。
打、9s。
ふうろが打牌してから、
「ナオ部長! さっきひらくに何教えてたの? 役牌? 断么九?」
「その前にリーチに決まっているさぁ!」
「え~? そんなのつまんないよ? リーチなんてボクが蹴っちゃうもんね!」
ポンにより、即座にひらくの打順となる。
ツモ。
[122256m 23478p 56s][ツモ牌 9p]
打、1m。
……よし、あと二牌……!
「リーチ!」
ナオからの先制リーチ。
打、8m。
後手に回った。
ふうろのツモ。
牌を見つめ、
「むむむ……親だし弱気は禁物だよね!」
打、6m。
リーチの瞬間から、打牌が遅くなった。
……これがリーチの効力……!
あえて聴牌を宣言することで、他者にプレッシャーを与える。平場のように、簡単に手を進めさせない。
……麻雀卓の検問所なんだ……!
ツモ。
[22256m 234789p 56s][ツモ牌 7s]
「リーチ!」
打、2m。
4-7m待ち聴牌。
追いついた。
前回と同じ展開となる。
ナオが捨て牌を強打し、
「今度はこの前みたいにはいかないさぁ!」
捲り合いに突入する。
ひらくのツモ。
打、6s。
「引けるか、当たるか……ドキドキする!」
ナオのツモ。
打、3m。
「そうさ! リーチ合戦は、いつでも燃えるんさぁ!」
ひらく、ツモ。
打、5m。
ナオ、ツモ。
麻雀卓に、牌を叩きつけた。
二索!
「ツモ!」
[345777m 345p 3499s][ツモ牌 2s]
「リーチ、ツモ、ドラ2。30符4翻は2000、3900点さぁ!」
東家 ふうろ 25000 → -3900 → 21100
南家 ひらく 25000 → -2000-1000→22000
西家 ひめる 25000 → -2000 → 23000
北家 ナオ 25000 → +7900+1000→ 33900
1位 ナオ 33900
2位 ひめる 23000
3位 ひらく 22000
4位 ふうろ 21100
―― 終 局 !!
「負けちゃった……」
「勝負は時の運ともいうさ。今回はたまたま、ひらくの待ち4-7mを抱えて、有利だっただけ。ドラ2枚の、いい追っ掛けリーチだったさぁ!」
「強くてワクワクする手役……リーチが麻雀の花形って意味がわかりました!」