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 ゲームコーナーでひとしきり遊んだあと、多希は二人を連れて携帯ショップに向かった。ライナスとアイシスにスマートフォンを持たせるためだ。回線を増やすだけだから手続きは多希一人でもいいが、どんな機種がいいかは本人に選んでもらう必要がある。


「わあ、かわいい!」


 アイシスはピンクゴールドのスマートフォンに目を奪われている。


「アイシスはキッズ向けって書いてるのを選んでね」

「兄上と同じのがいい」

「私はタキさんと同じものがいいが。使い方がわからなかったら、タキさんに聞けるだろう」

「あ、そうだね!」


 一理ある。ライナスに関しては賛成だが、アイシスにはキッズ向けがいいのに、と思う多希だが、確かにライナスが言うように、三人同じものを持っていれば操作はスムーズかもしれない。


(キッズ用なら操作方法を聞かれても答えられないかも……アクセス制限をかけたらいいのかな)


 結局、ライナスの言葉が採用され、多希が持っているスマートフォンを二台買い増し、増やした回線の内、一回線は子ども用としてアプリやアクセス先への制限を設定した。


 アイシスは自分専用のものが得られてよほどうれしいようで、さきほどゲームコーナーで手に入れたカプセルトイや、クレーンゲームで取ったぬいぐるみとともに握りしめている。


「タキ、次はどこに行くの?」

「カフェで一服しようかなって」

「カフェ?」

「そうよ。こっち」


 陳列に蝋細工の商品が並んでいる。それを見たアイシスは驚いたようにガラスに張りついた。が、これにはライナスも同様だった。


「これは便利だな。一目でわかる。我が国にもこういうものを取り入れたい」

「だったら今度、体験しに行きましょうか」

「えっ、これを私が作ることができるのか?」

「ええ。もちろん職人技術だから、こんなに凝ったものはライナスさんには作れないだろうけど。どうやって作られているかは、よくわかると思うわ。入りましょう」


 多希は店内に入り、店員に人数を伝えた。


 席に案内され、水と手拭きを出されて、またまたライナスが驚いている。


「お水と手拭きが出るのは日本の習慣で、この世界でも別の国ではないことが多いわ。これ、メニュー。好きなの頼んでいいからね」


 言いつつメニューを手渡す。


「タキさん、この黒いものはなんだ?」

「黒いもの?」

「これだ」

「あ、コーヒー」

「コーヒー?」


 ライナスが首を傾げる。ライナスの世界にはコーヒーはないのだろうか。


「コーヒーという木からできる豆を焼いて粉にしてお湯で味を抽出したものよ。味は苦みや酸味があって、すごく芳ばしい良い香りがするの。詳しいことが知りたかったら、スマホで調べたらいいわ」

「……そうか」


 一方、アイシスはホイップクリームがふんだんに盛られたパフェに興味津々だ。


「どのパフェにする? イチゴもいいし、チョコレートもおいしいし。ミックスフルーツもいいわけ」

「この緑色のは?」

「これは抹茶なんだけど。抹茶はどうだろう。アイシスにはまだちょっと早い気がする」

「どうして?」

「んーー、後味がちょっぴり苦い感じ? んーー、そうでもないかなぁ。でも果物の甘さはないかな」


 アイシスは写真をじっと見つめて質問を続ける。


「タキのお勧めは?」

「やっぱりイチゴかな。イチゴのアイスクリームがおいしいのよ。アイスクリーム、食べたことある?」


 多希は彼らの国へのイメージを十八世紀から十九世紀の西洋諸国と重ねていたので、凍らせるような冷たいデザートはないように思えて質問したのだが、予想通りアイシスはかぶりを振った。


「とっても冷たくて甘いのよ」

「冷たい……じゃあ、イチゴのにする」

「OK。ライナスさんは決まった?」

「私はやはり、このコーヒーなる飲み物を試してみたい」

「じゃあ、店員さんを呼ぶわね」


 多希が軽く手を揚げると、店員がやってきて注文を取ってくれる。そしてそれから間もなく、三人が頼んだものが運ばれてきた。


 アイシスがさっそくスプーンを手に取ってイチゴアイスをすくって口に入れた。同時にエメラルドのような緑色の瞳がランと輝いた。


「冷たくて甘い! おいしいっ。兄上、これ、すごくおいしい!」

「そうか」

「食べてよ」

「甘いんだろう? だったら私は」

「いいから!」


 興奮気味のアイシスに、ライナスは苦笑を浮かべ、言われる通り一口食べた。


「どう!?」

「確かに冷たくて甘いな。うん、なかなかうまい」

「でしょ!」


 言いながら、今度は色違いのアイスを口に入れた。バニラアイスだ。一心不乱に食べている姿が微笑ましい。


「ライナスさん、コーヒーはどう?」

「苦い」

「ははっ、そうね。砂糖とミルクもあるから」


 ライナスは多希が差しだした砂糖のスティックとミルクピッチャーをじっと見つめた。


「いや、やめておく。私の口にはこのままのほうが合いそうだ」

「そう?」

「砂糖でわざわざ甘くする必要はないし、ミルクはいいかもしれないが、どんな感じになりそうか想像できるので、比べたらこのままのほうがいい気がする」


 そこまで言うのだから、これ以上勧める必要もないだろう。


「気に入ったようなら家でも飲めるようにコーヒー豆を買いましょう。私はあまり飲まないから今はないけど、うちはもともと喫茶店だから、おいしいコーヒーを淹れるのは得意なの」

「そうか。ぜひそうしてもらいたい」

「お安い御用だわ」


 多希は言うと、自分が頼んだスフレパンケーキに視線をやった。



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