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 ここ数日は買い物三昧だった。衣類はもちろんだが、靴や鞄や小物に至るまで。そんな中に、ライナス用のウエイターユニフォームがあった。


「似合ってます!」


 開口一番、多希は興奮気味に感想を述べた。


 白いブラウスに黒のスラックス。そして白い腰エプロン。さすがに蝶ネクタイは買わなかったが、簡素なのに気品を感じる。


(さすが王子様!)


 ライナスはとにかく立ち姿、所作が美しい。イケメン、というだけではない生まれ育ちの良さが全身からにじみ出ている。これがなければ、多希も親切にしようなどとは思わず、迷わず警察に通報していただろう。


「そうかな」

「そうです! 女性客が増えそう~」

「兄上は城でも大人気だったから、客はいっぱい来ると思う」


 アイシスがすかさず言った。途端にライナスの顔に苦笑が浮かんだ。


「それは縁談目的で……いや、なんでもない」


 七歳のアイシスに言うことではないと思ったのか、ライナスは困ったように視線を逸らせた。


「それで、私はなにをしたらいいんだろう」

「ウエイターと呼ばれる給仕です」

「給仕」

「ライナスさんたちの世界にもいたと思います。えーっと、そういう職業は、やっぱりできませんか?」

「いやいや、やるとも。タキさんの役に立ちたいからね」

「僕もやる! タキのお手伝いする!」


「ありがとう、アイシス。助かるわ。具体的には、お客さんが来たら、席に誘導して、お水とおしぼりを運び、注文を取ります。それを私に伝えてもらって、メニューができたらお客さんのテーブルに運んでもらいます。で、精算して、見送ってもらって、テーブルをきれいにしてもらう、というのが一連の流れです」


 ライナスが、なるほど、と呟く。店を一望したら、もう一度、なるほど、と言った。


「どうですか? もし難しそうなら、掃除とか食器の片付けとか、そちらにしますか?」

「いやいや、大丈夫だよ」


 少し焦った感じなのが気になる。多希がライナスの顔をじっと見つめていると、当のライナスはなんだかあきらめたように話し始めた。


「言われたことができない、というわけではないんだ」


 多希は顔に大きな?マークを浮かべながら、わずかに首をかしげた。


「私は立場や性格から、人に愛敬を振りまくことが得意ではないから、接客に少々自信がない。長い目で見てもらいたい」


「無表情萌えもあるから、ぜんぜん大丈夫です。そういうウリで行きましょう」

「萌え? ウリ?」

「クールビューティなウエイターって萌えポイントの高い人気設定なので」

「…………」


 きっとなにを言われているのか理解できないのだろうと察しながらも、多希はニコニコと微笑み、よろしくお願いします、と頭を下げた。


「こちらこそ、よろしく頼む」

「ねぇ、僕はなにをしたらいいの?」


 会話がひと段落したからだろう。アイシスが割って入ってくる。


「アイシスはお店にいてくれるだけでいいわ」

「えーー、そんなのつまんないよ」


「客さんといろんなお話をしてもらったら充分だと思う。だけど、あなたたちの世界の話はナシよ。この世界では、異世界は空想の存在だから」


「それはわかってるけど……僕もお仕事したい」


「んー、そうねぇ。じゃあ、お料理のお手伝いをしてもらおうかな。お皿に盛りつけたり、飾ったり。飲み物をグラスに注いだり」

「わかった!」


 元気な返事をすると、アイシスは椅子からぴょんと跳ねるように飛び降りた。そしてテーブルの上にある皿を重ねてキッチンに運ぼうとした。


「いいのよ、アイシス、片づけは私がするから」

「僕の仕事に決めたんだ。僕が運ぶ!」


 自ら決めたようだ。システムキッチンの食器洗い乾燥機に食器を入れるだけだから簡単なことなのだが、アイシスはこの世界の文明の利器に興味津々らしく、洗濯機や掃除機など機械を使う家事をやりたがる。


 そしてそれが多希にとってとても助かるお手伝いだと感じたようなのだ。


「ありがとう、アイシス」


 多希の礼の言葉に、とてもうれしそうに照れ笑いを浮かべた。


「では、タキさん、喫茶店の掃除を始めよう」

「そうね」


 三人で店舗の掃除を始める。とにかく拭き掃除だ。調理場やテーブルはもちろん、棚や各テーブルに置くシュガーポット、店を飾る置物など。それからすべての調理道具や食器など、全部きれいに洗い直す。


 三時間ばかり没頭したところで昼になり、多希だけ手を止めて昼食に取りかかった。




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