麻雀ってなんですか!?
五月。
校舎の鐘が鳴る。
雀栄学園。広大な敷地を持つ、超絶マンモス校である。
「これが新しい学校……」
少女は校舎を見上げる。
愛嬌のある丸顔。栗色のミディアム外ハネボブ。同色の瞳。一般的な着こなしの、スクールブレザー。
「頑張れ、常盤ひらく……!」
校門をくぐり抜けた。
数日後。
季節外れの転校生。そう噂されたのも、初日くらいだ。
ひらくは、クラスに打ち解けていた。
授業。友人との雑談。放課後は帰宅。普通の学園生活を送っている。
「君が噂の転校生かい?」
誰かに呼び止められる。
……青いリボン、二年生……?
少女が強気な笑みを浮かべ、
「そう! 君より一学年上の先輩!」
「ど、どうして考えてることが……?」
「あたしの雀力をもってすれば、これくらいの読みは簡単さ」
「じゃ、雀力……?」
「ほほー、もう興味があるとは! 君には麻雀の才能があるなぁ!」
「ひぃいいいっ! 肩掴まないでください、怖いですぅー!」
一歩を下がる。
すると腕が、肩を抱き寄せた。
二年生のではない。いつの間にか、別の少女が真横に立っていた。
こっちは一年生だ。快活そうな顔つきで、
「なになに、部長と仲良くなったの? じゃーもう部員だよねー?」
「違います! あと腕で引くのやめて……!」
「引く!? 引くって麻雀用語じゃん! さっそく話題くれるなんて、めちゃ嬉しー! でもボクは押すほうが好きかなー?」
「なんの話ですか! こっちは泣きたいです!」
「鳴き!? ボクも鳴くの大好き、気が合うね!」
「ああ、ダメだ……だまってないと、変な解釈が無限に広がっていく」
「ダマ!? ボクはしないけど、それもいいねー! これだけ麻雀のこと語ったら、ボクたち雀士仲間だね!」
返す言葉を失う。
今度は背中を、支えられた。
三人目もいた。小柄な一年生が、両手で背中を押し、
「ここ目立つ。部室に……」
二年生が腕を組み、
「うん、そうね! 新入部員の歓迎会をするぞー!」
ひらくは、三人に連行される。
普通の学園生活が、終わりを告げた。
部室。
そう表現するには、あまりに簡素な空間だった。
ひらくは、周囲を見回す。
……椅子も机もない……。
こんな場所で、一体なにをするのか。
二年生が正面に立つ。
「あたしは立河直。中等部二年で、麻雀部の部長だ! まあ部といっても四人いなくて、まだ正式ではないけどね」
「だから私の勧誘を……」
「もうあらかた誘い尽くしてしまってね。転校生の君しか、残っていないんだ。今年はいい一年が二人も入ったし、なんとか部にしたいのさ」
「あ……だったら名義だけの、幽霊部員になります。部になればいいんですよね?」
「それだと三人で、卓が割れてしまうではないか?」
「ないか、と言われても……なんのことやら……」
他の一年生が、両腕を上げる。
元気少女のほうだ。
「ボクは更級ふうろ。よろしくね! 三麻もあるんだけど、麻雀は基本四人でするものなんだよ!」
「でも私、麻雀1ミリも知らない……ミリしらだから!」
「だいじょーぶっ! これから覚えればいいんだよ! 四人しかいないから、遊びたい放題だし!」
「うわぁ、すっごいポジティブ……」
ふうろが、ニカッと笑う。
もう一人の一年生が、ひらくに視線を向けた。
アンニュイな雰囲気を出し、
「闇黙秘。ひめるは……部にしてクーラーほしい。ないと夏を生きれない……」
「今から間に合うのかな」
「活動次第。だから貴女にも、麻雀してもらう」
そこでナオが一歩を踏み、
「どうやら話は、まとまったようだね?」
「なに一つ、まとまってません……!」
「なあに、麻雀を打ってみれば、君も部員になりたくなるはずさ!」
「で、でもどうやって麻雀を……?」
ナオが腕輪を見せる。
「雀リング! どこでも麻雀が打てる、優れものさぁ!」
雀リングを起動する。
「セットアップ! 雀牌!!」
麻雀卓が展開した。
「原点は25000点の一局勝負! 誰かが30000点以上になった時点で終局になるのさぁ! さてやるぞー、ふうろ! ひめる! それと……」
三人の視線が集まる。
ひらくも身構え、
「雀栄学園中等部一年、常盤ひらく!」
麻雀が広がる――